ドイツの通信事業者、E-Plusは「WhatsApp」専用のプリペイドSIMの販売を開始した。このSIMを利用するとWhatAppをデータ通信料金不要で利用できるという。FacebookやTwitterなどの利用者が拡大する中、各国の通信事業者が「ソーシャルSIM」の販売に乗り出している。

WhatsApp人気のドイツ、専用SIMが登場

今ではスマートフォン利用者のほとんどが毎日のように利用しているソーシャルサービス(SNS)。日本ではLineが圧倒的なシェアを保っているが、ヨーロッパではWhatAppの独占状態が続いている。例えばドイツでは90%のスマートフォンにWhatAppがインストールされており、アクティブユーザー数は3000万人を超えているという。

このようにSNS=WhatsAppという状況の中、ドイツの通信事業者E-PlusがWhatsAppの利用に特化した専用プリペイドSIMの販売を開始した。WhatsApp SIMの価格は10ユーロ(約1400円)。基本的な利用料金は同社が販売する他のプリペイドSIMと同等で、データ通信料金は0.24ユーロ/MB、すなわち10ユーロがあらかじめ入っている本プリペイドSIMでは約42MB利用できる計算となる。

ところがこのWhatsApp専用プリペイドSIMでは、WhatsAppでメッセージのやり取りを利用した際のデータ利用金はすべて無料だ。極端な話、スマートフォンでWhatsAppしか使わなければ料金がかからず使い放題で利用できるわけだ。

E-PlusのWhatsAppプリペイドSIM。ステッカーも付属する

日本ではあまり利用されていないプリペイドSIMも、海外では一般的に使われている。途上国や新興国では低所得者層を中心に、またヨーロッパなど先進国でも学生や海外旅行者向けにプリペイドSIMは広く販売されている。特に学生層にとっては料金が安上がりなプリペイドSIMの人気は高い。

とはいえSNS全盛の今、スマートフォンでデータ通信を利用する頻度も日に日に増えているのが実情だ。プリペイドSIMの安い料金でスマートフォンを活用するためにはデータ通信の利用量に気を使いながら、ショッピングセンターや家庭ではWi-Fiを使ってデータ通信課金を抑えるといった工夫をしているプリペイド利用者も多い。

海外ではプリペイドSIMは学生や低所得者に人気だ

しかし今回E-Plusが販売を始めたプリペイドSIMを使えば、日常のメッセージのやりとりにデータ通信費用がかかることを一切気にする必要が無くなる。これは通信事業者側にとっては一時的な収益減を引き起こし、データトラフィックの増大を招いてしまう。だがWhatsApp使い放題は他の通信事業者からユーザーを自社に引き込む呼び水となり、結果として加入者の増加と収益の増加が見込める。またデータトラフィックはメッセージサービスを対象に速度規制をかければその混雑も回避できるだろう。

アジアでも登場しているソーシャルSIM

ドイツで発売になったSNS専用SIMは、すでにアジアでも類似の商品が発売になっている。例えば中国のChina Unicomは2013年夏に中国で人気のサービス「WeChat」に対応したプリペイドSIMの販売を開始している。価格が安いこともあり販売開始時は数時間で完売、一時的に品切れになるほどの人気商品となった。

中国も人気サービスWeChat(微信)のプリペイドSIMが販売されている

またシンガポール、マレーシアなどプリペイドSIM利用者が多い国でもSNS対応のプリペイドSIMが増えている。アジアでは圧倒的に1つのSNSが強いということが無く、複数のSNSを使い分けている利用者も多い。そのためFacebookやTwitterなどいくつかのSNSを利用できるプリペイドSIMも販売されている。またプリペイドSIMにオプションでSNSパッケージを追加できるサービスを提供している事業者もある。例えばシンガポールのSingtelはFacebook、WhatsApp、WeChatそれぞれ使い放題のプランを6シンガポールドル(約500円)/30日で提供している。

SingtelのプリペイドSIM向けSNSパッケージ

SNSの中でもWhatsAppやLineなどメッセンジャー系のサービスは総称してOTT(Over The Top)と呼ばれ、データ通信回線を利用した音声通話にも対応たサービスの提供も始めている。そのためOTTは通信事業者が従来から提供するサービスと相対する、ライバル的な存在と見られてきた。

だがOTT側も通信事業者の回線無しではユーザーに利用してもらうことはできない。さらにはOTT企業同士の競争も激しくなっている。一方通信事業者にとって、データ通信利用の比率の向上とともに独自サービスが打ち出せなくなり、サービスのいわゆる「土管化」が進む中、他社との差別化も打ち出しにくくなってきている。

利用者を増やしたいOTT、加入者を増やすことでSNSサービス以外にも通話やSMS、インターネット接続などを使ってもらい、収益を上げたい通信事業者。両社の思惑が一致したソーシャルSIMは、SNS時代の新しいサービスとして今後各国に広がっていくだろう。