2月に開催された「Mobile World Congress 2008」では、Sony Ericssonが投入した新機種が大きな話題となっている。中でもWindows Mobileを搭載した「XPERIA X1」はこれまでの同社の端末ラインナップには無かった新しいカテゴリの製品だ。XPERIAを投入するSony Ericssonの意図はどこにあるのだろうか?

「XPERIA X1」。通常の操作には独自UI「XPERIA Panel」を利用する

「OS」ではなく「体験」が重要

XPERIA X1はその何もかもが高い注目を浴びている。特に、OSとしてこれまで同社がスマートフォンに採用していたSymbian OS/UIQではなく、Windows Mobileを採用したことを同社のプラットフォーム戦略が大きな方向転換期を迎えたものと見る向きもある。確かにXPERIA X1にはWindows Mobileの標準アプリケーションがプリインストールされており、Windows Mobileスマートフォンとしての利用も可能だ。Office系アプリも揃っているため、ビジネスでの利用にも対応している。

しかし、同社におけるXPERIA X1の位置づけは「高機能スマートフォン」ではない。インターネットへのアクセス性やインターネットサービスとの融合、また各種メディアファイルの利用、そして視覚的に使いやすいUI(ユーザーインタフェース)を搭載した、新概念の「マルチメディア+エンターテインメント+インターネット」端末である。操作も通常はWindows Mobileの標準UIではなく、XPERIAの専用UIである「XPERIA Panel」を利用する。指先だけでも簡単に利用できる同UIを利用する限り、XPERIA X1がWindows Mobile端末であることに気がつく人は少ないだろう。

すなわちXPERIA X1はWindows MobileをOSに採用しているものの、それはベースOSとして採用したということに過ぎない。ユーザーによりリッチな「体験」を提供したい、それを実現するためにXPERIA PanelをUIとして搭載し、そのUIのベースプラットフォームとして今回はWindows Mobileを採用した、ということなのだ。よってXPERIA X1だけを見て同社のOS戦略が方向転換した、と考えるのは早計だろう。

エンタープライズ向け端末の将来像は?

ただし、Windows Mobileをベースに採用したメリットは大きい。各種メディアファイルへの対応やネットアクセスなどでの優位性は、すでに同OSを採用した多数の市販スマートフォンが証明している。Sony EricssonはXPERIAシリーズのOSとして、あえてWindows Mobileだけにこだわることはないとしているが、同OSをベースにした端末は今後もシリーズ内のラインナップの主力に位置づけられていくことだろう。

さて、同社のサブブランドはこれで「Walkman」「Cyber-shot」に引き続き3つめとなる。しかしいずれもマルチメディアやエンターテインメント寄りにフォーカスしたものだ。一方、ビジネス・エンタープライズ向けの製品にサブブランドは持たず、現行モデルはUIQスマートフォン「Pシリーズ」の「P1」1機種のみである。他社がビジネス向け端末を強化しつつある中、同社の製品ポートフォリオがエンターテインメント寄りに偏っている感は否めないだろう。

Mobile World Congress 2008で新しく発表された「Gシリーズ」は、普通の携帯電話の形状ながらも中身はUIQスマートフォンという、スマートフォン利用者の裾野を広げる製品になりそうである。ただし、一般ユーザーやビジネス層のライトな利用を視野に入れた製品であり、多機能スマートフォンという位置づけの製品ではないとのことだ。Gシリーズの投入は、空白のあったビジネス向け製品の隙間を埋めるものにはなりそうだが、ハイエンドクラスのモデルを拡充することも今後早急に求められてくるのではないだろうか。

見た目は普通の携帯電話なGシリーズはUIQスマートフォンであり、タッチパネルを採用。誰もが手軽に利用できる「より多機能な携帯電話」を目指している

そうなると今後はWindows Mobileを搭載し、XPERIAのように独自のUIを載せたエンタープライズ向けの新しいモデルが登場する可能性も考えられるだろう。あるいはXPERIAにBusinessシリーズがラインナップされることもあるかもしれない。逆に、Windows Mobileの標準UIをそのまま利用する製品は、他社のスマートフォンと直接競合するため、出てくることは考えくいのではないだろうか。

すなわち、OSにはこだわらず利用しやすい製品をユーザーに提供する、という同社の方針がXPERIA X1に現れているわけだ。この方針は同社の製品をより充実したものとし、結果としてシェア増加に確実に寄与するものになるだろう。製品別にOSを使い分けていく戦略がうまく成功すれば、Sony Ericssonの躍進は今年も期待できるものになりそうである。