東京都世田谷区にある人気のハンバーガー屋さん「ファンゴー」。こちらのお店の経営者であり、他にも都内でアップルパイやハンバーガーの店舗を運営する関俊一郎さん。

一見無関係に見えるハンバーガーと数学にも深い繋がりがあるのだということで、取材をさせていただきました。

―外装もインテリアも素敵なお店ですね。こちらの店舗はいつから営業されているんですか?

こちらの店舗は1995年12月にオープンしました。今年で18年目ですね。

―関さんはどうしてハンバーガー屋さんをはじめられたのですか?

僕はアメリカのバークレーにある大学に通っていたのですが、バークレーという街はカフェ文化が盛んな街でした。ワンちゃんを連れてお店でランチ、というスタイルは今でこそ日本でも見られるようになりましたが、当時はとても新鮮でしたね。

だから、僕の学生時代のお昼はほとんどがサンドイッチでした。

―なるほど、関さんにとってサンドイッチやハンバーガーはとても身近な存在だったんですね

はい。当時、特に新鮮だったのはフィリング(ハンバーガーやサンドイッチに挟む具材)を変えていろいろと楽しめるという点ですね。フィリングだけではなく、パンも好みのものを選べたり、オニオンをローストしてくれたり、そういったさまざまなニーズに応えてくれるところが魅力的でした。そういうスタイルのお店が当時の日本にはあまりなかったですからね。

学生時代の懐かしさと、なんで日本にないんだろう、あったらいいな、というのがお店をはじめたきっかけです。

―たしかに自分好みにハンバーガーやサンドイッチを作ってもらえるお店が普及したのは最近ですものね

当時のハンバーガーやサンドイッチはイメージ的に安いものでしたからね。高くてもライフスタイルに合わせて食べたい、そのような考え方の提案にチャレンジしたかったんです。

―関さんが飲食店経営をされるなかで、数学が役立っていることはなんでしょうか?

これは飲食業界全部に言えることですけど、原材料、原価の考え方があります。たとえば、試算や損益、これはあたり前ですね。そして、お店を作らなければいけませんから、飲食店経営には投資が必要です。調理設備はもちろん、営業許可をとるための排気システムや防水システム、洗浄機、焼き器、エスプレッソマシーン。さらに、いい雰囲気を作るための内装、家具なども重要です。

初期投資がたくさんかかるんですね。これを4、5年で償却するというのが理想だと言われています。

―まず商品を売るまでのプロセスが大変なんですね

もちろん、営業を始めたあとの損益計算も必要です。店をオープンさせても家賃や人件費、材料費、水道代、光熱費などかかるものはたくさんあります。それらを売り上げの中から引かなければなりません。

これらを考慮して、原価率は売り上げの30数%くらいがちょうどいいとよく言われています。

―売った商品がそのまま利益になるわけではありませんものね。投資が常に売り上げに関わってくるわけですね

とくに原材料はシビアです。いくらだったらこれが売れるだろうか、ということですね。ハンバーガーは原価も高く、レタスなどの葉ものは収穫高によって相場が変動します。トマトやオニオンも時季によって収穫できるエリアが変わりますね。チーズはうちの場合は輸入なので、為替によって値段が変わってきます。お肉もオーストラリアやアメリカからの輸入ですから変動しますね。パテ(ハンバーガーに挟むお肉)は手作りですから人件費もかかります。

―いろいろな要素を加味して値段を決めなければならないのですね

基本的な算数かもしれませんが、これらはとても重要なものです。新商品を考える時にも、数字のことは絶対に考えなければなりません。

うちはあまり商品の値段を変えませんが、お客さんは商品の値段を他のメニューとのバランスでみますから、そこも重要です。お客さんが原価をくみ取ってくれるわけじゃないですからね。

―ところで関さんご自身は、数学をどのように学んでこられたのですか?

高校のときは数学を勉強していませんでしたね。努力してなかったから点数も悪かった(笑)。

でもアメリカの大学へ行き、一般教養の授業を受けながら一生懸命勉強したら、ほぼトップクラス。数学の授業はおもしろかったですね。だから数学は大好きですね。たとえば車を運転していても、目的地には何時につくだろう? とか、燃費はどのくらいだろう? とかいつも計算してしまいますね。

―生活でも仕事でも、数学はいつもそばにあるんですね。関さんにとって数学とは生きるためのツール、ということでしょうか

明日のための仮説をたてる、それが数学だと思います。売り上げが下がっている、その原因はなんだろうと考える。レタスの原価が上がっている、限定のワインがたくさん売れた、そういった仮説の筋道をたてて、原因を探るんです。

スタッフの反省会もそのためにやるわけですからね。これはとても数学的な考え方だと思いますよ。

―明日のために仮説をたてる、すばらしいお言葉です。本日は貴重なお話、ありがとうございました

私たちが日常生活で利用する飲食店も、関さんがされているような綿密な計算に基づいて料理を提供しているんですね。

関さんの常に先を見ながら計算し続けるという姿勢はぜひ学びたいものです。学生時代には生活に無関係に思えた数学の勉強も、仕事の場においては様々な方向で役に立つということなのでしょう。関さんのように、数学を武器に日々の経営を考えている人がいらっしゃるということがわかったことも、大きな収穫でした。関さん、明日のために仮説をたてる数学のお話をありがとうございました。

今回のインタビュイー

関 俊一郎(せき しゅんいちろう)
1967年、長野県諏訪市生まれ。
カルフォルニア大学バークレー校に進学して海外で学生時代を長く過ごす。経営コンサルティング会社に勤めた後、株式会社ファンゴーを設立する。

ファンゴー
住所:〒154-0002 東京都世田谷区下馬1-40-10
TEL/FAX:03-3795-1144
E-Mail:cafe@fungo.com
営業時間
日~木(9:00~23:00)
金/土(9:00~25:00)
デリバリー(11:00~22:00、無休)

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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