米Appleが4日(米国時間)に、HTML5、CSS3、JavaScriptなどWeb標準技術で構築されたWebサイトのリッチな表現力や機能を紹介するショーケースページ「HTML5 Showcase」を公開した。Safariブラウザを使って、ビデオ、フォントの装飾、写真ギャラリー、仮想現実など7つのデモを体験できる。話題になっているので、すでに試した方も多いと思う。

この「HTML5とWeb標準」サポートを謳ったデモに対してMozillaのエバンジェリストChristopher Blizzard氏が、看板に偽りがあると批判している。「この書き込みの内容はブラウザ市場の関係者全員が分かっていることだ。だが、これまで誰も声を大にして言わなかった。そろそろ誰かが王様(の本当の姿)を公にする時だ」と言う同氏が叫んだ言葉は……。

"HTML5"がバズワード化した弊害

AppleのHTML5 ShowcaseのデモはSafariでしか体験できない。他のブラウザで動作させようとすると、Safariのインストールを促すポップアップ画面が現れる。

Chromeを使ってAppleのHTML5 Showcaseを体験しようとすると、Safariのインストールを促すメッセージ

"Safari限定"のHTML5デモからは、Safariが一歩先を行くブラウザであるようなイメージが伝わってくる。では、SafariしかHTML5をサポートしていないのかというと、もちろん答えは「ノー」である。

GoogleやAppleがHTML5のリッチな表現力やマルチメディア対応などを喧伝し、HTML5への移行を後押ししてきたことで、HTML5はウエブの将来を示すキーワードとして定着した。こうしたHTML5に対する注目の高まりは歓迎すべきことだが、HTML5がバズワード化し、企業が先進さをアピールするための手段として利用し始めたことをBlizzard氏は懸念する。

「HTML5で最も重要なのはvideoやcanvasではない。相互運用の実現が誓約されていることだ。10年近くもWebを停滞させたMicrosoftですら、この点を理解しているのが、IE9のマーケティングで見て取れる。同じマークアップが、例えそれがミスであっても、まったく同じようにレンダリングされるのが重要なのだ。HTML5はブラウザが一体となって働き、共有地を見出すチャンスを意味する」と指摘している。Safariでしか体験できないのなら、それは「HTML5とWeb標準」のデモではない。Appleのデモは、標準化プロセスの最中にある機能のデモに過ぎないとしている。

「Appleのメッセージからは"オレたちはWebを愛している"という意味がはっきりと伝わってくるが、他のブラウザを積極的にブロックするデモと、そのメッセージは明らかに矛盾している。 全くもって"intellectually honest"ではない」(Blizzard氏)。Mozillaは、たとえ後退になるとしても可能な限り多くのブラウザとの相互運用を優先し、またデモやメッセージにおいて標準プロセスに含まれないものを示すときは、その点を明示するという。

相互運用実現からスタートしたHTML5

AppleはHTML5 Showcaseの説明で「以下のデモはAppleの最新版のSafariブラウザ、最新のMacおよびAppleのモバイルデバイスが、HTML5、CSS3、JavaScriptの機能をどのようにサポートしているかを示すものです」と記している。Blizzard氏の書き込みに対するコメントを読むと、HTML5 ShowcaseはSafariの機能デモであり、相互運用は必ずしも必要ではないという声が少なからず見られる。

筆者も、Webの可能性をエンドユーザーに分かりやすく伝えるHTML5 Showcaseのような試みがもっと出てきて欲しいと思っている。ただ、こうした技術が"フィードバック・プロセス"にあるのもまた重要であり、その点を含めて広く知らされるべきだと思う。Blizzard氏がAppleのデモを問題視しているのは、同社がapple.com/safariではなく、apple.com/html5で、Safariをアピールしているからだ。

そもそもHTML5では、なぜこれほどに相互運用が重視されるのか?

それはHTML5が現場の声から始まったという背景に起因する。HTML4が勧告されたのは1997年と10年以上も前になる。その後XMLをベースにしたXHTMLへと舵が切られたものの、複雑すぎて一般的な普及には至らず、一方で貧弱なままのHTMLはウェブの目まぐるしい変化に対応しきれず、ウエブアプリの世界は技術的な分裂に陥った。そんな状況を不満に思った技術者の間から、ウエブの進化をもう一度シンプルなHTMLにまとめ上げてみてはどうかという声が出てきた。それがHTML5に至る。土台にはMozilla、Apple、Operaなどが、モダンブラウザの実現に向けて2004年に結成したWHAT WGという団体の成果が用いられている。

今年のGoogleの開発者会議で初日基調講演後のQ&Aセッションで、「以前HTML5のW3C勧告が2022年以降になるという記事が話題になったことがあるが、それでもHTML5は今のWeb標準技術と言えるのか?」という質問が出てきた。これに対してGoogleのエンジニアリング担当バイスプレジデントLinus Upson氏は、WHAT WG設立に至る経緯を丁寧に説明した上で、「標準化で最も重要なのは、すべてのブラウザが同じように振る舞うことである。たとえ標準化委員会が完成のスタンプを押すまでに長い時間がかかるとしても、すべてのブラウザベンダの合意が得られれば、それは標準として認められる。公式ではなくても、ブラウザベンダの素晴らしい合意の下、多くのアプリケーションがその機能の恩恵を受けている」と述べた。

相互運用なくしてHTML5は成立しないのだ。