軽妙なトークで安定した視聴率を稼ぐベテラン司会者と、好き嫌いが分かれるけど辛口トークが魅力の型破りな司会者……あなたなら看板トークショーの司会者にどちらを起用するだろうか?

昨年6月に始まったばかりのコナン・オブライエンの「Tonight Show」が22日に終了した。視聴率の低迷が理由で、今年3月から前ホストのジェイ・レノが復帰する。

ネットのあちこちで見られる「I'm With COCO」イラスト

NBCは5,000万ドル(約45億円)を投じて新スタジオを用意するなど、オブライエンのTonight Showに力を入れていた。終了は断腸の思いだったと思う。しかし期待していたほど視聴率が上がらなかったのだから仕方がない……と、これまでなら視聴者を含めて誰もが納得していたはずだ。ところが、オブライエン降板の噂が持ち上がると同時に反対運動で大騒ぎになった。終了までの間は3週間程度だったと思うが、ネット上のあちこちに「I'm With COCO(コナン・オブラインのネットでの略称)」というサポート運動が広がり、さらにオブライエンを支持するリアルな集会が全米各地で行われた。視聴率からは想像できない、大した人気ぶりである。ジェイ・レノのトークショーが打ち切りになっても、こんな騒ぎにはならないと思う。

この奇妙な騒動、原因はテレビ世代とネット世代のものさしの違いにある。レノは前述の"安定したベテラン・ホスト"であり、オブライエンは"好き嫌いが分かれる型破りなホスト"なのだ。オブライエンはネット世代に強く支持されている。だが、そうした視聴者はテレビ放送では見ないため視聴率につながらないのが、皮肉にもオブライエン降板の引き金になった。

トゥナイトじゃないTonight Showに反発

The Tonight Showは午後11時35分に始まるトークショーで、1954年から放送されているNBCの看板番組だ。Tonight Showのあとに0時35分から始まる「Late Night」ショーも人気があり、この2つのトーク番組によりNBCは深夜帯でライバル局を圧倒している。これまで積み重ねられた歴史も考えると、NBCの……というよりも、米国を代表する深夜トークショーと言える。

昨年春にNBCは、長年Tonight Showのホストとして安定した視聴率を稼ぎ出していたジェイ・レノに、午後10時から「The Jay Leno Show」を持たせた。Tonight ShowのホストにはLate Nightショーで高く評価されていたコナン・オブライエンをスライドさせ、Late Nightショーの新ホストにサタデーナイトライブ出身のジミー・ファロンを迎え入れた。それまで11時35分から2時間の深夜トークショーの一人勝ち状態を、10時からに広げようとしたのだ。

  • 10:00-11:00 - The Jay Leno Show (ジェイ・レノ)
  • 11:00-11:35 - ローカルニュース
  • 11:35-0:35 - The Tonight Show (コナン・オブライエン)
  • 0:35-1:35 - Late Night (ジミー・ファロン)

ところが、新体制ではレノ、オブライエンともに視聴率が伸びなかった。レノはお茶の間受けするタイプだが、それでもプライムタイムにトークショーが馴染まなかったようだ。一方オブライエンの辛口トークは0時過ぎの深夜枠で通用しても、比較的一般視聴者向けのTonight Showでレノほどの視聴率を稼げない。

そこでNBCはJay Leno Showを30分に短縮してTonight Showが始まる時間帯に持ってくる新スケジュールを提案した。オブライエンのTonight Showは0時05分スタートになる。

  • 11:35-0:05 - The Jay Leno Show (ジェイ・レノ)
  • 0:05-1:05 - The Tonight Show (コナン・オブライエン)
  • 1:05-2:05 - Late Night (ジミー・ファロン)

これに対してオブライエンは「Tonight Showが翌日開始になってしまっては、もはや"トゥナイト・ショー"ではない」と反発。0時05分開始ならばホストを降りると宣言し、すったもんだの末に最終的には4,500万ドルをNBCがオブライエンのチームに支払うことで両者が合意。22日にわずか約8カ月でオブライエンのTonight Showが終了した。

