Appleが1月26日に発表した10月~12月期決算は過去最高の売上高を記録したが、iPhoneの販売台数が前年同期比で微増、さらに1月~3月期について売上減となる見通しを示したことで、むしろ減速感が危ぶまれる結果になった。

しかし、iPhoneの失速を判断するのは早計だと思う。ブレーキがかかっている可能性は否定できないものの、2014年9月に発売されたiPhone 6シリーズがiPhone全体でも記録的な成功であったため、昨年のiPhone 6sシリーズが微増でもスゴいと言わざるを得ない。iPhone 6シリーズはホリデーシーズンに予想を上回る需要で、製造が追いついてきた1月~3月期も好調に売れ続けた。その勢いの再現をiPhone 6sシリーズに求めるのは酷というものだ。iPhoneはAppleの売上高の70%近くを占めているので、iPhoneの販売台数減がApple全体の売上減となって現れるが、3月期の売上減=iPhoneの減速は必ずしも当てはまらない。

下のグラフは、iPhoneの販売台数の推移(棒グラフ)に四半期の移動平均(折れ線グラフ)を重ねたものだ。昨年度と今年度ではなく数年のスパンで見ると、iPhoneは伸びを維持している。12月期の横ばいが減速の始まりか、それともiPhone 6シリーズの桁外れの成功の影響であるかは、もうしばらく様子を見る必要がありそうだ。

iPhoneの四半期ごとの販売数の推移と移動平均

個人的に気になるのはiPhoneよりもiPadである。販売台数が1612万2000台で前年同期比25%減。売上高は70億8400万ドルで同21%減だったが、下落が問題なのではない。iPadは2年前から下落傾向が続いており、12月期も二桁の減少であるのは予想されていた。問題は、昨年11月に発売開始になったiPad Proが、その存在意義を示せずにいることだ。

iPadの四半期ごとの販売数の推移と移動平均

iPad Proは価格が高く、爆発的に売れるような製品ではないが、プロフェッショナルのニーズを満たす性能と機能を備えている。つまり、プロユーザーを開拓する製品であることに意義がある。ところが、プロ向けの価格、iPad AirやiPad miniとは一線を画す性能を備えているのに、iPad ProにはFinal Cut ProやLogic Proに相当するようなプロ向けのアプリが存在しない。”Pro”を冠するのにiPad Airやminiと同じアプリを同じようにしか使えないから「大きすぎるiPad」と揶揄されたりもする。

プロのユーザー規模は大きくはないから、プロユーザーを開拓しても市場の活性化にはつながらないと言う人もいる。しかし、プロユーザーが高性能・高機能なマシンを使いこなすことで、やがてプロユーザーのタブレットの使い方が一般ユーザーに広がっていき、そしてタブレットの価値が変わっていく。

プロ向けアプリの適正価格は?

Web開発ツール「Coda 2」を提供するPanicが「The 2015 Panic Report」の中で、iOSアプリ市場に関して興味深いコメントをしている。同社はiOSアプリの伸び悩みの打開策として、2015年にiOSアプリ製品の価格をApp Store市場のスイートスポットの上限である9.99ドル、またはそれ以下に値下げした。ところが、期待したほどのインパクトを得られなかった。

「そこで、単純に我々はiOSに適していない種類のアプリを作っていたのが原因ではないかと考えるようになった。つまり、iOSプラットフォームでは需要のないプロ向けツールを我々は開発していた。価格が問題だったのではなく、ユーザーの関心が存在しなかったのだ」(The 2015 Panic Report)

さらに分析を重ね、そしてPanicは2016年にiOSアプリの価格を引き上げることを決めた。規模は小さくても、Coda for iOSやTransmit for iOSを必要とし、そしてPanicが開発に注いだ努力を理解してくれるユーザーが存在すると信じ、そうしたユーザーに向けて価格に見合った価値を提供するそうだ。

高いアプリはApp Storeで苦戦すると言われるが、果たしてPanicは売上を伸ばせるだろうか。個人的には伸ばして欲しいと思う。プロ向けツールに関心を持つユーザーが少ないという理由で、Codaのようなアプリが消えてしまうのはあまりにももったいない。 Codaのようなアプリがなければ、モバイルデバイスはいつまでもPCを頼り続け、タブレットは独り立ちできないままである。

プロユーザーの規模が小さくとも、iPad Proのような入力しやすく画面の広いiPadで開発者やクリエイターが作業を行うようになることで、より専門的なタブレットの使い方に興味を持つ人が次第に増えていき、そうしたユーザーを狙ったアプリやサービスが増えていく。iPad Proがそんな広がりのきっかけになってこそ、将来のiPad市場の見通しは明るくなる。問題は、規模の小さなプロユーザーのニーズを満たすiOSアプリが登場するか、どうか。状況は待ったなしであり、2016年にプロ向けのアプリが登場しなかったら、プロ向けツールの需要がないままの袋小路に迷い込む可能性だってある。だから、まずはAppleがFinal Cut ProやLogic Proに相当するようなプロ向けのiOSアプリを提供するべきだと思う。