「山形新幹線」という名の新在直通が始まってから、もうずいぶん長い時間が経過した。その後に登場した「秋田新幹線」ともども、東北新幹線内では併結運転を行い、ダイヤの過密化を抑えている。そのため、福島駅で「やまびこ」と「つばさ」、盛岡駅で「はやぶさ」と「こまち」の、分割・併合を行っている。

この形態が始まってから、もうずいぶんと経過するが、依然として見物人がひきもきらない。ところで、この分割・併合は意外と簡単な仕事ではない。

併合の際には安全対策に注意

鉄道における衝突防止のための基本原則は、「線路を複数の閉塞区間に区切って、ひとつの閉塞区間にはひとつの列車しか入れない。他の列車が入ってこないように信号機でコントロールする」である。

複線区間での追い越しや待避、単線区間での追い越し・待避・交換(行き違い)の際にはいずれも、この原則に則って列車の動きをコントロールしているので、信号の現示をちゃんと守っている限り、衝突は起こらない。

ところが、この原則を外れないと成り立たない場面もある。その典型例が、2本の列車を併合する場面だ。車両基地、あるいは貨物列車などで行う編成替えも、機関車の連結も同様である。ひとつの閉塞区間にひとつの列車しか入れないという原則を固持すると、併合しようとしても連結できるところまで接近できない。

だから、併合の際には前方に別の列車(連結あるいは併合する相手)がいる状態でも前進できないと具合が悪い。そこで、停止信号、あるいは停止の合図を出して手前でいったん止めてから、ゆっくりと前進させるようにしている。その際に前進を認めるかどうかを示す手段として、誘導信号機というものがある。

この辺の考え方は新幹線の場合でも同様だ。福島なら上り「やまびこ」が先着していて、そこに後ろから「つばさ」がやってきて併結するのだが、その際には必ず、手前でいったん停止する。盛岡でも同様で、上り「はやぶさ」が先着していて、そこに後ろから「こまち」がやってきて、やはりいったん停止する。

この停止位置の先には場内信号機があって停止信号を現示しているので、その手前で止まらないと信号冒進事故になる。そこでいったん停止した後、ゆっくり前進しながら連結する。

ところで。在来線で貨物列車の入換や機関車の連結を行う場面なら、連結の際には係員が距離を見ていて、運転士や機関士に誘導の合図をしている。ところが新幹線の併結では、誘導を担当する係員がいない。

貨物列車に機関車を連結する場面。機関車のデッキに、誘導を担当する係員が乗っている(関西本線・富田駅で)

新幹線ではレーザー測距を取り入れているようだ

実は、「山形新幹線」がスタートした当初から、ここのところでちょっとしたハイテク化が図られている。新幹線電車の分割併合装置には、連結器(車両同士を物理的につなぐ)と電気連結器(電気系統を一緒につないでしまうためのもの)に加えて、レーザー測距装置が仕込まれているようだ。

レーザーを使用しているのであれば、考え方は軍用などでおなじみのレーザー測遠機(レンジファインダー)と同じだ。レーザー・パルスを送信して、反射波が戻ってくるまでの時間を調べることで距離を把握する。レーザーの速度はすなわち光の速度だから、発信から反射波の受信までの間にかかった時間を基に往復の距離を計算して、それを2で割れば車間距離が出る。

また、連続的に距離の変化を調べれば、接近する際の速度も分かる。そこで、衝突せず、かつ適切に連結できるように速度を自動制御することも可能になる。運転士の注意力「だけ」に頼らなくても済めば、それだけ安全性が向上する。

ちなみに、レーザーによる距離測定は架線の摩耗状況検測でも用いられているが、そちらの方が高頻度で、かつ相手が細いから大変かも知れない。

なお、新在直通に伴う新幹線電車の併結では、止まって待ち受けている側と、そこに後ろからやってきて併結する側の関係は常に決まっている。車間の測距が必要なのは動いている側、つまり後ろから併結する側の列車だけだから、測距用の機材は「つばさ」「こまち」の東京方先頭車にだけ付いていれば用が足りそうだ。

ちなみに、「こまち」のE6系とペアを組むE5系の分割併合装置を見てみると、連結器の上方に四角い板状のものがある。E6系の側から発信するレーザーを確実に反射するためのリフレクターだろうか?

盛岡駅で分割併合装置のカバーを開けて、「こまち」のE6系を待ち受けるE5系。連結器の上にリフレクターらしき板が見える

ところで。上越新幹線で使用しているE4系では、E4系同士が併結することがあり、しかも「新潟方に連結する編成」「東京方に連結する編成」と固定しているわけではない。だから、E4系の分割併合装置は、その編成が東京方・新潟方のいずれに位置していても対応できるような機器構成になっていなければならないはずである。

常に東京方の編成が先着して待ち受けて、そこに新潟方から追いかけてきた編成が併結するのであれば、東京方には測距装置、新潟方にはそれに対応するリフレクターがあれば用が足りそうだ。

余談だが、分割の場合には話はずっと単純になる。先行する列車が連結器を切り離して出発した後、次の閉塞区間に入れば、後続の列車も出発できる。だから、測距装置の出番はない。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。