ネットTVの「Revision3」がオブライエン獲得宣言

ジェイ・レノとコナン・オブライエンは、同じTonight Showのホストでもスタイルがまったく異なる。レノはスタンドアップ出身で昔ながらのコメンディアン。誰からも好かれるタイプだ。一方オブライエンは、シンプソンズやサタデーナイトライブの構成作家を務めていた。どちらも一般向けとは言い難い番組で、視聴率はそこそこ。だが、風刺やシニカルな切り口を好む熱狂的なファンを抱えている。

サタデーナイトライブと言えば、YouTubeが登場した時、すぐにサタデーナイトライブのコントがアップロードされているのが問題になった。著作権侵害という形ではあるが、見方を変えて考えれば、サタデーナイトライブはビデオを共有できるようになったネットユーザーから真っ先に選ばれた番組と言える。

同じことがオブライエンがホストするTonight Showにも言える。風刺の効いたトークに眉をひそめる視聴者が多いものの、オブライエンを好む視聴者は根強く支持する。その層はティーンエイジャーから30代前半のネット世代である。彼らは放送時間帯に番組を見ない。DVR、またはHuluやYouTubeなどで見て、ネットを通じてさらに広がっていく。話題性が高く、オブライエン・ファンにしてみれば「こんなに面白くて、話題のネタを提供してくれる番組なのに、なぜレノに時間帯を譲る必要があるのか?」となる。だが、視聴率はレノの方が高いのだ。

オブライエンのサポーターの中からは、DVRとネットの時代に放送時間帯など関係ないという声も出てきた。打ち切りより、新作が作られることに価値があるというわけだ。だがオブライエンは声明の中で「"Tonight Show"に限っては、(放送時間に)こだわりを持ちたい」と述べており、こうしたオブライエンの考え方もネット上で支持された。結果的にネットを中心としたオブライエン支持の運動は、視聴率でしか評価しないNBCへのネットユーザーの不満が爆発した形になっている。

NBCとの合意により、オブライエンは7カ月間はトークショーをホストできない。解禁は今年の秋シーズンからだ。報道では、FOXがオブライエン獲得に関心を持っているという。

オブライエンを狙っているのはTVネットワークだけではない。サンフランシスコを拠点とするインターネットTV「Revision3」がオープンレターを通じてオブライエンに番組ホストを提案した。オープンレターはオブライエンのトークショーのようなシニカルな表現で書かれているので、どこまで本気なのか見当がつかない。「競争力のある年俸 (オプラよりも多い金額をNBCから受け取るんだから、気にするかい?)」はジョークとしても、「ネットワークからの検閲フリー」「優秀な広告営業チームが売上どんどん」「視聴者をがっちりとつかむソーシャルメディア戦略」あたりの口説き文句は検討に値するのではないだろうか。

過激なトークが売りのハワード・スターンが衛星ラジオに移籍し、新聞・雑誌の人気コラムニストがネットに活動の場を移しているように、Tonight Show問題はTVタレントのネットへの移籍を加速させるものになるかもしれない。オブライエンがいきなりRevision3というのは現実的ではないものの、7カ月後にどのような形で戻ってくるかは興味深い。いずれにしてもコナン・オブライエンが次にホストする番組はネット・コミュニティの期待に応える必要がある。オブライエンも当然意識しているだろうし、TV局もそれを覚悟してオブライエンを採用するはずだ。

2004年にハワード・スターンは、より自由に活動できる衛星ラジオに移った

一方NBCでは、11時35分に戻ってくるレノがオブライエン以上の視聴率をたたき出すだろう。しかし数年後、今回オブライエンを支持したネット世代が40代にも広がったらどうなるだろう? 長い目で見て、NBCは本当に賢明な判断を下したと言えるのだろうか?