イギリスのVodafoneは8月20日、日本のドコモやアジア各国の通信事業者と業務提携することを発表した。国を超えた事業者連盟がいよいよグローバルに展開することになりそうだ。

Conexus Mobile Alliance各社とも提携

ドコモによると、多国籍企業向けの営業などで今後業務提携を行う予定とのこと。またドコモも所属するConexus Mobile Allianceに属する台湾のFarEasTone、香港のHutchison、フィリピンのSMART、シンガポールのStarHub、タイのTrueMoveの各社も同様の提携を進める予定だ。将来は国際ローミング料金の割引サービスなど、一般消費者にも目に見える形でのメリットが現れてくるだろう。

ヨーロッパではVodafone、T-Mobile(ドイツテレコム)、Telefonica/O2、Orange(フランステレコム)などの通信事業者が国を超えて事業を展開している。だが同じ事業者でも各国で通信料金は異なり、例えばイギリスのVodafone利用者がドイツでVodafone回線を国際ローミング利用しても料金はドイツ市内料金とはならない。人の往来が激しいヨーロッパだけに国際ローミング料金はビジネスユーザーを中心に頭の痛い問題だ。

そこでEUは国際ローミング時の音声通話に上限金額を設定する「EU Roaming Regulation」規制を導入。今年夏にはそれをデータ通信にも適応させる提言を行っている。最終的には2015年までに国内料金と国際ローミング料金の差を無くすことを目標としており、携帯電話料金にも国境が無くなる日がいずれやってくるかもしれない。

一方アジアでは2004年に香港のCSL、シンガポールのSingtel、韓国のSK Telecomなど10社がBridge Allianceを形成。Conexus Mobile Allianceはそれを追う形で2006年に結成されたのである。両アライアンスではメンバー事業者間での国際ローミング料金の割引や、SIMカード紛失時の現地再発行など国を越えたサービス提携を行っている。

Bridge Alliance事業者間ではローミング割引などを提供

今回のVodafoneとConexus Mobile Alliance事業者の提携で、それらのサービスが今後アジアを越えてヨーロッパ各国でも利用できる日がやってくるだろう。出張の多いビジネス層だけではなく、海外旅行者など一般消費者にもそのメリットは大きい。

グローバルキャリアには提携の歪みも

Vodafoneがドコモと提携したことにより、日本では旧Vodafone K.K.を買収したソフトバンクとの提携が終了となる。ソフトバンクはドコモに対しての海外関連事業の優位性を失う形となり、今後海外パケットし放題の料金で価格差が広がるなど事業への影響も少なからず出てくると考えられる。

だが今回の提携で割を食っているのはソフトバンクだけではない。海外展開にあまり積極的ではない日本の通信事業者はだが、Conexus Mobile Alliance内の各事業者はすでにグローバルに事業展開を行っており、Vodafoneと事業地域が重なる事業者も少なくない。例えば香港拠点のHutchison(ブランド名は「3」)は、イギリスなどを中心にヨーロッパでも事業展開を行っている。Vodafoneとサービス国はほぼ重なっており、Hutchisonグループ間での提携とVodafoneとの提携を調整する必要に迫られるだろう。

Hutchisonのサービス国。ヨーロッパではVodafoneと被る国が大半だ

またこれまで業務提携を行っていた香港のSmarToneやシンガポールのM1はVodafoneとの提携を11月一杯で終了すると発表。特に香港のSmarToneはブランド名称を「SmarTone-Vodafone」としており、これから2カ月の間に新規ロゴの作成、店舗の看板架け替えなどあわただしい作業に追われる。企業の顔とも言えるブランド名変更は「何かあったのか? 」と消費者にネガティブな印象を与えてしまいそうだ。そしてヨーロッパからの渡航客は香港内で「SmarTone-Vodafone」の赤いサインを見て店舗に立ち寄っていただけに、Vodafoneブランドを失う痛手も大きい。

SmarToneは戦略的提携を行っていたためロゴにもVodafoneの名称を入れている

とはいえ最終的には消費者に料金割引などのメリットが得られる事業者間の提携は歓迎できるものだ。今後はアメリカや中国など、渡航客の多い地域との事業者間協定が広がることを期待したい。