米国にNews Corp.が設立したFox Newsというニュースチャンネルがある。視聴率は高く、CNNのライバルになっている反面、保守偏向、報道というよりエンターテインメントと批判されている。なので、Google検索のパーソナライズされた検索結果のニュースのおすすめにFox Newsからのニュースが並んだら、リベラルな土地柄のシリコンバレーでは苦笑されかねない。そういう意味で、筆者の場合、Fox Newsのニュースが気になってしまう。
1月28日はデータプライバシーデー(DPD)だった。Google、Twitterなどたくさんのネット企業がTransparency (透明性)に関する声明を出していたので、気づいた方も多いと思う。それに関連して、筆者は数日前から「DuckDuckGo」を試していた。ユーザーのプライバシーを尊重し、「No Tracking (トラッキングしない)」を標榜して成長しているインターネット検索エンジンである。
ソーシャル分野ならともかく、Web検索でGoogleに対抗しようというスタートアップの話題が聞こえてこなくなって久しいが、DuckDuckGoは小規模ながら2011年と2012年に検索数を着実に伸ばしてきた。
2011年にUnion Square Venturesが出資して話題になり、同年にLinux MintがMint 12の標準検索エンジンに採用した。社員はわずか3人で、2011年の売上高は115,000ドル。離陸できるかどうかもあやふやな状態だったが、2012年1月に100万検索/日を突破し、同年5月には150万検索/日に到達、その後も成長ペースは鈍っていない。
設立は2008年だ。注目されなかった期間も長く、それが一昨年、昨年に伸びたというのは、それだけ今日の検索大手のプライバシー問題に対するネットユーザーの懸念がここ数年で強まっているということなのかもしれない。Union Square Ventures設立者のFred Wilson氏は「われわれはプライベートな検索エンジンの必要性を感じて(DuckDuckGoに)出資した。RedditやHacker Newsに集まるような人々、インターネットのアナーキストのためにやったのだ」と述べている。
検索サービスはトラッキングデータを広告配信に利用するだけではない。ユーザーごとに検索結果をパーソナライズするのにも用いている。
No TrackingのDuckDuckGoが、今日の検索エンジンとして十分な有用性を提供できるのか。まずはDuckDuckGoとGoogleの検索結果の比較をいくつか紹介しよう。最初はスーパーボウル間近なので、今年の出場チームである「San Francisco 49ers」。
0-Click boxに関連性の高いリンクをまとめ、公式サイトには「Official Site」と表示するなど、ブラウズしやすい検索結果表示 |
右側のKnowledge Graphから直接49ersの基本情報を把握できる。ただし、メインの検索結果のトップは広告 |
DuckDuckGoは標準状態で結果のトップに、検索キーワードに関して特に有用な情報(Wikipediaページなど)や、関連する検索 (他のNFLチームの検索など)などへのリンクをまとめた0-Click boxが表示される。これが便利で、この0-Click boxに代表される結果表示のうまさがDuckDuckGoの武器だった。だが、GoogleがKnowledge Graphの提供を開始してからは、どちらの方が便利(情報豊富なKnowledge Graph VS シンプルな0-Click box)かは意見が分かれるところである。
続いてスーパーボウルの公式Twitterアカウントである「@superbowl」。DuckDuckGoでは0-Click boxで公式Twitterアカウントであることが示されるのに対して、Googleでは結果表示の中に埋もれてしまって少々わかりにくい。GoogleとTwitterの対立が影響してしまっているようだ。
開幕したばかりのNHLの試合のスケジュールを調べてみよう (「san jose sharks schedule」)。これはGoogleの圧勝だ。Google Nowを思わせるカードのような表示で、今後数日のスケジュールと直近の試合結果をひと目で確認できる。これに対してDuckDuckGoはワンクリックしてNHLのサイトやサンノゼマーキュリーのNHLセクションにアクセスする必要がある。
ウチの近所のタイ・レストラン「shana thai」を検索。DuckDuckGoは0-Click boxにローカル情報サイトYelpの情報、さらにTripadvisorやYahoo!ローカルなどの情報が並ぶ。分かりやすいが、GoogleのKnowledge Graphの店情報はさらによくまとまっている。結果画面でZagat (Google傘下)のポイントも確認できるなど、店に関する情報へのアクセスしやすさではGoogleの勝ちか……。
最後に「insurance」。出稿の多い業界であるが、DuckDuckGoの広告スペースは変わらない。0-Click boxに保険に関する情報、そしてProgressive、Allstate、GEICOなど大手のサイトへのリンクが並ぶ。すっきりしていて見やすい。Googleは結果ページが広告で埋めつくされて、少しスクロールしないと肝心な情報を得られない。DuckDuckGoの勝ちだ。
結果は2勝2敗1分けだが、実際に使い比べた印象では引き分けという実感はない。
Googleで、例えば「Apple」と検索すれば、筆者の場合はリンゴではなく、MacやiPhoneのAppleに関する情報だけが並ぶ。また簡単な検索語を入力するだけで、ロケーションに基づいた結果が返ってくる。パーソナライズされた、打てば響くような結果は快適だ。DuckDuckGoも結果表示に様々な工夫が凝らしてあるが、No Trackingだけに、検索の精度を上げるためには一手間が必要になる。
しかし、Googleの便利さに身をまかせることへの不安も残る。GoogleのKnowledge Graphや、スポーツのスコアなどはGoogleがまとめた情報である。以前Googleはローカル情報サイトやスポーツ情報サイトへの情報へのリンクを結果トップに置いていたが、今はGoogleの検索結果自体が、まるでローカル情報サイトやスポーツ情報サイトのようだ。
こうしたメディア化はGoogleの意図である。検索結果から豊富な情報を得られるようになったユーザーは、より長い時間をGoogleのサービスで過ごすようになる。ユーザーにとって確かに便利だが、上の例にあるようにTwitterに関する情報が分かりにくかったり、Yelpからの情報が微妙な場所に置かれていたりする。ユーザーのためという目的以外でも、情報のフィルタリングが機能しているのを否めない。「リンクを辿らなくても、それに代わる情報が結果に分かりやすく表示されている、しかもワンクリックの手間がいらない」という声もあるだろうが、ある程度ユーザー自身が自分の力で調べるというのも大切である。
冒頭の例に戻ると、リベラルな人にFox Newsからのニュースのおすすめが不要だとは思わない。保守的な見方も知ってこそ、公平な考え方を持てる。
DuckDuckGoは、0-Click box内の情報を含めて、全てがWebページやWebサイトへのリンクである。ユーザーにとってはワンクリックの手間が必要になるが、インターネット検索プラットフォームとして中立であり、あらゆるオンラインサービスやオンラインコミュニティにユーザーを流す中継点として機能している。
近年DuckDuckGoの検索実行数が伸びているのは、たくさんの情報がゆるくつながるWeb本来の持ち味を反映した検索エンジンだからではないだろうか。ずらりと並ぶ結果を読み、自分で選ぶ苦労が伴う検索サービスではあるものの、昔のインターネット検索の結果に比べると結果の表示方法やブラウズのさせ方が格段に進化している。そこがDuckDuckGoを最も評価できる点だ。
だからこそ、Googleの便利さに支配的なものを感じるユーザーの受け皿となっているのではないだろうか。