昼と夜とでは、ヒトの精神の在り様にどれほどの変化があるんでしょうか?

夜食ってなんであんなに美味しく感じるのか……。夜に仕事がはかどるっていうのは本当なのか? 仲のよいお友人と夜中におしゃべりするのは楽しく、明け方は何を言ってもおかしい状態になったりして。夜に書いたメールを朝読むと、なにか違った印象になってたり……。

昼と夜、ヒトの精神には何が起こっているんでしょう。

フリーで仕事をしている人は夜型が多いのではないでしょうか。フリーではなくともデザイン会社や広告、編集、ウェヴ関連の会社にお勤めの方も夜型、いや、最近は残業手当もつかないから、そんなことないんですかね。いずれにせよ、イメージする創造する力を発揮しなければいけない、そんなクリエイティブに携わってる人は夜型の方は少なくないのではないでしょうか? ぼくも長らくそうでした。マンガはとても昼には描けなかったです。夜のほうが落ち着いて「自分の世界」に集中しやすいと考えていました。

諸説ありますが、夜には脳にアドレナリンなどがでていて、興奮し、情熱的になっているといわれています。カンやヒラメキの脳波、α波というのも、夜のリラックスした時間帯に出ているといわれています。約五千年の歴史を誇るインドの伝承医学では、人間は1日のなかで4時間ごとに、カパ(重く静的)→ピッタ(知的で情熱的)→ヴァータ(軽く動的)を2回サイクルするといいます。それでいくと、22時から2時の間、深夜にあたる時間帯はピッタ(知的で情熱的)ってことになります。ピッタに書いた手紙を翌日のヴァータの時間帯に読んじゃうと、その情熱が妙に恥ずかしかったり、ってことでしょうか。

中学生の頃の話ですが、期末テストに備えて深夜勉強をしていて、ラジオの放送も終わって、なんだか妙にしーんとした気持ちになって、寝静まった夜の町に遠くで犬の声がきこえたりなんかして、ふと「今頃、みんなも明日のテストに備えて徹夜で勉強しているんだろうか…」なんて思って、友達の部屋に明かりが点いてるかどうか、非常識な時間だったけど、確認しに外に出かけたことがある。いつもは賑やかな商店街はがら~ん……、コンビニもない時代だったから、電柱の灯りと、たまに自販機の人工的な灯りだけ、しーんとしてる。遠くの川の音がこんなところまでよく聞こえる。自販機で缶コーヒーを買ったら、ガタンと大きな音が響いた。小一時間程、夜の町を徘徊し、何人かの友人の家の部屋の灯りを確認して、ぼくはホッとした気持ちになって、部屋に戻り勉強を再開した。ちなみに、家の出入りは玄関を使うと両親にバレてしまうので、できるだけ音をたてないように、二階の窓からトタン屋根を渡り地面に降りた。家の出入りが一番緊張し、体が火照った。音をたてないようにするということは、なんと全身の筋肉を使う事か! その後、この妙な行動が日課になってしまった。毎夜、『夜回り』と称して小一時間程、夜の町を徘徊するようになったぼくは、数日後、ほんとに夜回りしてる警察に補導され、その日課も終わった(両親は心配しただろう)。だけど、その期間、ぼくの精神はノイローゼだったと一言で片付けてはいけない。夜の孤独と緊張、友人の灯りを確認する安堵感が絶妙な間合いで繰りかえされ、魂はうっとりとした情感に満たされていて、とてもバランスのよい状態だったとも思う。学校のテストの点はよくなかったけど、これから物作りに携わる精神に、イメージし創作してゆくことに、いくぶんかの力こぶをつけていったのではないかと思う。

夜に深く精神を沈めてゆくことは大切なことだと思います。

健康を害するリスクもあるけど、情熱やヒラメキ、狂気に出会わないクリエイションはあるんだろうか。自分の世界に深く潜り豊潤なイメージを沸き立たせ、且つ、社会に開いてゆき接続させる。閉じつつ開くクリエイションを日々こなし、それを生活の糧にしてゆくのは相当な高等テクニックが必要なんだと思う。アプリケーションを使いこなすのとは分けが違う。さあ、この『夜中のサバイバル』では、そんなクリエイターに本当に必要な役に立つ、この先最低20年は持ちこたえるような心のチップスをお届け、いや、お届けって程、ぼくは何もまだわかっていないけど、物作りに携わってきて、それなりの知恵はついたつもりなので、読者とともに分かち合い、より考えを深めて、よりよい「クリエイティブ」が出来るようになれたらと思っております。

ちなみに今回テーマは、夜型をオススメしてるわけではありません。いきなり裏切るようなこといいますが、ぼくは今朝型で、起床してから午前中から午後にかけての、インドの伝承医学でいうカパからピッタの時間帯に仕事をするようになりました。その件についてはまたの機会に譲ることにいたしまして、今回はこのへんで! ではまた次回に。

タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。