「iOSのデフォルト検索エンジンの契約更新に、GoogleはAppleに10億ドルを支払った」「GoogleのAndroidから得た売上高の累計は、わずか310億ドル」と、GoogleとAndroidにとって不都合なデータが漏洩した。しかし、Google株が下落することはなく、時価総額でAppleに追いつきそうな勢いを維持している。なぜか? 背景にはモバイルアプリ時代の次への期待感がある。

Bloombergの報道によると、iOSのデフォルト検索エンジンの契約を更新するために、2014年にGoogleはAppleに10億ドルを支払った。

Bloombergの報道によると、GoogleのAndroidから得た売上高の累計は310億ドル、利益は220億ドルだった。

これらはGoogleと米Oracleの間で争われているJava関連訴訟の裁判記録から明らかになったとしてBloombergが報じたものだ。Googleは裁判において公表していない情報の不開示を求めていたが、14日に公開された裁判の記録にOracle側の弁護士が「弁護士のみ」と指定された情報を含めたという。20日にGoogleは裁判所に非公開化を求め、同日に裁判の記録が取り下げられた。

実際、この2つはGoogleにとって不都合な情報である。1つは、Androidを開発するGoogleが10億ドルの価値を認めるほどAppleを頼りにしているということ。もう1つはAppleのiPhoneからの売上に比べると、GoogleのAndroidからの売上が小さいこと。310億ドルは非常に大きい金額ではあるものの、Appleは2015年の7月~9月期だけで322億ドルもの売上をiPhoneから上げている。もちろん、広告販売であるAndroidからの売上とハードウエア販売であるiPhoneの売上を同じように比べることはできない。Androidの広告事業、iPhoneのハードウエア販売、どちらもそれぞれ大規模と見なすのが正しい分析だと思うが、Bloombergの報道を受けてすぐに「GoogleのAndroidからの総売上を1四半期で上回るApple」というような刺激的なタイトルの記事が次々に現れた。

Bloomberg報道後も上がらないApple株

さて、Bloomber報道でAppleとGoogleの持ち株会社であるAlphabetの株価はどのように動いたか?

直後にApple株は久しぶりに100ドルを上回ったものの、そのまま上昇しそうな勢いはない(月曜には再び100ドル以下に下落)。

つまり、iPhoneの好調ぶりがAppleの評価に結びつかないのが、今のIT市場である。

Apple株は昨年の春から夏にかけて130ドルを超えたものの、夏過ぎから緩やかに下落し、2015年は年明け時点の価格を下回って終えた。そして今年に入ってから100ドル以下で推移していた。iPhoneの好調ぶりが報じられても停滞感を払拭できないのは、Appleに対する懸念がiPhoneの好調ぶりに起因するからだ。iPhoneがAppleの売上高の6割以上を占める存在になり、過度のiPhone依存を危ぶむ見方が広がっている。Macやサービス事業も順調ではあるが、iPhoneほど太い柱ではないため、iPhoneが揺らいだらAppleそのものが揺らいでしまう。

一方Googleは、不都合なデータを公表されてしまっても、Googleの持ち株会社であるAlphabetの株価は週末に720ドルから750ドル近くにまで上昇した。同社は、今でもデスクトップからモバイルへのシフトの過渡期だが、着実に成果を積み上げており、また過去数年の改革で手広く展開していた事業が整理され、昨年に持ち株会社制移行した。今日の稼ぎ頭であるGoogleと、自動運転カーのような未来への投資があいまいにならずに、それぞれにフォーカスされ、全体的に見通しが明るい。持ち株会社に移行してからAlphabet株は順調に上昇し続けており、今回のBloomberg報道のようなトラブルでは揺るがない。時価総額でもAppleが5,655億ドル(1月22日)でトップではあるものの、Alphabetが5,127億ドルで2位と、いつの間にかトップを狙える位置に迫っている。

1月22日時点の時価総額トップ10(CorporateInformation)

ちなみに2015年のテクノロジー株の上昇率トップ5は、1. Netflix、2.Amazon、3.Alphabet、4.Tencent、5.Facebookだった。このランキングから読み取れるように、これからのIT市場の成長はクラウドとソーシャルで起きるというのが市場の予測である。

懸念はiPhoneに対してではなくアプリ

しかし、アップルのiPhone依存が進んでいたとしても、今のiPhoneは盤石である。その太い柱が揺らぐようなことが、近い将来に起こり得るのだろうか? いま懸念が広がっているのはiPhone自体に対してよりも、むしろアプリ経済に変化が起こる可能性である。

UberのデベロッパーエクスペリエンスリードであるChris Messina氏(ハッシュタグの生みの親としても有名)の「2016 will be the year of conversational commerce 」という発言が話題になっている。一週間ほど前にも、The Informationに掲載されたFin共同創設者Sam Lessin氏の「On Bots, Conversational Apps and Fin 」が話題になった。

「Botsの年と宣言された2016年。実際に開発者のエコシステムにおいて、従来のポイント&クリック型のアプリからチャット・ベースのユーザーインターフェイスへの大きなシフトが起こりそうな雰囲気が高まっている」(Sam Lessin氏)

AIを活用し、会話を通じてより直接的にユーザーとの関係を築くカンバセーショナル・コマース。GoogleのGoogle NowやAppleのSiriといったデジタルアシスタント、MessengerやWhatsApp、Slackといったメッセンジャーアプリが、そのプラットフォームになり得る。たとえば、モバイルユーザーがメッセージング・ツールを離れることなく、会話を通じて買い物やサービス(銀行口座の残高チェックなど)を利用できるようになる。

Facebook「Messenger」アプリで、会話から直接Uberのライドシェアをリクエスト

カンバセーショナル・コマースへのシフトを加速させているのは「アプリ疲れ」と言える。ユーザーはたくさんのアプリを使いこなすのに疲れ、日常的に使ういくつかのアプリに集中する傾向が強まっている。メッセージング・ツールは、その代表的な1つである。開発者は無数のアプリとの競争、アプリストアとの関係、提供コストの負担などに疲れている。

モバイルアプリはモバイルとWebを融合させ、様々な新しいサービスを実現した。しかしながら、コミュニケーション、検索、そしてコマース、エンターテインメントにおいて、デスクトップWebを引きずり続けているのも事実である。モバイルとクラウドの時代にゼロから創造したらどうなるか …… アプリを作ることよりも、そんな破壊的なイノーべーションに多くの開発者の興味は向いている。モバイルユーザーの多くは、メッセージング・ツールが新たなプラットフォームになることを想像できていないと思う。カンバセーショナル・コマースと言われてもピンと来る人はいないだろう。しかし、Messina氏やLessin氏が指摘するように開発者は開拓に積極的だ。ニワトリが積極的にタマゴを生み、そして孵化させようとしているのだから、少なくともニワトリとタマゴに陥ることはなさそうだ。

iPhoneはカンバセーショナル・コマースの時代も支えるクライアントになるだろうが、イノベーションは再びクライアントからバックエンドへと移る