年内にもiWatchが登場するのではないかという噂が飛び交っているが、Beyond Deviceの「Why Apple might break its launch pattern with wearables (Appleがウエアラブルでリリース・パターンを崩しそうな理由)」という記事で、Jan Dawson氏がユニークな視点でiWatchが「時計とは違ったものになり得る」を予想している。

Dawson氏の言うリリース・パターンとは、Appleが春から夏にかけて新しいiOSを発表し、3-4カ月ぐらいの時間をおいてiPhoneの新モデルを発売するサイクルのことである。新しいiPhoneが登場する時には、新しいiOSに対応したアプリが揃っている。対応アプリあってのiOSデバイスということだろう。Appleは過去6年間、同じサイクルを繰り返してきた。もしiWatchがオンデバイスディスプレイを備えたいわゆるスマートウオッチなら、そのためのSDKのアップデートが必要になりそうだ。ところが、現時点でiWatch SDKは用意されていない。

初代iPadでタブレット市場に参入した時には、発表まで一切の情報を隠しておき、それから発売まで2カ月の間を空けた。iWatchも同じパターンになるかもしれないが、Dawson氏の予想は「Appleはすでに新しいウエアラブルデバイス向けの下地を整えている」である。iOS 7におけるウエアラブル向けの通知センターやBluetooth機能の強化、iOS 8で加わるヘルス/フィットネス向けプラットフォームHealthKitが、それに当たる。その上で「Appleは時計よりも、もっとシンプルなデバイスをリリースするのではだろうか。それをリリースする準備はすでに全て整っている」と予想している。

スマートウォッチへの不満はiPhone登場前と同じ

Appleのウエアラブルが噂でiWatchと呼ばれ、高級時計ブランドTAG Heuerの幹部をAppleが引き抜いた報道が出てきて、時計型のいわゆるスマートウォッチ、しかも高級なスマートウォッチが出てきそうな空気がただよっている。

ファッション・コングロマリットとしてAppleが未来を切り開く?」(CNET)

iWatchへの準備としてファッションに目を向けるApple」(Esquire)

でも、既存のスマートウォッチにすでに飽き飽きとしている人が多いのも事実だ。TechpinionでJohn Kirk氏が「今日のウエアラブルは、スマートフォンの機能を使うには適していないフォームファクタ(時計)で、スマートフォンの機能を再現しようとしている。なにかを思い出さないか? そう、パソコンのOSを無理矢理タブレットのフォームファクタにつめこもうとした、あれだ」(その下にWindows XP Tablet PC Editionを搭載したタブレットPCのイラスト)。

iWatchがどのようなものになるかはAppleのみぞ知ることである。ファッショナブルなデバイスかもしれないし、分類したらスマートウォッチに当てはまるデバイスかもしれない。問題は、それが市場に変化をもたらし、ユーザーが手放せなくなるようなデバイスであるか、どうかだ。iPodが登場する前からデジタル音楽プレーヤーはあったし、iPhoneよりも前にスマートフォンも存在したが、どちらもその登場が市場を揺るがし、私たちの音楽の楽しみ方やモバイル生活を変えた。

Kirk氏は「Appleがどのようなウエアラブルを手掛けているのか予想したければ、"時計"として考えるのを止める必要がある。また"ファッション"と結びつけるのも止めるべきである。Appleは装飾のためのデバイスは作らないし、ファッションの奴隷にもならない。ファッションの変化は早い。Appleはもっと永続的で長く使われるものを求めている」としている。

筆者もKirk氏と同様、既存のスマートウォッチには否定的だ。使ってみて、なぜ時計なのかが伝わってこないからだ。たくさんの人が身につけているものだから、時計に通知機能を持たせてみたとしか思えない。もちろんスマートフォンを取り出さずに通知を確認できるのは便利なのだが、それ以上のソリューションではないから、個人的には腕時計をはめない気楽さの方が勝る。逆の例を挙げると、期間限定で割引(150ドル引き)付きの予約受付が始まった1080p HD動画を撮影できるヘッドフォン「SoundSight」だ。限られた目的でしか使えない風変わりなヘッドフォンだが、個人的にはSoundSightが効果的なソリューションとなるシーンを想像できるだけに、既存のスマートウォッチよりもはるかに魅力的なウエアラブルである。

MITメディアラボのJohn Maeda氏が「優れたデザインは、気に障るほどではなく、興味を引く程度の親しみにくさをはらむ」と述べている。オリジナルiPhoneはシンプルだけど、携帯電話としては奇妙なデザインだった。しかし、触ってみたいという魅力があった。

Dawson氏は挙げていないが、iWatchのリリースがオリジナルiPhoneの時と同じパターンになる可能性だってある。オリジナルiPhoneはサードパーティのネイティブアプリをサポートせず、標準アプリしか動作しなかった。今なら耐えられない制約だが、iPhoneのために作られた標準アプリしか使えなかったから、それまでの携帯電話やPDAとは違うiPhoneのユーザーインタフェースや魅力をすぐに理解できた。当時は全く新しいデバイスがもたらしくれるソリューションが楽しく、制約が全く苦にならなかった。

思い返すと、今のスマートウォッチに対するのと同じような失望を、8年前はPalm Treoに対して抱いていた。Appleが満たせる状況がふたたび……である。だからiWatchに期待してしまうし、それは残念なことでもある。

2007年の初代iPhone発表の時、それまでにあったスマートフォンがiPhoneの引き立て役に

先々週にGoogleの創業者であるLarry Page氏とSergey Brin氏がVinod Khosla氏のインタビューを受ける映像が公開されて話題になったが、約40分のインタビューの中で最も印象に残ったのは「コンピュータから取得できている知識量と、それを使用している時間を比べたら効率性は相当悪い」というBrin氏の指摘だった。

まさにその通りで、パソコン、スマートフォンやタブレットは便利だし、プロダクティビティも上げてくれるのだが、1日のうちの長い時間を画面に接しているのがもったいないと思うことも多々ある。デバイスと向き合わなければならないのが、ネットに閉じこもるイメージの原因にもなっていると思う。だから、もっと普段の生活にとけ込んで、こちら側から効率的に情報を引き出せて、データをインプットできるソリューションが出てきて欲しいと思う。その答えがAndroid Wearでは物足りない。