あなたは、仕事の悩みを誰に話しますか?

家族? 親しい友人? 会社の同僚? では、なぜ、その人にだけは「話せるor話したい」と思うのだろうか。

  1. 自分自身のことや、仕事の内容を理解している
  2. 真剣に/優しく、話を聞いてくれる(目線、うなずき、笑顔、丁寧な言葉遣い、など)
  3. 会話のリードがうまく、どんどん話が進む
  4. その人と話すと何か新しい発見がある、または新しい解決策を提示してくれる

などが挙がるだろう。

実は、プライベートの悩み相談も、提案活動におけるお客様との対話も、求められることは同じである。お客様に「この人になら、うちの会社の課題(悩み)を話してもよい」と思わせてこそ、"良い対話"を実践でき、"良い提案"が可能となる。

アビームコンサルティングが企業の法人営業担当者を対象に行ったある調査で「主な失注の原因」として最も多く挙がった項目のひとつが、「顧客の課題(悩み)の把握不足」であった。これを解決するには、新聞やIR資料の情報を集めるだけでは不十分で、やはりお客様との対話を繰り返していくしかないのだが、そこに「スキル」が必要なことはあまり意識されていない。

今回は、「聴く、考える、伝える」の3つの基礎スキルのうち、「聴く」技術に焦点を当てる。なお、最初に挙げた4つの要件のうち、1(前提の共有)と2(態度)は基本中の基本であるが、イメージがしやすいと思うので割愛し、あとの2つの要件に関して、代表的なスキルをご紹介したい。

質問の「種類」を使い分けて、会話をリードする

「○○事業の課題は何ですか?」

「うーん……(課題って言われてもねぇ、何をどこまで答えればよいの?)」

で、会話が止まってしまう、というのはよくある話。

会話をリードするには、「質問の種類」を意識する必要がある。たとえば、

  • オープンクエスチョン
  • クローズドクエスチョン

言葉だけは知っていても、場面に応じて使い分けることができる人は少ないのではないだろうか。

会話の始まりや、口数の少ない人に対しては、Yes/Noで答えられるクローズドクエスチョンか、オープンクエスチョンの中でも、数(How many?)や金額(How much?)などの比較的答えやすい質問を使うとよい。

たとえば、ある部門の課題について聞きたい場合、いきなり本題に入らず、最初は「○○の売上は、この3年で倍になりましたね」「現在のご担当は何人ですか?」などと切り出せば、相手もあまり悩まずに答えられるだろう。そこから会話を始める。

だんだん雰囲気があたたまり、相手も会話に乗ってきたら、オープンクエスチョンの出番。

What?やHow?などの、漠とした質問は、話題を拡げて聴きたい時や、ある程度自由に話してもらいたいときに有効である。また、そのテーマに関して明確な意見を持っていたり、高い見識を持っている人、経営層など、「その人自身が発した言葉」が重要なときは、意識して多めに使うこともある。

会話が終盤にさしかかったら、それまで聴いた内容を頭の中で纏めながら、自分の認識があっているかをクローズドクエスチョンで確認していくのがよいだろう。

仮説をぶつけて、深い悩みを引き出す

「英語がなかなか上達しなくてね…」

「そうですか~。大変ですね。何が問題なのでしょうね?」

「……」

これも、よくある悪い例。お客様は、自分にとってのプラスα(新しい気付きや、解決策)がないのに会話を続けるほどヒマではない。

より深い議論をするためには、会話の前に、徹底的に「仮説」を準備しておく必要がある。ここで言う仮説とは、何がこの人(企業)にとって優先度の高い課題で、どうしたら解決できるのか、の「当たり付け」である。「呼び水」として仮説をぶつけることで、その後の会話を膨らませるきっかけとなるし、限られた時間の中で、重点的に討議をする部分を特定するためにも必須である。

「英語がなかなか上達しなくてね…」

「ネイティブと話す機会が足りないのでは? マンツーマンの英会話学校に通われてはいかがですか?」

「いや、僕の職場では会話のスキルは必要ないよ。それに、忙しいから学校は無理だね」

「……」

これは、仮説らしきものをぶつけてみた点は良いが、その後の質問が「構造化」されていないがために行き詰ってしまう例である。

「仮説」はあくまでも「仮」の説であり、最初は必ずしも正解である必要はない。上記の例で言えば、英会話学校という案をぶつけることで、「会話力は不要」「学習の時間がない」という、重要な事実を掴めたので、一歩前進。次回は、より精度の高い提案を行うことができるだろう。

ただし、さらにもう一歩深く、相手の悩みを特定していくには、質問の「構造化」が必要となる。

たとえば、「英語を上達させたい」という悩みも、「聞く」「話す」「読む」「書く」のどのスキルを伸ばしたいのかによって問うべき内容は違う。また、「そもそも学習していない」のか「学習しているが効果がないのか」も確認すべきだし、「学習していない」としても、「時間がない」のか「手段がない」のかによって解決策は異なる。このように、聴くべき内容をツリー構造で整理しておくことで、真の悩みがどこにあるのかを議論しやすくなる。また、「仮説」が外れてもすぐに会話を立て直すことができる、重要なポイントの聴きモレがなくなる、時間配分がしやすい、などのさまざまなメリットもある。

以上、抜粋ではあるが、聴く技術についてご紹介した(詳しくは弊社のビジネスコアスキル研修についての説明をご参照いただきたい)。これらを実践することでお客様との"良い対話"が生まれ、"良い提案"につながる一助となれば幸いである。

執筆者紹介

水野美歩(MIZUNO Miho)

アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部マネージャー。早稲田大学政治経済学部卒。大手総合商社を経て、2000年にアビームコンサルティング入社。営業部門、間接部門の業務改革、新規事業立ち上げ、海外進出支援等のコンサルティング経験多数。提案力強化のトレーニング講師も担当。