横浜市鶴見区にあるゆたか樹脂株式会社はプラスチック加工を主な業務とする町工場です。

今回は数学とプラスチックとの関わりについて、ゆたか樹脂株式会社社長の佐久間史幸さんにお聞きしてきました。

―本日はよろしくお願いします
こんにちは。ゆたか樹脂社長の佐久間です。今日はよろしくお願いします。まずは工場の中をご案内しましょう。色々と目をひくところがあると思いますので。

―ありがとうございます。それにしてもすごい数のプラスチック板が並んでいますね ゆたか樹脂のルーツはプラスチック問屋なんです。プラスチック加工をおこなっていますが、同時に現在でもプラスチック板の卸売業は事業の中核なんですよ。だからさまざまな材質や寸法のプラスチック板がここに並んでいるんですね。

これらの板を成型して加工する工場は大切なお客様でして、当社のプラスチック加工の歴史は、そういったお客様に1時間でも早く材料をお届けするため、板をご注文の大きさに切る機械を入れたことが始まりです。

樹脂の加工についてお問い合わせがあった時に、成型加工した方がよい場合はそういった皆様に成型加工のご協力をいただいているんです。

―こちらでやっているのは切り出し作業ですか? いかにも職人技といった作業ですね
温度や湿度によってさまざまに変化する材料を手作業で材質ごとに微調整するんです。小さな工場ですが腕のいい職人さんが集まっているので、技術力には自信があります。まさに職人あってのゆたか樹脂ですね。

こちらの研磨したプラスチック(下の写真参照)を見てください。これほどの透明度を出す研磨技術などは、職人の技術の結晶と言っていいでしょう。

―プラスチック板のなかには、特殊な材質のものもあるんでしょうか?
はい。たとえば特殊なアクリル板は、風景が写りこみにくいのに透明度が高い、という特長をもっています。美術館の展示ケースなどで使用するものですが、非常に高価なもので日本ではまだほとんど知られていません。

このような特殊なプラスチックのご提案や加工も得意としていますよ。

―特殊な需要に対応できるのもゆたか樹脂の強みなんですね。こちらの部屋にあるのは、家やビルのミニチュアの模型ですか?
こちらは有限会社ハート・プランニングさんの部屋で、当社でご提供しているプラスチックを使って建築模型を作っている会社なんですよ。建築模型は設計図どおりにスケールダウンしなければならないので、素材となるプラスチックには精密さが要求されますね。

―工場の中をひととおり見せていただきありがとうございます。これらの現場で役立っている数学を、具体的に教えていただけますか?

まず、わかりやすいのはクオリティコントロールのための数学ですね。たとえば1万個の製品を作るとします。そのうちのどれだけを検品すれば不良品を取り除いて品質を維持することができるかという計算。これは確率や偏差値の利用ですよね。

―生産の現場では不可欠な数学ですね

他にもありますよ。たとえば、指定の大きさのモーターとギア、それを納めるボックスをプラスチックで作って欲しいという依頼があったとしますよね。そのときに適切な材料を探す手間や、仕入れ価格と原材料費、予測される作業時間と人件費などを見積もって顧客に提案する必要があります。それらをきちんと体系的にデータとして提供し、見積もりを出すためにも数学が必須です。

安価な中国製が台頭するなか、当社が生き残ってきた理由は顧客の細やかなニーズに応えてきたからです。優秀な職人さんの技術を生かしながら、ニッチな需要に応えていくためにも数学は大切ですよね。

―なるほど。技術だけではなく、それを生かせる現場も数学がなければ作り出せないというわけですね

加えて、近年では環境負荷を減らすためにも数学が重要ですね。たとえば長方形のプラスチック板から円形を切り出す時、ただ円形を並べた形で切り出すのではなく、少しずらしながら並べることによってより多くの円形を1枚の板から切り出せる、なんて例もあります。

もちろん利益率も良くなるわけですが、切り出したあとで余ってしまうプラスチックも減らせるので、結果的に環境にもやさしいわけです。これなんてそのまま図形の問題ですよね(笑)。

佐久間さんが用意してくださったプラスチック切り出しの問題例

―そのまま数学の問題にできますね。佐久間さんは昔から数学がお得意だったのですか?

高校時代は数学が大好きでした。ただ、大学は推薦をとれず理系ではなく経済学部に進みました。けれども、経済学部でも数学を使うことに変わりはありませんでしたね。常日頃から数学が仕事の一部になってしまっているので、ことさら意識することはあまりないですけど(笑)。

―まさに現場で役立つ数学ですね。今日はお忙しいなか貴重なお話どうもありがとうございました

はい。プラスチック加工については私たちになんでも聞いてくださいね。

職人さんの精密な手仕事を支える数学のお話でした。特にお客さまのニーズに合わせるための数学、という観点が新鮮です。効率化というのは大量生産によるマスのための利益だけじゃなくて、ピンポイントのニッチな需要に応える可能性も持っているのでしょう。日本のものづくりの未来も、数学が大きな鍵を握っている、そんな印象を受けた取材でした。プラスチック加工のこれからを担う若き社長の佐久間さん、社会で生きる数学の貴重なお話をありがとうございました。

今回のインタビュイー

佐久間 史幸(さくま ふみゆき)
1965年横浜市生まれ。
学習院大学経済学部卒業後、不動産会社や漫画家アシスタントなどを経験。サイン・ディスプレイの企画も行う建設会社・株式会社アトムに入社後、ゆたか樹脂社長であった父が亡くなったことを機に会社を継ぎ、2代目社長に就任。ゆたか樹脂をアトムの協力工場に置き、東京と横浜を往復する。

ゆたか樹脂株式会社
〒230-0003
神奈川県横浜市鶴見区尻手2-1-54
045-571-2441

このテキストは、(財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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