SAPシステムの不変的優位性

最近、「クラウド」という言葉を聞かない日はない。その前は「SOA」という言葉だった。これらの技術トレンドは、SAPシステムへ影響を及ぼしているのであろうか。

これに対する回答は、"密接に連携した業務機能"から、"柔軟性"や"疎結合"へというマーケットに対するSAPのメッセージの変化に現れている。今や、ITSサーバやEnjoySAPは過去の遺産だ。BASISはどうだろう。当然ながら技術は進歩するものであるし、IT製品は進化するものだと考える。ITの側面で考えれば、SAPシステムもシステムアーキテクチャは変化している。NetWeaverの概念とXI(PI)の登場はそれだけインパクトのある動きだったのだ。

それ以上に大事な点は、SAPシステムの本質が経営者のためのシステム、つまり経営ツールであるがゆえにマーケットの支持を得た、ということだ。もし仮にSAPが「マルチランゲージ対応、マルチカレンシー対応がERPである」「統合データベースをもつことがERPである」と定義していたのであれば、企業向けシステムの業界勢力図はまったく異なる様相を呈していただろう。

SAPシステムが持つ業務シナリオ("ベストプラクティス"と称していた)を評価する。それにより、内在するKPI並びにKPIツリーが経営に貢献することを理解した企業はパフォーマンスを上げている。

システムアーキテクチャや業務部門に対するITサービスの提供方式と、経営システムは分けて捉えるべきである。経営視点からのSAPシステムへの期待は依然として強く、不変である。SAPシステムが優位性を損なうとすれば、導入の方法だろう。

ツールの本質が変わらない中で、SAPコンサルに対する市場価値、市場の評価は変化しているのだろうか。過去の歴史から検証していきたい。

SAPコンサルの"価値"の変遷

経理SEのスキルチェンジ

SAPシステムが登場した当初 - 今から10数年前 - もっとも影響が大きかったのは経理システムを開発していたSEだった。COBOLというプログラミング言語と簿記2級相当の知識があれば十分に務まったものが、そのうちまったく異なるスキルが求められるようになったのだ。その結果、「SAP資格を取得すると年収がxxxアップするようだ」という噂がたったものだった。システム会社から会計監査法人に転職するエンジニアもたくさんいた。

大規模プロジェクトマネージャの需要

また、プロジェクトマネージャの責任範囲や役割にも変化が起こった。プロジェクトは、部門単体の業務システムの開発から複数部門横断の業務をスコープとしたシステム開発へと変化したし、導入方法は、業務部門の要求を外部仕様書(基本設計書)に定義してエンジニアが開発する手法から、業務部門と共同で導入する手法へ変化した。結果、プロジェクトの規模が格段と大きくなりプロジェクト推進上の方法論も変わることになった。プロジェクトマネージャの役割が一段と重要になり、SAPは会計監査法人の協力により、米国でASAPという方法論を誕生させた。

市場価値は需要と供給で決まる

ERPの認知度が低いという時代背景があった1990年代は、SAP製品を理解しているコンサルタント(SAP製品コンサルタント)であれば価値がある時代だった。業務知識が十分でない、あるべき業務設計ができない、また会計士と会話ができなくとも、SAPのシステム機能をプロトタイピングすれば何とかSAP導入プロジェクトは進行した。

2000年以降、SAPは自社以外にもパートナーの協力を得てトレーニング教室を設置し、SAP認定コンサルタントを養成した。「SAP製品コンサルタントの希少価値」という時代は幕をおろした。

これからのSAPコンサルタント

コンサルティング業界に働く先輩諸氏は、若手コンサルタントに「コンサルタントは精神的満足の大きい仕事である」「脳みそに汗をかき、クライアントのために考え抜け」と指導する。コンサルタントの普遍的価値は、クライアントの企業価値を向上させることである。実行手段(HOW)のひとつがITの活用だと考えた場合、SAP製品だけで構成するITを導入するのであれば"SAP導入プロジェクト"になるし、SAP製品とそれ以外のITとの組み合わせで構成されるのであれば"SOAプロジェクト"と呼ばれる。

よくよく考えてほしい。たとえば、製造業の業務(R&D、調達、生産、販売、物流、サービス、経理、人事)すべてにおいてSAPシステムを活用する企業はそれほどない。元来、企業システムはSOA志向なのだ。SAPソリューションの適用範囲を定義し、効果算出する作業は変わらないが、それを適用しない場合の選択肢は広い視野で検討する必要がある。

「脳みそに汗をかけ」は、サービス指向コンサルタントと同義であり、ここにコンサルタントの市場価値を見出すべきである。

執筆者紹介

泓秀昭 FUCHI Hideaki

日立コンサルティング ディレクター。日本の大手情報機器製造・SI企業を経験後、SAPジャパンにて、プロジェクトマネジャーとして複数の大規模プロジェクトを手掛ける。コンサルティング部門の部長に就任後、主に製造業のお客様に対し、SAPジャパン主導によるプロジェクトを複数統括する。その後、日立コンサルティングに入社、現職に至る。