日本のPHS技術を利用した中国の「小霊通」がその役目を終えるようだ。中国では独自開発による3G方式「TD-SCDMA」のエリア拡大のため、周波数帯の重なる小霊通が廃止されることなる。

加入者減は止まらず、7,000万を割る

一時は飛ぶ鳥を落とす勢いのあった小霊通だが、"総加入者数1億到達"を前にしてから急減速している。2006年6月には全国で9,341万人に達した加入者数も、2007年末には9,000万台を割り込み8,454万に。そして2008年末には6,893万と一気に7,000万を割り込んだ。純減数も2007年が608万のマイナス、2008年は1,563万のマイナスと昨年だけで約2割の利用者減となっている。

この背景にあるのは携帯電話料金の低価格化である。地域によってはわずか数百円で利用できる携帯電話の基本料金も登場しており、小霊通をあえて利用するメリットがなくなりつつあるのだ。さらに端末の価格差も今ではほとんど無い。携帯電話は新品でも数千円台のものがあるうえに、最近問題となっている闇製造携帯は超低価格を武器にその数を急増させている。また中古携帯も豊富にあるので、数年前のハイエンド端末を中古で買い求める利用者も多い。

低料金、低価格端末が売りだった小霊通も、携帯電話にその座を奪われつつある

一方、小霊通の端末価格もユーザー数の減少に伴い、低価格携帯電話と変わらぬレベルに留まっている。また、端末はローエンドしかなく、グレードアップしようにも魅力に乏しい端末が多くなってしまった。また2005年に導入開始した"PIMカード"方式が端末コストを引き上げることになってしまい、端末価格の"下げ止まり"を引き起こしてしまっている。

小霊通はそもそも携帯電話を導入できない固定電話事業者が"固定電話の移動体版"として苦肉の策で投入したものだ。固定電話であることから国内ローミングすらできず、これが最大のデメリットであった。そこで導入されたのが"PHS版SIMカード"であるPIMカードだ。PIMカードの導入で他都市へ移動しても現地のPIMカードを購入すれば、同じ端末をそのまま利用することが可能になったのだ。日本でもウィルコム「X PLATE」がそのまま中国で利用できるのはこのPIMカード方式のおかげである。しかし実際には小霊通の利用者は低所得者が多く、他都市へ移動することも少なくPIMカードのメリットは広まらなかった。

また端末メーカーの撤退も相次いでおり、特にPIMカード導入後は中小の小霊通端末メーカーの多くが姿を消した。現在中国でシェアNo.1の小霊通端末メーカーは台湾のOKWAPとなっており、低価格が売りだった小霊通端末ですらすでに中国メーカーには競争する力がなくなってしまったのである。

画期的だったPIMカード(右)の登場

移動体通信の利用者を大きく増やした小霊通

このように小霊通は今後黙っていても規模縮小に向かうことが予想されていた。しかし中国最大手の事業者"中国移動"が展開する3Gシステム"TD-SCDMA"と利用する周波数帯が同一であることから、その受け渡しが必要とされていた。ライバルとなる"中国電信"と"中国聯通"としては周波数帯を渡さずに、小零通を中国移動のTD-SCDMA拡大の防波堤とすることもできる。ただTD-SCDMAは国策として開発したこともあり、中国全土へのエリア拡大のためには遅かれ早かれ小霊通の周波数帯を明け渡す必要がでてきただろう。

また中国電信、中国聯通は今後携帯事業の本格展開が必要なため、収益増も見込み難い小霊通への投資を続けていくことはメリットが無い。特に今年1月には3G免許が正式発行され、中国電信はCDMA2000 EV-DO、中国聯通はW-CDMAへの投資が必要となる。固定電話利用者も毎月減少していることもあり、携帯電話事業へより注力していくことになるだろう。毎月流出している小霊通利用者はほとんどが中国移動の携帯電話へ流れていることから、その対応も急を要している。

このように今後は廃止を待つだけとなりそうな中国の小霊通であるが、その功績は大きい。なによりも携帯電話の料金が引き下がったのは小霊通が大都市を中心に各都市で展開されたからだ。携帯電話の片方向課金(従来の発着信課金から、発信のみ課金)が開始されたのも小零通の影響だ。移動体通信の料金引き下げは小霊通の存在があったからこそ実現されたのだ。

また低所得者でも手軽に移動体サービスを受けられるようになった功績も大きい。小霊通が提供されている地域では固定電話とセット契約も行われており、世帯主が固定電話を持っていれば子供やお年寄りにも外出中の連絡手段を安価に持たせることができる。

数年後には中国も3Gの普及が進んでいるだろうが、その背景には小霊通が多くの功績を残していったことを記憶に留めておきたいものだ。