4月22日はアースディだった。そのためか、4月には再生可能エネルギーに関する様々なニュースや記事に接する機会が多かった。

Scientific Americanのブログに「Does Moore's law apply to solar cells? (ソーラーセルにムーア法則は適用できるか?)」という、なんとも気になるタイトルのゲストコラムが掲載された。著者はコンピュータサイエンティストのRamez Naam氏だ。

太陽からはわずか15秒弱で、われわれ人間が1日に消費者する分と同じ量の光のエネルギーが降り注いでいる。だが、それを電気に変えるコストが非常に割高で、火力や原子力に比べると太陽光発電は不経済であると言われてきた。しかし、米エネルギー省のNational Renewable Energy Laboratoryのデータを見ると、太陽電池のコストは過去30年にわたって継続的に下落しており、1980年に22ドル/ワットだったものが2009年時点で3ドル/ワットにまで下がっている。過去30年間の減少率は年率7%だ。同時に100ドル当たりの電力量も着実に増加してきた。

Naam氏は太陽光発電ワットの長期的かつ安定した伸びを、「集積密度が18-24カ月ごとに倍増する」というムーアの法則を指標に、半導体産業がCPUやメモリーのコストダウン/高速化/小型化を実現してきたのになぞらえる。「1ドルあたりの太陽光ワットの指数関数的な向上は、これまで31年間継続されてきた。今後さらに8-10年続けば、石炭よりも安く、温室効果ガスを発しないパワーソースをわれわれは手にできる。その実現の可能性は非常に高い」としている。年率7%の減少ペースを維持していけば、控えめに予測しても20年以内にソーラーセルのコストは0.50ドル/ワット程度になる。設置コストなどを加味した太陽光発電システムからの電力価格は、2020年ごろには現在の米国平均の0.12ドル/キロワット時に並び、2030年ごろには今日の石炭火力発電の半分程度になるという。

太陽光発電システムのコストの推移

太陽光発電システムの電力価格の推移

太陽光発電の向上は、ソーラーセルの加工技術や設計、変換の効率性、パワーエレクトロニクス、システム全般の設置・設計および許認可など、様々な改善・強化の結果である。ムーアの法則はエンジニア兼化学者による専門的な観察から半導体産業の長期的な傾向を予測したものだ。これを太陽光発電の成長に結びつけるのに違和感を唱える声もあるが、言うまでもなくNaam氏がムーアの法則という言葉を持ち出してきたのは産業けん引力としてだ。同時に私のような門外漢にも興味を持ってもらうためだろう。

60年代ケネディが掲げた「Moon Shot」、今は「SunShot」に

18日に米エネルギー省がBlythe Solar Power Projectに21億ドルのひも付き融資を実施すると発表した。これはカリフォルニア州のブライスに建設が進められている1000メガワット・クラスの集光型太陽熱発電 (CSP)施設で、半円筒状の曲面鏡を連ねたトラフ式太陽熱発電システムを採用している。予定通りに2013年に完成すれば、世界一の規模になる。

Blythe Solar Power Projectで採用されているトラフ式太陽熱発電システム

これだけではない。4月にエネルギー省は他にも、12日にサンルイスオビスポで計画されている250MWの太陽光発電施設への11億8700万ドルの融資保証、11日にはGoogleも投資するアイバンパ太陽光発電システムへの16億ドルの融資保証を発表した。いずれもカリフォルニア州でのプロジェクトである。

なぜ、これほどまでに自然エネルギー開発への支援に熱心なのか? エネルギー省のSteve Chu長官は「米国はクリーンエネルギー技術を開発・導入する世界規模の競争のまっただ中にいる……こうした努力が、われわれの経済的競争力を強め、製造産業を再建し、今後25年間にクリーンエネルギーの比率を倍増させるという大統領の目標達成の手助けになる」と語っている。

同省は今年2月に「SunShotイニシアチブ」を打ち出した。コスト競争力で今日の化石エネルギーを上回る大規模な太陽光エネルギーシステムを2020年までに実現するプロジェクトだ。政府、産業界、研究者や専門家の連携を図り、太陽光エネルギーシステムのコストの約75%削減、1ドル/ワットの実現を目指す。ちなみにSunShotという名称は、ジョン F.ケネディ大統領が1960年代の宇宙開発で掲げたMoon Shotから名付けた。

さて、20日に孫正義氏が自然エネルギー財団の設立とともに、東日本大震災の津波で被災した地域に太陽光発電施設を設置する「東日本ソーラーベルト構想」を語った。起業家気質にあふれた壮大な提案である。ただ、報道を見ていると記者会見では政界進出の可能性を問う質問も出てきたようで、話が壮大すぎて一部では"ドン・キホーテ"扱いされているようにも思う。しかし、どうだろう。Chu長官が言う「クリーンエネルギー技術の開発・導入の世界的な競争のまっただ中にいる」のは日本も同じだ。これがもし復興ビジョンでなく、アースディに合わせた提案だったとしても、エネルギー問題に敏感な国・地域では当たり前のように受け止められるのではないだろうか。

「原発事故が起こったから」というところからクリーンエネルギーへのシフトの議論を始めると、脱原発と原発推進の極端な論争に陥ることがままある。そもそも、これは今の原発問題に関係なく、世界的な競争の中で日本がどうあるべきかというところから議論されるべき問題ではないだろうか。その上で今の日本には世界的な競争を勝ち抜くべき、より強い理由がある。Naam氏はムーアの法則というキャッチワードを用いたが、復興ビジョンは比較にならないほど強力な産業けん引力になるはずだ。