「ネットとTVの融合」――00年代を通じて必然と言われ続けながら、米国での試みはことごとく失敗に終わってきた。しかし、今年のホリデーシーズンにはおそらくこれまでで最大の製品ラッシュが起こりそうだ。しかもメーカー側からは「今度こそは……」という並々ならぬ意気込みが伝わってくる。

今月初めにAppleがスペシャルイベントでApple TVを発表したのに続いて、先週サンフランシスコで開催されたIntelの開発者カンファレンスIntel Developer Forum (IDF) 2010でも期間中に「スマートTV」が度々語られた。AtomベースのインターネットTV向けSoC「CE4100」を採用したLogitechのGoogle TV用コンパニオンボックス「Revue Box」やD-Linkの「Boxee Box」などがホリデーシーズンに向けて登場する。

過去の失敗の山と今回の違いとして、ネットサービスをTVで利用できるようにするRokuやBoxeeなどが昨年ヒットした影響が挙げられる。きっかけは金融危機だ。米国では多くの家庭があらゆる種類のチャンネルを揃えたケーブルTVサービス(または衛星TVサービス)を契約しているが、深刻な景気低迷でムダなチャンネルが多数含まれる大型パッケージを見直す動きが活発になり始めた。ただし、基本サービスにはキー局とPBSぐらいしか含まれていない。そこで不足分をオンデマンドが基本のオンラインサービスで補う。映画好きならNetflixを利用し、ベースボール好きならMLB.comと契約するという具合だ。これらのオンライン配信サービスをTVでも視聴できるようにする低価格(59.99ドル-99.99ドル)の小型ボックスRokuの存在がケーブルサービスの見直しに拍車を掛けた。

少しずつではあるが、ネットとTVの組み合わせに対する消費者の見方が変わり、インターネットTV/スマートTVに追い風が吹き始めている。では、過去3年間の携帯市場におけるコンシューマ向けスマートフォンの台頭のような劇的な変化がTVにも起こるのだろうか?

これから登場する予定の製品をひと通り見てきた限り、スマートフォン市場に喩えれば「HandspringのTreoが登場した頃」という印象。だが、iPhoneのようなインパクトの可能性も見え隠れする。

米ABC、TV番組とiPadを同期させるアプリ

今日のインターネットTV/スマートTVは、少なくとも2つの課題を抱えている。

まずパーソナルなネットサービスとTVの相性だ。IFAでGoogleは「携帯にWebブラウザが当たり前になったように、TVにもブラウザが不可欠になる」と述べていた。IDFで同社はGoogle TVのデュアルモードのデモを披露した。TV番組を視聴している途中でWebブラウザでFacebookを確認すると、デュアルモードではWebブラウザ画面の片隅にTV番組が表示され続ける。TVとインターネットを切り替えることなく、シームレスにTVとWebを利用できる。

Google TVのデュアルモードのデモ。TV番組(画面右下)を見ながらFacebookを確認

共存のデモはすばらしいものだったが、こうしたデモではいつも「メールやFacebookをTVで確認したいだろうか?」と思ってしまう。たとえやましいことがなくても、個人のSNSやメールアカウントは誰かの目の前で開きたいものではない。"パーソナル"コンピュータで利用していることを、そのまま"ファミリー" ルームのTVに持ち込みたいかというと、多くの人が首を横に振るのではないだろうか。何を見せるかは、たとえ家族の間でも慎重になる。検索の入力サポート機能で普段の検索の傾向が表示される程度でも、なんだか落ち着かない。ところが今のインターネットTV/スマートTV製品には"パーソナル"TVを前提にしているような機能が目立つ。だが、TVは必ずしもパーソナルではないのだ。

2つめは操作性だ。TV上でのインタラクティブなネットサービスの実現が語られているにもかかわらず、TVでの操作方法や入力方法がほとんどアピールされていない。Google TVのデモではワイアレス・キーボードを使っているし、Boxee Boxには小型キーボードを備えたリモコンが付属する。これらはPCのキーボードを、そのまんまである。iPhoneが携帯電話でのWeb利用をユーザーに浸透させたのはマルチタッチ・インタフェースのおかげと言っても過言ではない。同じようなゲームチェンジャーを組み合わせなければ、Googleが語るような「TVにもブラウザがあたり前」は難しいのではないだろうか。

数多くのネットサービスをサポートし、パソコン内の幅広いファイルを再生できることで話題のBoxee Box。リモコンは背面にQWERTYキーボードを備える。

自分でも驚いているのだが、一昨日に新しいApple TVを予約した。発表直後にはまったく食指が動かなかったのに、これから登場する製品を色々見てきた結果、Apple TVを試してみたいと思えてきたのだ。

これまでのところ、Apple TVに対する芳しい意見はほとんど聞こえてこない。理由の1つに、Netflix、Flickr、YouTube、MobileMeのみという対応ネットサービスの少なさが挙げられる。Apple TVを繋いでもTVはあまりスマートになりそうにないというわけだ。しかし、家族で使うTVでもトラブルなく利用できる映画・TV番組配信と動画および写真共有サービスに厳選されている……と考えたらどうだろう。どうもAppleは、iPadまたはiPhoneをTVのコンパニオンと位置付けているようなところがある。特にiPadだ。今年秋にiOS 4.2がリリースされれば、iPadやiPhone内のコンテンツをApple TV経由でTVにストリーミングできるようになる。

TVの前にiPadがあれば、TVを見ながらメールやFacebookをチェックできるし、調べ物も自由自在だ。動画や写真、音楽など共有したいコンテンツだけをTVにストリーミングする。それで十分ではないかと思う。

米ABCが9月16日にコメディドラマ「My Generation」用の無料iPadアプリ「My Generation Sync」をリリースした。iPadのマイクが拾った番組の音声からエピソードを判断し、Media-Sync技術によってクイズや登場人物紹介といった関連コンテンツをiPadに配信する。音声認識なので録画した番組にも対応できる。iTunes Storeのレビューでは、人気番組とは言い難いMy Generation専用というところに不満が噴出しているものの、番組とiPadを同期させるというアイディアは概ね好評を博している。TVの前にiPadを置いているユーザーがすでに多数存在し、そしてTVとiPadの連係は大歓迎であるようだ。

スマートTVとひとくちに言ってもアプローチは様々だ。なにを以てスマートTVを実現するか? TVそのものをスマートにするか、それともスマートな第2のディスプレイをTVの前に持ち込ませるか……ネットとTVの融合をめぐる攻防は、ここから始まっている。