iPad Airが発売された時に、その日のうちに入手する必要があって、数年ぶりに早朝のApple Storeの行列に並んだ。それからしばらくしてPlayStation 4をソニーの直営店(Sony Store)で、Xbox OneをMicrosoftの直営店 (Microsoft Store)で発売日に購入したのだが、その体験が三者三様で面白かった。

iPad Airを買うために並んだのはパロアルト店。近くに住んでいたスティーブ・ジョブズ氏が自宅からちょくちょく訪れていた店で、初代のiPhoneやiPadが発売された時には熱心なAppleファンが集まった。でも、長い行列ができたのは今は昔。行列に並んだらApple Storeのスタッフが希望の機種を聞いて引換券を手渡し、並んでいる人たちにクリスピー・クリームのドーナッツとコーヒーを振る舞い、そしてカウントダウンと、全てが数年前と同じなのだが、行列はわずか40人程度だった。

iPadの人気が衰えたわけではない。今は数週間ぐらい前にオンラインでの予約を受け付けたり、また予約販売がない場合でも発売日の午前0時になったら直営店よりも早くオンラインで購入できる。Appleの場合、発売開始後にオンラインストアがつながりにくくなるというようなこともない。直営店でアカウント設定のサポートを受けながら購入したかったら、オンラインストアで購入して直営店での受け取りにすれば、混雑する時間を避けて受け取りに行ける。

Apple Store前にテレビカメラという光景は変わらないが、行列は短い

長い行列はニュースなどに取り上げられて話題になるが、Appleは「行列に並ばなければ買えない」という負担をユーザーから取り除こうとしているだろう。行列で、こんなことがあった。筆者の後ろに並んだ男性が、LTE版の128GBモデルを希望したところ在庫がなかった。しかし、オンラインストアで注文したら、すぐにパロアルト店で受け取れると言われた。つまり、パロアルト店に在庫はあるのだけど、それはオンライン購入の直営店受け取り分なのだ。あるのなら、オンラインストア経由ではなく、そのまま売っちゃえばいいのにと思ったが、在庫管理上そうもいかないのだろう。

Appleは、ユーザーが自宅でゆっくりと購入できるオンラインストアの活用を推奨している。パロアルト店にいながら、わざわざオンラインストアで購入するのは奇妙なことだが、自宅への配送や直営店受け取りを選ぶ人が増えた方が発売日の直営店の混乱を避けられるし、ひいてはユーザーにとって快適な購入体験につながる。そのためには、オンラインストアと直営店のシームレスな連携がポイントになる。だから、新たにリテール事業の責任者となったアンジェラ・アーレンツ氏が直営店およびオンラインストアを統括的に指揮するのだ。

深夜11時に、PlayStation 4の発売開始をひたすら待つ

Sony Storeの行列は、昔ながらのひたすら我慢を強いられる行列だった。でも、安心できるものだった。予約済みと当日売りの2つに行列が分けれていて、予約していない列の最後尾でストアスタッフがバンドルセットの説明をし、リストバンドを配っていた。リストバンドは在庫分だけ用意されていたから、リストバンドをもらえたらひと安心だ。深夜の11時30分にコーヒーすら用意されていなかったけど、購入できるのが分かっていたから、それほど苦ではなかった。

抽選でSurafaceなどを大盤振る舞い、Microsoft Storeの発売開始待ちは楽しめたが……

3つの行列で最も盛り上がったのが、Microsoft StoreでのXbox Oneの深夜発売。

並んだ時点でリストバンドと番号が印刷されたチケットが配られ、発売開始の1時間ぐらい前からマイクロソフト製品をもらえる抽選会がスタート。1分に一つぐらいの間隔で次々に景品が登場した。最初はゲームやソフトウエアなどだったのが、最後の方ではゲーム用のディスプレイやSurfaceなど高額な商品がばんばん出てきた。1時間なんてあっという間に過ぎ去り、そして発売開始。まずは予約購入者への引き渡し。こんなに楽しい行列は珍しいと思っていたら、最後に衝撃の発表が待っていた。ストアスタッフが当日販売待ちの行列を10人ぐらい数えたところで、「ここで売り切れで~す」。リストバンドをもらった時点で購入できると思っていた人たちから大きなブーイングが起きた。

長時間並んだ末に購入できないことなど、年末向けの人気商品では珍しくはない。Microsoftとしては深夜オープンは発売記念のパーティ・イベントであり、集まった全ての人がXbox Oneのデモや抽選会を楽しめたということなのだろう。しかし、最初から購入できないと分かっていたらパーティにも参加しなかった人もいたと思うし、最後のブーイングはやはり後味の悪いものだった。

新製品の発売日にたくさんの人を集めて盛り上げるのも大事だが、Microsoftも"体験"という言葉を使うようになり、Apple Storeに対抗するように米国で直営店を展開し始めた。同じモールでApple StoreとMicrosoft Storeが向かい合っているのを見ると、ハードウエアとソフトウエア、そしてサービスの統合的な体験の提供でMicrosoftが急速に追い上げているように映る。だけど、リテールに関して見た目ほどMicrosoftの本質は変わっていない。逆に米国のApple Storeは見た目以上に変化しており、より快適な体験を提供できるようになっている。ライバルがAppleのリテール戦略を真似することはできても、追いつくことは容易ではない。