Google検索は便利だけど、そうではない時もある。筆者が今もRSSリーダーを使っているのはFeedlyの検索機能を気に入っているからだ。例えば、WWDCの発表に関する記事をチェックする時、Google Newsで「WWDC」と検索するだけだったら数千本もの記事がリストされる。タイトルに目を通すだけでもひと苦労だ。でも、Feedlyで検索したら、自分が選んでFeedlyに登録したニュースサイトやブログの記事だけが検索対象になる。検索キーワードを追加したり、媒体で絞り込んだりすることなく、効率的に質の高い記事や関連するプレスリリースを確認できる。

Googleは、それだけで何でもできる頼もしい検索ソースだ。Googleでなければ見つかりそうにない情報もたくさんある。でも、Googleをメインの検索プロバイダーとして使っていても、実際にはFeedly、Midium、Amazon、Product Hunt、Spotify、Overcast、Slack、GitHubなど、たくさんのソースから直接、日々色んな情報を引き出している。

検索の多様化は、特にモバイルで顕著である。AndroidではGoogleがOSのデフォルト検索だし、iOSでもGoogleがSafariのデフォルト検索エンジンだが、Google検索よりもアプリで検索する機会がどんどん増えている。例えば、サンフランシスコでバスと電車で移動するなら、Google検索から乗り換え案内を引き出す方法でも十分だけど、乗り換え案内アプリであるCitymapperを使ったほうがより充実した結果を得られる。

Google検索の結果(左)から直接Google Mapsの経路案内(中央)に切り替えられるが、乗り換え案内なら専用のCitymapper(右)を使ったほうが効率的

Facebookがモバイルでメッセンジャーを独立させたように、モバイルではサービス・機能のアンバンドリングが進んでいる。単一サービス・単一機能に絞り込んだアプリのほうがモバイルのUIでは使いやすく、そうしたアプリの増加もモバイルにおける検索ツールの多様化に拍車をかけている。

ただ、使用するアプリが増えるほどに、複数のアプリを組み合わせて使うことも増える。例えば、レストランを決める時にYelpで評価をチェックして、OpenTableで予約し、Citymapperで交通手段を確認する。異なるアプリで、同じ検索を3度繰り返している。これでは、それぞれのアプリがモバイルに適した設計で使いやすくなっていても、モバイルの利用体験が良くなっているとは言いがたい。

前置きが長くなったが、そのソリューションになりそうなのが、WWDC 2015でAppleが披露したiOS 9の検索のディープリンクである。デジタルアシスタントSiriも活用できるOSの検索機能のAPIをサードパーティにも公開する。つまり、アプリ側が対応すれば、アプリが扱うコンテンツもiOSの検索機能の対象になる。例えば、ホーム画面をスワイプしてOSの検索画面を呼び出し、「maui」と検索すると、シェアリングサービスのAirbnbやホテル/フライト/レンタカー検索のKAYAKなどからの結果も一覧表示される。そのうちの1つをタップすると、アプリのコンテンツページが開き、左上の「Back to Search」をタップするとアプリのコンテンツページから検索結果に戻れる。複数のアプリを横断的に検索でき、直接アプリコンテンツにアクセスできる。

iOS 9のOSの検索機能で「maui」と検索、結果にWikipediaと共に端末にインストールしているAirbnbやKAYAKからのコンテンツが表示され、タップするとAirbnbのコンテンツページが直接開く

まだ実際に使っていないので使用感はわからないし、自分がよく使うアプリが対応してくれるとも限らない。検索に対して「アプリのおすすめ」などが出てきそうな……そんな不安もあるのだが、デモを見る限りではモバイルの利用体験を改善する機能になりそうだ。Applebotがパートナーサイトのコンテンツデータを収集しておくのか、それともパートナーが自ら検索プロバイダーになって結果を返すのか、流れは不明だが、後者だとしても今はAmazon CloudSearchやAlgoliaなど、検索プロバイダーとして検索力を磨くためのサービスが整っている。

GoogleはGoogleで、5月末に開催したGoogle I/Oで機械学習とプロアクティブなデジタルアシスタントの可能性を示した。ユーザーの行動や置かれている状況を把握し、先回りするように効果的なアシスタントを提供する。Google Nowのユーザーを理解したアシスタント能力はすでにユーザーから高い評価を得ており、Googleは大量のデータ解析からユーザーに最善の結果を提供できることを示したうえで、Google NowのAPIをサードパーティに提供し始めた。

Googleらしいアプローチだと思う。筆者はGoogleが嫌いじゃないし、むしろ平均以上にGoogleに個人データを提供しているほうだと思う。だから、PCにおけるGoogle検索のような圧倒的な力を、モバイルでGoogle Nowが示し、サードパーティも巻き込むことにも期待している。

すでに多くの国・地域でモバイルがPCの検索数を上回っているという調査結果が出ているが、これまでのモバイル検索はPC向けの検索体験の焼き直しだった。MicrosoftはCortanaをPCにも持ち込むが、AppleやGoogle、Microsoftがしのぎを削るデジタルアシスタントを組み合わせた検索機能は、本当の意味でモバイル向けの検索体験を作り上げる取り組みと言える。

Googleがモバイルでも検索の覇権を握るのか、それともソーシャル検索や多様化する検索プロバイダーが大きなチャンスをつかめるのか。個人的にはPC時代のように巨大な検索ソースに依存するよりも、無数の小さな情報ソースが緩くつながっているほうがインターネット的だと思うし、そうなってほしいと思う。いずれにせよ、サービス/コンテンツ・プロバイダーはコンテキストに応じたSEOや、自ら検索プロバイダーとして足場固めることなどを考える時期に来ている。