筆者の「Google Reader」の使い方はかなり特殊だと思う。厳密に守っている運用ルールが1つあって、Mark all as read (すべて既読にする)を押す回数が3回に達したフィードを問答無用で登録から外している。一時、登録フィード数が3桁に近づき、1日放置すると未読フィード数が4桁に迫るような状況に陥った。当然、すべての未読フィードに目を通すことはできない。そこで、チェックできる範囲でGoogle Readerを活用することにしたのだ。このルールの下では、メジャーなニュースサイトも多くが消えていく。すべての記事に目を通したくなるようなサイトやブログのフィードしか残らない。面白いんだけど、あまり記事をアップしないブログやWebサイトの更新を知るためにGoogle Readerを活用している感じだ。

個人的に、自分のGoogle Readerの使い方を気に入っている。しかし、こんなルールを設けないと実用的に使えないのが、今のReaderの限界であり、Googleが打ち切りに踏み切った理由ではないだろうか。ユーザーの限られた時間と、大量の情報。この2つを効果的に結びつけて、新しい情報を発見できる場として機能させるのが本来の目的だと思う。Google ReaderのようなRSSリーダーでは、そうした利用において効率的な結果を生み出せない。Readerの終了は、Googleが本来の目的を満たすためリスタートだと期待したいところだ。

Summlyが借りてきた技術の切り貼りか

さて、先週のシリコンバレーの話題といえば、Yahoo!による英Summlyの買収である。創業者のNick D'Aloisio氏は17歳の現役高校生。そのティーンエイジャーが起こした会社の買収額が3000万ドルと報じられたのも驚きをもって受け止められた (両社は買収額を非公表)。筆者はSummlyを使ったことがなく、試してみようと思ったらすでにApp Storeから引き下げられた後だった。仕方なくいろんな報道を読みあさってみたのだが、D'Aloisio氏の若さと経歴、買収額の話題ばかりで、肝心のSummlyについて語っているもの、中でもSummlyのサービスを称賛するものが見当たらない。話題性バツグンの買収なのに、少々奇妙である。

Yahoo!による買収後、App Storeでの提供が終了したSummlyアプリ。Yahoo!製品に組み込まれて再リリースされる

コーネル大学教授のEmin Gun Sirer氏は「What's Actually Wrong with Yahoo's Purchase of Summly (Yahoo!のSummly買収の本当の誤りとは)」の中で、Summly買収の議論の多くは「目のつけどころがズレている」としている。D'Aloisio氏がすばらしいアイディアを持っていれば年齢は関係ない。買収額もYahoo!が正当と評価した結果であり、Yahoo!はきちんとそろばんを弾いたはずだ。

同氏が取り上げるのは「この会社(Summly)が自然言語処理技術をほとんど開発していないという事実」だ。Summlyはコア技術をSRI International (Appleが買収したSiriがスピンアウトした研究機関)からライセンスしているという。技術を集めて製品に仕立てているSummlyは「glue vs thought」の前者に軸足を置いた会社であり、これはYahoo!が「"われわれはthought以上にglueを評価する"と宣言したようなものだ」としている。

また要約サービスの可能性を認めながらも、Summlyがニュース記事の要約サービスであるとも指摘している。プロの記者によって書かれたニュース記事は、5-W (いつ、どこで、誰が、何を、なぜ)が最初にきちんとまとめられているため要約を生成しやすい。これが小説のような長文や、このコラムのような5-Wを無視した雑文まで分析・要約できるようなAI技術であれば、大きな可能性が開けるが、Summlyは限定的と見る。「Yahoo!がテクノロジ企業ならば、競争を優位に進められるようコア技術を獲得する必要がある。glueにそのような優位性はない」と、Summly買収はブランド力を喪失してきたYahoo!が宣伝効果を狙ったものであるとして、その戦略に疑問符をつける。

Summlyを体験できないため、技術に関するGun Sirer氏の指摘が正しいのかは分からない。ただSummly買収に関して、Summlyのサービスから買収を評価する報道が少ないのは事実である。個人的にはglueだから競争に弱いとは思わない。Appleのようにglueに軸足を置きながらも、ユーザー体験をとことん追求することでライバルに打ち勝っている企業もあるのだ。そのAppleをイノベーティブな企業と呼ぶ人も少なくない。

たしかに17歳は若い。しかし、例えばTumblr CEOのDavid Karp氏が同社を共同設立した時、同氏は19歳だった。共同設立者のMarco Arment氏によると、当時Karp氏は年齢を隠しはしなかったが、それが話題になるのを避けた。19歳の起業家にスポットライトが当たると、Tumblrというサービスへの注目が薄れると考えたからだ。その狙い通り、当時Tumblrを取り上げた記事はサービスについて書いた。

Google Reader終了の騒動が示すように、ユーザーの読む苦痛を減らし、ユーザーと情報を結びつけるサービスには大きな需要がある。Marissa Mayer体制になって注目度が回復してきたYahoo!が、そこに目をつけただけでも同社のこれからの道すじを明るくすると思う。それなのに、Summly買収の話題が「17歳の起業家」に集中しているのは残念なことである。