発表前まで第3世代のiPadはWi-Fiモデルを買うつもりだった。LTEサービス対応のモバイルWi-Fiルーターを使い始めてから、iPad 2の3G機能の出番がなくなったからだ (それどころか携帯電話のデータプランまで解約)。しかし、Appleの基調講演のマジック健在というべきか……Retinaディスプレイ、LTE対応、キャリアがサポートすればモバイルホットスポットとして利用可能と、The new iPadの説明を聞いているうちに、なんだかタブレット中心のモバイル生活が自分には最も合っているのではないかと思えてきて、早速Verizonに電話。すると、同社はモバイルホットスポット機能をサポートするというではないか。すかさず、Wi-Fi+4Gモデルを予約。16日に到着してから2週間、いつもiPadを持ち出す生活を続けて、今のところiPadとLTEの組み合わせにとても満足している。

LTE接続時は「4G」ではなく、「LTE」と表示される

iPad 2のWi-Fi+3Gモデルでは、結局2回 (2ヵ月)しかデータプランを契約しなかった。理由は、iPhoneよりも豊かにデジタルコンテンツを楽しめるiPad (=タブレット)に、米国の3Gサービスのスピードは不十分で、Wi-Fiを利用できない場所で利用体験が著しく低下するように思えたからだ。それなら、携帯性に優れたiPhone (=スマートフォン)の方が何かと使い勝手が良かった。

以下は新iPadでSpeedtest Xを使って、Wi-Fi (自宅のブロードバンド)、VerizonのLTEサービス、Verizonの3Gサービスのスループットを比較した結果だ。

左から、Wi-Fi (自宅のブロードバンド)、LTE (Verizon)3G (Verizon)

ダウンロード速度は、21.40Mbps(Wi-Fi)、9.48Mbps(LTE)、1.02Mbps(3G)だ。数字を並べるとLTEはWi-Fiと3Gの真ん中であるものの、実際にWebサイトをブラウジングすると3Gの遅さの方が目立つ。体感的にLTEは、むしろ自宅のWi-Fi接続に近い。まさにモバイルブロードバンドであり、Wi-Fi接続時のiPadの利用体験が損なわれない。新iPad+LTEサービスなら、iPhoneよりもモバイルでできることの幅が広く、ノートPCよりも携帯性に優れたiPadならではのモバイルを体験できる。

モバイルWi-Fiルーターとして使うにはiPadは大きすぎる。ただ筆者がノートパソコンも持ち出すときは仕事で大きな荷物を持ち歩くときなので、個人的にiPadのサイズはそれほど苦にならない。それよりもLTE対応のモバイルWi-Fiルーターで不満だったバッテリー駆動時間(2-3時間)が、iPadをモバイルホットスポットにすると大幅に伸びることがうれしい。MacBook AirとiPadのバッテリーが100%の状態で、iPadをモバイルホットスポットにしてMacBook Airを使ったところ、MacBook Airのバッテリーが6%になってもiPadのバッテリーの残りは68%だった。モバイルホットスポットに専念させれば、20時間以上使用できるだろう。LTE対応のモバイルホットスポットとして、iPadのバッテリーは頼もしいかぎりだ。

iPadで動画を見ると映画館よりも割高!?

ただ残念ながら、LTEは新しいiPadの魅力を引き出す機能であると同時に、完成度の高い新しいiPadの唯一の大きな欠点でもある。ユーザーフォーラムを覗いてみると、契約したLTEのデータプランが瞬く間になくなったと不満を爆発させるユーザーが多い。あるユーザーはYouTubeを15分視聴しただけで、データプランの残りが2/3になってしまったという。

原因は「LTEのスピードがもたらす変化」と「サービスプラン」のギャップだ。前者は、iPadの役割拡大である。前述したようにLTEと新iPadの組み合わせによって、自宅のWi-Fi接続におけるiPadの利用体験がモバイルに広がる。開発者やコンテンツプロバイダーは、それを最大限活用しようとする。新iPad登場のタイミングで、AppleのiOS向けiLifeが出揃い、Adobeが「Adobe Photoshop Touch」をリリースするなど、従来パソコンを必要としていた分野にiPadが食い込むスピードが加速している。iPadではクラウドをストレージにすることが多いが、LTEならサイズの大きなコンテンツでもスムースにやり取りできる。ブロードバンド(Wi-Fi接続)、LTE、3Gで、iPadを使って5MBのファイルをダウンロードしてみたところ、要した時間はそれぞれ4.9秒、6.1秒、80.2秒だった。また、例えばFacebookがフォトビューワーで、より高い解像度(最大2048×2048)の写真を表示するようになるなど、Webサービスもよりリッチなコンテンツのサポートを進めている。

しかし、一方で通信キャリアの"サービスプラン"は、3G時代のモバイル色が強いままなのだ。米VerizonのiPad向けLTEサービス・プランは以下のようになっている。

  • 1GB = 20ドル/月
  • 2GB = 30ドル/月
  • 5GB = 50ドル/月
  • 10GB = 80ドル/月

価格に対するデータ容量の制限は3Gサービスとほぼ同じで、スピードだけが速くなった。前出のYouTubeを15分再生しただけで契約したプランの1/3を使ったというユーザーは、1GBのプランを契約し、HQモードでYouTubeを再生したのだろう。コストは15分で6.67ドルになる。米国の映画館で映画を観るよりも割高だ。

高品質なデジタルコンテンツを手軽に表示・作成・共有でき、LTE接続でも8時間以上使用できる新iPadは、自宅や職場とモバイルの境界をあいまいにしてくれるデバイスである。それなのに、米国でiPad向けにLTEサービスを提供するVerizonとAT&Tのサービスプランが、新たな可能性の足かせになってしまっているのは非常に残念だ。

20ドルのLTEプランが1時間とかからずに終了してしまってびっくりするユーザーが今後も後を絶たないと思うが、このちぐはぐさに対するユーザーの不満が新iPadに向かうことなく、モバイルブロードバンドの可能性に気づいた人たちの声が、通信キャリアが抱える帯域問題の解決につながって欲しいと思う。

かつて携帯の音声サービスも個人ユーザーには高価すぎるものだったが、ユーザーの関心の高まりが競争を促し、そこから誰もが使用できる適正な価格が引き出され、そしてロールオーバーのようなユーザーのための仕組みなどが生まれてきたのだ。