ウチの近所にHacker Dojoがある。そこを利用する起業家がたむろするカフェでは、変なアイデア、奇妙なアイデアが飛び交っている。「そんなアイデア製品にならないよ」と思うが、聞き耳を立てていると、そのアイデアがすでに世に送り出されていたりするのだ。今の若い世代がうらやましくなる。

でも、そんなアイデアから生まれた製品がApp StoreやGoogle Playを賑わしているかというと、アプリストアのランキングを時々チェックしても、ここ1、2年はほとんど顔ぶれが変わっていない。世に知られていない奇妙な製品、面白い製品、実は役に立つツールにチャンスを与える場としてアプリストアが機能しているかというと大きな疑問符が付く。

ベンチャー投資家ではなく、普通のユーザーだってアイデアが鋭くて面白いものをいち早く見つけたいという気持ちを抱いている。じゃあ、どうしたらよいのか? ソーシャル? SNS大手はマーケティングのためのメディアに一直線だ。そうしたなか、まだ知られていない製品を見つけたいという人々の欲求を満たし、グングン人気を高めているプロダクト紹介サービスがある。

あなたの質問や悩みにイーサンが答えてくれるメッセージ・アプリ「Ethan」、個人用ビーコン・システム「Signul」、レイアウトが整ったマークダウン・エディター「Thought Plan」。

これらは先週にProduct Huntでトップを獲得し、話題になったサービスや製品だ。Ethanなんて面白いけど、こんな奇妙なアプリ(実は戦略的なアプリである)がApp Storeのランキングを上昇するなんてことはないだろう。Product Huntがなかったら、誰に知られることなく消えていたかもしれない。

しばらく前に「Yo」というメッセージを送れるだけのシンプルすぎるメッセージアプリ「Yo」が話題になった。できることは、本当に「Yo」というフレーズを送れるだけ。開発にかかった時間は8時間、ローンチは今年のエープリルフールだった。フザけているとしか思えない。

でも、Yoは今年の夏にユーザー数100万を突破し、500万ドルから1000万ドルの評価を受けて150万ドルの投資を得た。ジョークとしか思えないYoだが、実はソーシャル疲れのソリューションという理由で作られていた。使ってみると、(何となく)その意がわかる。とはいえ、よく見つけられたものである。実のところ、Yoは5月19日にProduct Huntで紹介されており、それでYoが知られるようになり、1カ月ほどしてからYoの快進撃が始まったのだ。

Yoと送るだけのシンプルなメッセージアプリ「Yo」

Product Huntは今年に入って毎月50%ずつアクセス数を伸ばしている。ざっくり言うと、RedditやHacker Newsにアクセスする人たちが好むであろうプロダクト紹介サービスだ。Webサイト、モバイルアプリ、ガジェット、各種ツールなど、ネットとテクノロジーに関する新製品を毎日紹介している。少ない日は10製品以下、多い日は30製品を超える。

なぜ、Product Huntから新しくてユニークな製品を見つけられるかというと、2つポイントがある。1つはProduct Huntのサービスポリシーが"新しい製品"の紹介であり、そこに徹底してこだわっているということ。もう1つはコミュニティだ。

Product Huntで製品が紹介されるまでのステップを説明すると、Product Huntにログイン(Twitterアカウントでログイン)した人なら誰でも製品を推薦できる。毎日数百の製品の申請が行われているそうで、過去にProduct Huntで紹介したことがない"新しい製品"がレビューに進む。

新しい製品とは、まったく新しい製品はもちろん、リリースから時間がたっていてもProduct Huntのコミュニティに知られていない製品は新しいと見なされる。紹介済みの製品でも、新機能を含むデザイン刷新が行われていたり、新しいコンセプトが導入されていたりしたら審査の対象になる。レビューに回ってきた製品を、全体の2%程度の選ばれたコミュニティメンバーが吟味し、その推薦を経て5~30ぐらいの製品やサービスがProduct Huntで紹介される。

Product Huntに掲載された製品は、ログインユーザーの投票、提出からの時間などさまざまな要素からランキングされ、順番に並べて公開される。リストは毎日一新され、たとえ数百票を獲得してリストトップになり、ネットで大きな話題になってもリスト上位に入り続けたりはしない。一度紹介された製品は、翌日にはリストから消えて、また新しいリストになるのだ。

毎日プロダクト紹介リストが作られ、ユーザー投票などで位置が入れ替わる

常に新製品リストがフレッシュであるのがProduct Huntの魅力の1つであり、もう1つの魅力は掲載する製品の決定を左右する選ばれたコミュニティメンバーである。ベンチャー投資家、起業家、デザイナー、開発者など専門的な眼を持った人たちで構成され、もちろんProduct Huntの趣旨に共感している人たちである。つまり、あまり知られていないけど知られるべき価値のある製品を本当に見抜ける力を持った人たちが選んでいるから、Product Huntは機能している。

だから、コミュニティメンバーの拡大も慎重に行われている。Product Huntでコメントを公開できるのもコミュニティメンバーに限られており、彼らのコメントを読むためにProduct Huntを訪れているという人も多い。

Product Huntは、Webサイト、モバイルアプリ、ガジェットを掘り起こしているが、音楽や映画、本、ファッションなど、他のものにも幅広く応用できそうだ。キュレーションとオープンなコミュニティの力を巧みに組み合わせて、マーケティングパワーの影響を受けずに、毎日たくさん登場するものの中から純粋に価値のあるものを掘り出し続けている。

Product Hunt自体がメディアのモデルとしてユニークであり、いずれProduct Hunt for X (X分野のためのProduct Hunt)というような話題も呼び起こしそうだ。ちなみにProduct Huntを作ったRyan Hoover氏はゲームショップを経営する家庭で育ち、ゲーマーコミュニティの経験をプロダクト紹介に応用してProduct Huntに行き着いたそうだ。