SOPA (オンライン海賊行為防止法案)を巡る騒動をNat Torkington氏が古いジョークに喩えている。

大雨が降り出して洪水が起こりそうになった。隣りの住人がトラックをガレージから出して、「おいボブ、オレは高いところに移るけど、おまえも一緒に行くか?」とたずねた。ボブは「いや、ぼくは神様を信じるよ」と断った。水が押し寄せてきて、ボブの家の1階が浸水してしまった。すると、2階の窓越しにボートに乗った人たちが「乗っていく?」と言ってきた。またしてもボブは「いやいや、ぼくは神様を信じるよ」と断った。さらに雨の勢いが増して、もうボブは屋根に上がるしかなかった。そこにヘリコプターがやってきて、ボブに向かってロープを垂らした。それでもボブは「いやいやいや、ぼくは神様を信じるよ」と叫んだ。

ボブはおぼれてしまい、ついに神と対面することになる。

「神様、ひどいじゃないですか!! ぼくはあなたを信じて、ひたすら祈り続けました。それなのにおぼれてしまった」とボブは詰め寄った。神はあきれた顔で「私はおまえにトラックを送り、ボートを送り、さらにヘリコプターまで差し向けたじゃないか!! それ以上、私に何を求めるのか。一体おまえは何を信じていたんだ?」

SOPAは、著作権を侵害する悪質なWebサイトを撲滅することを目的とした下院法案で、米商工会議所、米映画協会 (MPAA)、米監督協会、米音楽家連盟などがサポートしている。ただ、悪質なサイトの定義があいまいで、悪質なサイトを撲滅するという大義名分の下で検閲まがいのことが行われる可能性があるとして、Facebook、Google、Mozilla、Twitterなど数多くのネット企業が反対運動を展開している。

さて、ジョークは笑えただろうか。ちょっとアメリカンすぎて私は最初ピンとこなかったが、GoogleのTim Bray氏は大爆笑だったようだ。

SOPA騒動の中のボブは、ハリウッドやレコード協会などSOPAを支持している米国の著作権保有者である。14日にバラク・オバマ大統領が「インターネットのオープン性を脅かしてはならない」として、ホワイトハウスがSOPAを支持しないことを明らかにした。そしてテクノロジー産業やコミュニティに知的資産を効果的に保護するアイディアを求めた。SOPAまで求める著作権保有者と、それを突き放したホワイトハウス。これをTorkington氏は「MP3やMP4を与えたし、電子コマースやマイクロペイメント、PayPalも用意した。Netflixに、iTunesに、Amazonに、iPadやiPhone、ノートパソコンもある。3GネットワークにWi-Fi、さらに飛行機内でもネットを使えるようにまでしたじゃないか。一体これ以上、なにを求めるのか?」と、神が言っているように思えるというのだ。

Stop American Censorshipなどが配布しているSOPAの影響に関するインフォグラフィック

米国の出版産業も海賊行為から始まった

SOPAについては検閲行為に対する懸念もあるが、デジタルコンテンツ配信のこれまでの努力への影響を危ぶむ人も多い。DRMフリーで音楽がダウンロード販売されるのが当たり前になった。消費者にとって本当に便利なサービスが形になり始めたのに、SOPAは新しい革新的なコンテンツビジネスの実現を後押しするものではなく、新しい段階へと進むのをかたくなに拒む企業を守るための法案になっている。

Tim O'Reilly氏は「海賊行為が存在するのは間違いない。創造物に代金を払わずに楽しんでいる人たちがいるどころか、違法な再配信で利益を得ている犯罪行為も存在する。しかし、本当に経済がダメージを受けているだろうか?」と述べている。

何をのんきなことを言っているのだと思うかもしれないが、ネットの本質を理解せずに、まともなデータを示すことなく、海賊行為によって経済が大ダメージを受けていると主張する政治家を批判しているのだ。O'Reilly MediaはDRMフリーで電子書籍を販売している。海賊行為の被害も受けているが、コンテンツにきちんと料金を支払う顧客が数多く存在し、以前はビジネスを展開できなかった国や地域にも市場を広げられた。そうした長年の経験から、米国経済と雇用創出を目的とするならば、インターネットの保護主義は適切な方法ではないとしている。

また「新興地域は無法状態であるが、豊かになるうちに改善するのが歴史の常である」とも述べている。「19世紀に英国の出版社はアメリカに進出できたが、そうはしなかった。その結果、われわれは自分たちの出版産業を立ち上げられた。最初の頃は少なからず英国やヨーロッパの作品を奪うような行為に頼っていたのだ」。海賊行為に始まって、米国に世界最大の出版産業が根付いた過去を振り返れというのだ。日本国内でSOPAはあまり話題になっていないが、こうした議論が出てきているのは注目に値する。