毎年2月になると女性たちが苦労するのがバレンタインチョコレートの手配だろう。外国のように男性が女性に花束を贈るのではなく、女性がチョコレートを男性に配る日本ではこの時期のチョコレート消費量が年間の約2割を占めるほどだという。最近では義理チョコ廃止の動きなども進んでいるが、本命チョコが他のものに置き換わることは当分なくならそうだ。

高級チョコレートから手作りチョコレートまで、どんなチョコにするか悩んでいるうちにバレンタインデー前日を迎えてしまった、なんて経験を持つ女性も多いのではないだろうか?またせっかく手作りするなら凝ったものにしたいが、なかなかうまく作れずに徹夜して当日朝に出来上がった、なんて話もよく聞かれる。男性にとっては多少形が崩れていてもそこに愛情がこもっていることを十分感じられるものだが、渡す側の女性にしてみれば完璧なものを渡したいと思うのが自然な気持ちなのだろう。

そんな手作りチョコ派の人にうれしい製品が間もなく発売される予定だ。それはチョコレートを立体的に"印刷"できる3Dプリンターである。3Dプリンターは細い線状の樹脂を溶かし、ノズルの先から押し出すことでプリンターに保存した図面通りのモノを自在に造形することができる。その樹脂の代わりにチョコレートを利用するのが今回発売になるチョコレート3Dプリンターだ。

海外の展示会でも積極的に3Dプリンターを出展する3D Systems(2015年1月のCES)

チョコレートを印刷できるCocoJet

チョコレート3Dプリンターはいくつかの製品が発売されてきた。だが今年発売予定の「CocoJet」は失敗知らずで確実に図面通りのチョコレートを印刷できる3Dプリンターだという。それもそのはずで、開発元はアメリカの大手3Dプリンターメーカーの3D Systems。そして老舗のチョコレートメーカー、ハーシー(Hershey)と提携して生まれた製品なのだ。

手作りしたことのある人ならわかるだろうが、チョコレートを溶かしてもその後の冷却がうまくいかなければきちんとした形には造形できない。ノズルの細さやチョコレートの溶融温度など、それぞれの分野でノウハウを蓄えている両者がコラボしたことで、完成度の高いチョコレート3Dプリンターが商用化できたのである。

チョコレート大手のハーシーと提携

本体横の大型のファンなど両者のノウハウが生かされている

CocoJetを使えば細かい模様を入れたり、相手のイニシャルをお気に入りの書体で印刷したチョコレートを作ることも簡単になる。しかも出来上がりの製品はハーシーのチョコレートだけに味のほうも万全だ。いずれはミルクチョコレートやブラックチョコレートなど、印刷用のチョコレートカートリッジも様々な味のものが提供されるようになるだろう。

ノズルからチョコレートを溶出し図面通りに立体印刷できる

チョコレートは円柱型のカートリッジで提供される

とはいえ手作りチョコを印刷するにはまず3D図面を書かなくてはならないが、これは一般の消費者には難しいだろう。だが恐らくCocoJet用の「チョコレート図面簡易作成アプリ」が登場するだろうから心配する必要はないかもしれない。スマートフォンの画面から形や模様、文字のスタイルなどを選んで組み合わせれば簡単にCocoJet用の図面を作成してくれ、それをCocoJetに転送するだけでチョコレートを印刷してくれる、そんなアプリを3D Systemsやサードパーティーが作成してくれるに違いない。 あるいはこのCocoJetを利用したチョコレートの代理印刷業者も出てくるだろう。スマートフォンで自分だけのオリジナルチョコレートをデザインして、箱やラッピングを指定して最後に住所を入力すれば、数日後はその業者から手作りチョコが届くという仕組みだ。実際のチョコレートの製造は業者のプリンターを使うことで、これが手作りかと言われると微妙なものかもしれない。だがデザインをじっくりと考える時間ができるわけだし、自分が思った通りのチョコレートが実際に本物の形になるのであれば、これも立派な手作りチョコレートと呼んでいいはずだ。

CocoJetの発売は2015年中が予定されている。日本での販売は現時点では未定だ。実は世界のチョコレート消費量を国別に比較してみると、日本は上位10位に入っておらずチョコレート需要はそれほど高い国ではない。とはいえ毎年のバレンタインデーの日本のチョコレート需要の急増は世界でも類を見ないものだ。日本中が熱狂の渦に巻き込まれるバレンタインチョコレートは、3D SystemsにとってもCocoJetを世界中にアピールする際の大きなプロモーション材料になるだろう。来年のバレンタインデー前にはCocoJetが日本でも発売され、スマートフォン片手に手作りチョコのデザインに悩む女性たちが多数出現しているかもしれない。