Uberの成功以来、モバイルとシェアリングを融合したようなビジネスが「Uber for X (○○のためのUber)」と呼ばれるようになったが、「GitHub For Eco-Housing (エコハウスのためのGitHub)」と呼ばれるプロジェクトが登場した。独立記念日(7月4日)にKickstarterプロジェクトがスタートした「Open Building Institute: Eco-Building Toolkit」である。

これはMarcin Jakubowski氏とCatarina Mota氏のプロジェクトで、2人は2年前にニューヨークのブルックリンからミズーリ州に引っ越し、自然の中で自分たちの手でエコハウスを設計して組み立てた。最初はとりあえず生活できる場所を作るために144平方フィートのミニハウスから始め、最終的な目標は大きな家だったからLEGOブロックのように決まったパーツで増築できるようにデザインした。そして独立したベッドルーム、ポーチ、書庫、オフィス、ゲストルーム、倉庫、グリーンハウスと増築し、1年半後には2,000平方フィートの家が完成した。家一軒を建てるにはいろんな材料を調達し、技術を覚え、たくさんの許可を取得しなければならなかった。でも、全てを一から調べ、試行錯誤するから時間と手間がかかるだけで、ノウハウがあれば、かなり楽に実現できる。そこで自分たちの手でエコハウスを作り上げた経験と情報、データを、オープンソースのやり方で多くの人たちと共有しようと考えた。それがOpen Building Institute (OBI)である。ちなみにMota氏はOpen Source Hardware Associationの創設メンバー、Jakubowski氏はOpen Source Ecologyの創設者で、二人ともTEDフェローである。

自分たちの手でエコハウスを建てたJakubowski氏とMota氏は、2014年にソーラーパネルを備えた小さなCEB(Compressed Earth Block)ハウスからスタート

OBIでは、誰でも自由にアクセスできるライブラリやドキュメントが公開されている。この場合のライブラリは、エコハウスの構造や設計のデータ、屋根や壁といったモジュールのデータ、パネルや板といったパーツのデータなどである。公開されているデータを「Sweet Home 3D」というオープンソースソフトに読み込ませて、OBI準拠の家をデザインする。これらのデータを使うだけではなく、OBIの要件に従っていれば、自分たちで改良したデータをライブラリで共有してコミュニティに貢献することもできる。

ドアや壁といったモジュールやパーツのデータが公開されているOBIのライブラリ

ライブラリのデータをSweet Home 3Dに取り込んで設計・デザイン

Kickstarterプロジェクトでは、OBI準拠のエコハウスをもっと誰でも簡単に建てられる仕組みを実現しようとしている。デザインの幅を広げるモジュールやパーツの開発。基本モデルとなるスターターホーム(700平方フィート、材料費25,000ドル)のプロトタイプ作り。様々なデザインの共有と設計をクラウドソースできる仕組み作りなどだ。そしてもう一つ、ワークショップ・プログラムを用意する。Jakubowski氏とMota氏のように友達に手伝ってもらって自分たちの力でエコハウスを建てることもできるが、35人以上のプロが建築に携わればスターターホームは約5日で建てられる。素人でもエコハウス作りの基本を修得しておけば、より効率よく完成できる。ゆくゆくはOBI準拠のエコハウスを建てたいという人が、どこに住んでいてもOBIのことを知っているプロを簡単に見つけられるのが目標だ。プロに建築を頼んだとしたらプラス10,000ドル程度。それでも同じような家を購入するよりも安く、そして自分たちのニーズを全て反映させた家を手に入れられる。

トランスフォームする家具「Ori」

11日にはMIT Media Labのプロジェクトから誕生したスタートアップOriが開発中のスマートインテリアシステム「Ori System」を公表した。狭いワンルームが贅沢な空間に変わると同社はアピールしている。どういうことかというと、まずは紹介動画を見ていただくとイメージしやすい。

見た目は巨大な棚のようなOri Systemには、MIT Media LabのCityHomeプロジェクトで培われたロボティクス技術が組み込まれていて、ボタン一つでスムースかつダイナミックに移動したり形を変える。また、ベッド、ソファ、机、テレビ台、クローゼットなど、様々なユニットを組み合わせてユーザーが構成をカスタマイズできる。ベッドルームだった部屋がOriを移動させるだけで広いリビングルームや仕事部屋に変わったり、ワンルームにクローゼットルームが現れたり、構成を工夫することで限られたスペースを有効に活用できる。Oriはモーションセンサーを使った操作インターフェイスをサポートし、またスマートフォンやタブレットなど他のスマートデバイスとも連動するそうだ。発売予定は2017年前半。一般向けのほか、ニューヨーク市やシリコンバレーのような住宅コストが高い地域の開発プロジェクトでの採用も目指しているという。

Ori System(出典: Ori)

大きな家に住んで、どこに行くにも車を使うというのが、アメリカ人の暮らしに対するこれまでの一般的なイメージだったが、最近は密集した都市に住み、車を持たずにカーシェアリングサービスやその他のUber for Xサービスを活用してコンパクトに暮らすのを好む人たちが、特に若い層で増えている。だから、限られた空間を有効活用するOriのようなアイディアが話題になる。また、そうした効率的な暮らしを好む人たちが家を持とうとした時に何を優先するかと考えると、コミュニティでアイディアを共有し、できる範囲からこつこつと建て増しできるOBIは格好の受け皿になりそうだ。Kickstarterではガジェット作りには資金が集まりやすいが、OBIのようなプロジェクトは苦戦する。だから、最初OBIのKickstarterページを見た時に目標金額80,000ドルは難しそうに思えた。ところが、あと22日を残した時点で早くも支援が40,000ドルを突破した。人々の暮らし方が変われば、「住」も変わるということだろう。