Windows 8.1の次期アップデートで、Metroスタイルのスタート画面を標準でスキップさせるためのテストをMicrosoftが行っているとThe Vergeがレポートしたのに対して、Marco Arment氏が「Microsoft customers always win (Microsoftユーザーは常に勝者になる)」と述べている。

Microsoftとしては、PCとタブレットを融合するMetroスタイルのユーザーインタフェースを通じて、Windowsデバイス全体の進化を加速させたいところだろう。しかし、キーボード/マウスでの操作になれた従来のWindows PCユーザーのMetroに対する反応は芳しいものではなかった。彼らは普通のPCを求め、デスクトップスタイルを好み、Startメニューの復活を望んだ。Metroスタイルのスタート画面を標準でバイパスさせるのは、そうしたユーザーの声に応える形になる。

The Vergeが報じたような修正をMicrosoftが余儀なくされた原因について、Arment氏はそもそも「MicrosoftはAppleではなく、そしてMicrosoft製品ユーザーとApple製品ユーザーは異なる」と指摘している。Windows PCユーザーの多くは、驚きに満ちた変化など望んではいない。彼らは使いなれた機能が継続的に実装されることを望んでいる。だから変化に富んで、時に進化と称してユーザーに我慢を強いるApple製品など選ばなかった。そんなユーザーにApple的な考え方を押しつけようとしたのが、Windows 8におけるMicrosoftの失敗だったとしている。

結果、ユーザーに拒まれ、Windows 8の進化の象徴とも言えるMetoroスタイルのスタート画面が、Windows PCの表舞台から退けられようとしている。「Microsoftのユーザーは常にもの言うユーザーであり、そしていつも望んだものを受け取ってきた」(Arment氏)、だから「Microsoftユーザーは常に勝者である」というわけだ。

もちろん、Arment氏の"勝者"という言葉には皮肉も含まれている。ユーザーの要望に応える製品戦略はローエンドからミッドレンジのPC、エンタープライズ向けの製品では効果が期待できるが、そうした市場がタブレットに食われてPC市場の縮小が始まったのがMetroをWindowsにも導入したきっかけである。新世代の機能を取り下げるなら、Windows PCの進化のスピードは鈍ることになる。Metroを押しつけず、Metroを受け入れるユーザーを少しずつ増やしていく時間が果たして残されているだろうか。

もう一つのAndroidの脅威に直面するGoogle

「ユーザーの違いを見誤った」というArment氏の見方は、AndroidユーザーとiOSデバイスユーザーの違い、Motorola Mobilityのつまづきにも適用できそうだ。先週Googleが、Motorolaのスマートフォン事業を29.1億ドルでLenovoに売却することで合意したと発表した。

GoogleがMotorola Mobilityを125億ドルで買収(2012年5月に完了)した最大の狙いは、モバイル分野における特許ポートフォリオ強化だったが、同時にAppleのようにOSとソフトウエア/サービス、そしてハードウエアが相乗効果を生み出すようなスマートフォンを作るチャンスも得た。実際、Google傘下で生み出されたMotorolaのフラッグシップ機種「Moto X」は、スペック的には目立たないものの、ユニークな利用体験をユーザーに提供するAndroidスマートフォンになっている。例えば、米国組み立てで短期間で柔軟なカスタマイズに対応し、コプロセッサを活かした便利な機能をたくさん備えている。

そんなGoogleの狙い通りに製品を生み出したMotorola Mobilityを、Googleはわずか1年半で手放す。

GoogleをMotorola売却に踏み切らせたのはおそらく、Moto Xの不振と、Motorolaのもう1つの製品「Moto G」の好調な売れ行きである。Moto GはMoto Xのようなユニークな機能は備えていないが、最新のAndroidが快適に動作するスペックを備えて、価格は179ドルからととても安い。コストパフォーマンスに優れた低価格端末である。

カスタマイズサービスを通じて、木製のバックパネルも選択できる「Moto X」

基本性能は高く、価格は179ドル。「これで十分」というスマートフォン・ユーザーを増やした「Moto G」。SIMロックフリーであり、T-Mobileの「Uncarrier」戦略によって米国で手頃な料金のコントラクトフリーの携帯サービスが増えていることもMoto Gの追い風になった

Appleは最新機能を備えたiPhone 5sが好調で、廉価機種のiPhone 5cの売れ行きが鈍い。Motorolaは逆で、最新スペックのMoto Xが不振で、安さがポイントのMoto Gが好調だ。Googleにしてみれば、Androidの強みがローエンドとミッドレンジであることを改めて実感させられた。WebとSNSアプリ、ゲームが動けば十分、携帯電話に数百ドルも投じたくないという人たちが、iPhoneではなく、Androidを選択する。優れたユーザー体験を提供するAndroidスマートフォンを用意しても、現段階で米国を含むAndroid市場の多くでは期待したほどAndroidユーザーの心に響かない。iPhoneユーザーとAndroidユーザーは同じではないのだ。

CNNMoneyに掲載されたYuanqing Yang (Lenovo CEO)のインタビューによると、同氏がGoogleのEric Schmidt氏からMotorola Moblity売却の打診を受けたのはわずか2カ月前のことだったそうだ。それから合意発表までの間にGoogleはもう1つ、Samsungと特許クロスライセンスに合意している。SamsungはAndroidの独自カスタマイズ「Magazine UX」をお披露目したばかりだが、クロスライセンス合意によって同社はMagazine UXを捨てて、Googleのアプリおよびサービスを採用すると報じられている。この2つの合意が同じ時期にまとまったのは偶然ではない。どちらも、GoogleがAndroidのエコシステムを再構築する過程なのだ。

ABI Researchのレポートによると、2013年第4四半期もAndroidがスマートフォンのOS別の出荷台数でトップだった。しかしGoogleのアプリを標準搭載するAndroidは前年同期比29%増で、伸び率ではWindows Phone (104%増)を下回る。最も伸びたのはAOSPと呼ばれるフォークされたAndroidだった(137%)。中国やインドなど新興市場で伸びており、10-12月期にはAndroidの3分の1を占め、シェアはスマートフォン全体の25%に達した。

オープンなAndroidを独自に実装したメーカーのAndroidスマートフォンが急成長 (出典: ABI Research)

AOSPはGoogleのアプリを標準搭載していない。言い換えると、Androidが強いローエンドやミッドレンジの市場で、Googleに売上をもたらさないAOSPが急成長している。Googleとしてはシェア18%のiPhoneをいつまでも意識し続けている場合ではない。Androidを採用するメーカーにより多くGoogle Mobile Services (GMS)をライセンスしなければ、足元からGoogleのモバイル市場が崩れてしまう。Googleサービス版Androidのエコシステムの再構築に本腰でかかり始めるには、まずはAndroid端末メーカーと競合するMotorolaを何とかしなければならなかった。

Google傘下のMotorola Mobilityが示した独特で、推進力のある製品開発を惜しむ声は少なくない。しかし、これでGoogleがハードウエア開発を断念したわけではない。1月13日に、Googleはスマートサーモスタットなどを開発するNestを32億ドルで買収すると発表した。成熟期にさしかかっているスマートフォンと、これからのInternet of Things (IoT)やネットアプライアンス、インターネットの前進の加速を企業理念としているGoogleが、今どちらを手がけるべきかははっきりとしている。

Microsoftと同様、Motorola Mobilityの売却もつまづきの修正に変わりない。しかし、Googleの修正は前向きだ。Andy Rubin氏のロボティクス・プロジェクトも然り、わずか2カ月で、GoogleはAndroidプロジェクトが始まった頃のような開拓者に戻ったようだ。