弊社刊行の雑誌「Web Designing」で連載中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。

連載第10回が終わり、続いて第11回目の原稿が届いたとき事件は起きた。正確には第11回目は誌面で知ったのだが。いつもであればWeb Designing誌が発売される少し前に連載記事執筆用のPDFが届くのだが、今回はなぜか来ない。なんとなく不穏な空気を感じていた。その時は、「まだ遅れているだけだろう」という認識があっただけだったが……。

雑誌「Web Designing」より

第11回目の作品は「休載」とだけ書かれたテキストが大きく表示されているのみであった。休載の文字が、コラム的な感じで文章となって構成されている。まず疑うべきは、「今回はは本当に休載なのであろうか?」という点だ。アーティストの中には、「もう書けません」という文字を書いてイラストにしてしまうような人がいる。今回はそんな流れを汲むアート作品なのかもしれない。また、どこかに仕掛けが仕組まれているのかもしれない。

まず思い当たるのは空白の処理だ。世界は実に広いもので、空白文字だけで作られたプログラミング言語というものが存在する。その名もWhitespaceというもので、スペース、タブ、改行の組み合わせで命令を構成する。

よく見てみると、Helloと出力するプログラムが、一見何もないテキストに書かれているのがよくわかる。これに違いないと思い、テキストエディタで改行を調べてみた。ちょっといいテキストエディタになると、改行や空白文字、タブといった見えない文字を表示する機能があり、見分けることができるのだ。試しにMacのCodaというエディタで表示してみる。このエディタ上では、「.」は半角スペース、「→」はタブという形で表示される。つまりこれらが交互にあったりしたら怪しいというわけだ。

しかし、実際見てみると、Whitespaceで書かれてはいないらしい。見当違いだったようだ。では、一体どういうメッセージが込められているのだろうか?

ひとつのポイントとしては、H1タグによって「休載」のテキストが囲われているという点が挙げられる。このH1タグ、今日のWebデザインにおいて最も重要なタグといってもいいポジションを獲得しているのだ。実はH1タグというのは昔は嫌われ者のタグであった。というのも、昔はH1でテキストを囲うと、必要以上に文字が大きくなり、ださくなったからだ。その結果、H1タグを使わないサイトばかりが増えていった。

そんな歴史を経て、スタイルシートによるH1タグのコントロールが可能になってくると、様々な工夫を通してH1タグが使えるタグになっていくことになる。人々がH1タグに目を向けたのは、なんと言ってもSEO(Search Engine Optimization)の注目が大きいと言えるだろう。Googleをはじめ検索エンジンの多くが、文章構造をきちんと把握し、コンテンツの重みによって検索の優先順位を決め始めたのである。

その中でもH1でマークアップされた情報はページ内でも重要な情報として検索エンジンに認識された。その結果、検索エンジン対策としてH1にはひっかけてほしい単語を入れるなどという現象が巻き起こった。

ところで、H1タグはHTMLのタグでも最古参の部類に入る。HTML1.0の後に呼ばれることになる仕様は、1993年6月に、IETFのIIIR Workingグループより提出されたもので、この時すでにH1タグが存在している。この頃既にH1からH6までの見出しは存在しており、イマドキな話をすると、HTML5のインタラクション系な要素として仕様に挙げられているMENUタグというのも、この頃には存在していたりする。

ちなみに、この仕様書によるとH1の見栄えは、以下のようになっている。


Bold very large font, centered. One or two lines clear space between this and anything following. If printed on paper, start new page.

このように定義されており、太字で大きいという表現スタイルは現在と変わらないのだが、中央寄せがデフォルトだったのだ。もしかしたらこのような見栄えになる大昔のブラウザで閲覧したら、中央寄せになって違う文字として別のメッセージが見えるのかもしれない。

実はこの原稿はエキソニモ休載のお知らせより2カ月後の後に執筆している。そう、筆者も休載してしまったのだ……。

※この記事は、『Web Designing』2010年10月号に掲載された「エキソニモのView-Source」の解説記事です。『Web Designing』本誌とあわせてお楽しみください。