下の動画は、しばらく前から話題になっているAlwaysの「Like a Girl」というキャンペーンだ。いくつかバージョンがあり、今回紹介するのはTVコマーシャルに使われているバージョンだ。

前半はティーンエイジャーや男の子に「Run like a girl (女の子みたいに走って)」「Fight like a girl (女の子みたいにけんかして)」「Throw like a girl (女の子みたいに投げて)」と言って、その通りに演じてもらう。全員、「なよなよっ」とした感じで明らかに、遅いし、弱そうだし、投げたボールはすぐそこに落ちてしまっている。

後半は、実際に女の子に同じことを言うとどうなるか……というもの。言われた子たちは、普通に走って、ファイトして、ボールを思いっきり投げる。最後にドレスを着た女の子に「『女の子みたいに走って』と言ったら、それはどういう意味だと思う?」と聞くと、女の子は「全力で走れってことでしょ」と答える。

「女の子みたいに(Like a girl)……」というのは、言外に「……できないでしょ」というちょっとばかにしたニュアンスが含まれる。確かに、なよっとボールを投げる女の子はたくさんいる。でも、女の子だから「投げられない」というのは偏見だ。女の子でもビシっと投げるようにがんばっている子はたくさんいるのだ。商品が一切登場しないこのCMは女性に自信を持ってもらうことを目的としている。

さて、このCMをどんな番組に入れた時に「Like a Girl」の話題が爆発したか、ご存じだろうか?

女性に向けたメッセージだから、女性の視聴者が多い番組に入れたほうが効果が高いはずだ。でも、AlwaysはこのCMをNFL(米国のプロアメリカンフットボールリーグ)の年間優勝チームを決めるスーパーボウルで流した。

スーパーボウルは広告スポットが世界一高い番組プログラムであり、女性よりも明らかに男性(しかも、おっさん)の視聴者が多い。「Like a Girl」は女性に自信をつけさせるものだが、「女の子みたいに……」という表現の問題を解決するには社会が変わらなければならないということだ。素晴らしいのは、ビールを片手にスーパーボールをエンジョイしていたおっさんたちが「Like a Girl」の出来をちゃんと評価し、今年のスーパーボウルCMの人気投票で軒並み上位に食い込んだことだ。

まかり通る「女の子みたいにコーディング」

3月8日は国際女性デーだったが、その数日前にMediumで公開された「Coding Like a Girl」というエッセイが話題になった。Alwaysの「Like a Girl」を踏まえた内容で、8歳の頃にプログラミングを始めて、マサチューセッツ工科大学で大学院まで進み、今はコンピュータ・サイエンティストとして活躍している女性が、自身の経験からプログラマーの世界の「Like a girl……」がどのようなものかを紹介している。

とにかく、プログラマーと見なされない。ミーティングやカンファレンスに行くと、デザイナーかマーケティング担当者、もしくは経理の人だと思われてしまう。差別的と言えば差別的なのだが、IT産業ではそれが当たり前のようになってしまっている。

エッセイでは、PinterestのエンジニアであるTracy Chou氏のエピソードを紹介している。あるカンファレンスに参加した時、初日にドレスを着ていったら誰にも話しかけられず、専門的な質問をしても「どうせわからないでしょ」という態度でちゃんと説明してもらえなかった。ショックを受けて、翌日は不参加も考えたが、思いとどまってジーンズとオタクっぽいTシャツを着ていった。すると、テクニカルな人物と見なされるようになり、前日より専門的な会話をすることができたのだそうだ。

発表のフィードバックを集めると、必ず「スライドがかわいすぎて、集中できなかった」というような、内容と関係のない女性プレゼンターに対する意見が必ず混じっているそうだ。同じ内容を男性のプレゼンターが男っぽいスライドにまとめても、「暑苦しくて読みにくい」というフィードバックはおそらく出てこないだろう。

昨年、シリコンバレー企業の間で、多様性(Diversity)に関するデータの開示が広まった。市民権活動家のJesse Jackson師が人種の多様性に欠けるシリコンバレー企業に是正を求めたのがきっかけだが、数多くの企業が男女比率や人種比率などのデータ開示に踏み切った背景にはプログラマー不足もある。

シリコンバレー企業は中国やインドからプログラマーを雇用しているものの、就労ビザには限りがある。女性、ヒスパニックや黒人のプログラマーが増えればソリューションになるが、現状ではそうしたグループでプログラマーを目指す人たちが少ない。これを解決するには、教育の段階から見直す必要がある。

その一歩となるのが「Coding like a girl」という偏見をなくすことだろう。男性とアジア人のプログラマーが多いのは事実だが、露骨に雇用が偏るほど男性とアジア人が飛び抜けて優秀だとは思えない。プログラミングは女性が関心を持ちにくいことであるのは事実だが、プログラミングが楽しいという女性も多い。そんな女性を社会が排除してはもったいない。ビシっとボールを投げ込める女の子に「Throw like a girl (女の子みたいに投げる)」と言っても意味がないように、ただ「Coding like a girl」と見なすのはバカげたことなのだ。