「正式に確認した。Android 4.4+はWebViewだけでブラウザは1つも組み込まれない状態で出荷される。エミュレータにブラウザは含まれるが、デバイスには組み込まれない」「(Samsungのように)WebViewを用いてブラウザ・アプリを作るか、またはChromeをプリインストールするためにライセンスを取得するか、どちらを選ぶかはベンダー次第だ」

モバイル開発者で「Programming the Mobile Web」(O'Reilly)などの著者であるMaximiliano Firtman氏のツイートである。Android標準ブラウザはAndroid 4.2から姿を消していたように記憶しているので、内容または表現に誤りがあるようにも思うのだが、OEM版でのサポートなどが継続していたのかもしれない。

いずれにせよFirtman氏がChromeチームから直接確認したところによると、Android標準ブラウザの開発が完全に終了したという。このツイートに対して「要ライセンスでChromeを使わせようとしている」というようなネガティブなコメントも見られる。たしかにGoogleの都合が含まれる変更であるのは否めない。だが、これはアプリ開発者や他のブラウザ・ベンダーにとってもチャンスであり、モバイルWebの前進を加速させる変更になり得る。

Nexusデバイスでリンク先を開くブラウザの選択肢にAndroid標準ブラウザが現れなくなって久しいが、標準ブラウザの開発が完全に終了した模様

Android標準ブラウザは、より多くのAndroidデバイスで動作するように設計された中立的で独立したブラウザだった。それはメリットでもあるが、基本的に動作するのがポイントになっているため、新しい機能や技術を取り込みにくく、アップデートのペースが遅かった。これがFirefoxやChromeなら数週間おきにアップデートが提供され、またデスクトップ版と様々なデータを同期でき、Webサービスとも連携する。Android標準ブラウザはそうした連携も乏しく、PCでFirefoxやChromeを使っているユーザーにとって今ひとつ使いにくいものだった。

Googleが提供するNexusデバイスのユーザーの中にはChromeが新しいAndroid標準ブラウザだと思っている人もいるかもしれない。Android標準ブラウザとChromeは立ち位置が異なる。Chromeは、Googleが提供するGoogleのアプリの一つであり、同社が全てをコントロールできる。Googleの意思で対応機種を絞り込めるし、Googleのサービスと密接に結びつけたり、独自の機能を加えるのも自由だ。

ChromeはGoogle寄りなブラウザだから、ユーザーやベンダーが任意で採用するならともかく、オープンなAndroidの標準ブラウザの座には据えられない。しかし、なかなか技術的に進歩しないAndroid標準ブラウザをAndroidユーザーが使い続けていたら、モバイルWebの進化が鈍ってしまう。プリインストールされたブラウザーはユーザー、そしてベンダーにとってもアクセスしやすく、このまま放置していたらデスクトップブラウザにおけるInternet Explorer 6のような障害になるかもしれない。だからGoogleは着々とAndroid標準ブラウザをフェードアウトさせる作業を進めてきた。

Android 4.4 KitKatは移行の節目のリリースと呼べるのではないかと思う。というのも、11月1日のChromium WebViewチームの書き込みによると、Android 4.4 KitKatでWebView APIが刷新され、アプリ開発者がChromeの基盤と同じレンダリングエンジンとソフトウエアスタックを利用できるようになる。WebViewとは、AndroidアプリにWebブラウザの機能を付加する仕組みである。つまり、Chromeを使っているように最新のHTML5やCSS機能、JavaScript性能をアプリ内で利用できる。アプリ開発者にとって、新しいWebViewは魅力的なものになる。これがアプリ内のブラウザ機能がネックになっているiOSに対して、Androidのアドバンテージになるか興味が惹かれるところだ。

標準ブラウザが空席になるAndroidのブラウザはどうなるのだろう。

AndroidデバイスにGoogleのサービスを利用したマップ・アプリやGmailなどをプリインストールする場合、ベンダーはGoogleとライセンス契約を結ぶ。Chromeも例外ではない。だからAndroid標準ブラウザがなくなった今、GoogleからライセンスしてChromeを搭載するか、またはAmazonのように自らブラウザを開発する、もしくはChrome以外のブラウザを採用することになる。

Chromeが選ばれれば、Googleはモバイルデバイスで最も重要なアプリであるWebブラウザを完全にコントロールでき、同社のサービスにユーザーをより密接に結びつけられる。ただし、そのチャンスはMozillaやOperaなどにもある。Googleの支配を嫌うベンダーが出てきて、ブラウザ/サービスの競争が強まるかもしれない。ユーザーを逃すという意味ではGoogleにとって歓迎すべきことではないが、競争はモバイルWebの前進を加速させるはずだ。

近年Googleは、Androidを様々な標準アプリを揃えたモバイルプラットフォームからシンプルなOSへと変化させ、新しい機能やサービスはGoogleのアプリ/サービスを通じて提供しようとしている。詳しくは、「Androidの断片化加速も、98%以上の機種にGoogleのデフラグ効果!?」を読んでほしい。

Android標準ブラウザの終焉は、新しいAndroidプラットフォームの始まりを感じさせるものだ。ベンダーが楽な道を選べば、今まで以上にGoogleに根付いたAndroidデバイスだらけになってしまう。でも、AmazonのKindleのように独自性の強いAndroidデバイスが増える可能性もある。今年、米国でAndroidをフォークしたFacebookフォンが完全な失敗に終わってしまったが、個人的に来年はユニークなAndroidデバイスがもっと注目を浴びる年になって欲しいと思う。