本連載の第6回第31回で取り上げている、デジタルATCやATS-Pみたいにパターン制御式の保安システム以外でも、列車と地上の間で情報をやりとりする事例が増えている。当然、そこでは何らかの通信が働いている。信号保安システムと同様、デジタル通信技術を利用することで、やりとりできる情報の量が増えるし、エラーチェックによって信頼性も向上する。

新幹線の列車番号設定

新幹線は当初から列車集中制御装置(CTC : Centralized Traffic Control)を使用して、指令所ですべての列車の運行状況を監視・管理している。そのため、指令所には全線の本線部をカバーする配線略図と列車の在線状況を表示するパネルがあるのだが、そこで列車番号の表示を行うことで、個々の列車を区別できるようにしている。

御存知ない方のために説明すると、列車番号とは個々の列車につけられた番号である。下り列車を奇数、上り列車を偶数とするのが原則だが、運転系統の関係で逆転することがまれにある。在来線では、機関車牽引列車は数字だけ、電車列車は「M」、気動車列車は「D」を後ろに付けるのが原則だが、大都市圏などでは別の字を付けているケースもある。

そして新幹線の場合、4桁の数字に続いて、東海道・山陽・九州新幹線は「A」、東北・山形・秋田新幹線は「B」(山形・秋田新幹線の在来線直通区間は在来線のルールに合わせて「M」)、上越新幹線は「C」、長野新幹線は「E」を使っている。「D」は在来線の気動車列車と紛らわしいし、「0」と見間違える可能性もあるので使わないということのようだ。

だから、たとえば「のぞみ1号」なら列車番号は「1A」である。ただし、下3桁は列車名の番号と合致させているが、千の位は用途によって使い分けたり、使わなかったりする。たとえば、臨時列車なら千の位は「8」ないしは「9」が多い。

ともあれ、この列車番号を、出発前に運転台の装置でセットする必要がある。その情報は駅側の表示器でも確認できるようになっている。この列車番号のセットを正しく行わないと、CTCや運行管理システムが列車の所在を正しく把握できなくなるので、おおごとである。

新幹線の駅ホームに設けてある列車番号の確認・表示装置

くりこま高原駅で使用していた駅停車支援装置

列車番号に使用する数字の範囲を列車種別や行先に応じて使い分ける手法は、新幹線に限らず、多くの鉄道で用いている。一般的に、速い優等列車ほど数字が若い。

複数の路線が枝分かれしているJR東日本の新幹線では、百の位の数字を方面別に使い分けているので、時刻表の列車番号表示を確かめてみよう。こういった仕組み作りは運行管理システムの設計や運用に関わってくるので、案外と重要な要素である。

そのJR東日本のうち、東北新幹線に特有の装置として、過去に「駅停車支援装置」があった。これはくりこま高原に停車する列車だけが使用するものだ。

くりこま高原は、信号システムの上では本線扱いで、駅の「構内」という概念がない。そこで、くりこま高原に停車する列車には4000番台の列車番号を割り当てて、この列車番号を持つ列車が接近したときだけ、駅の手前でトランスポンダが列車に信号を送るようにした。列車がそれを受信すると運転士に停車予告表示を行い、手作業で減速・停止させる仕組みだ。

ただしオーバーランを防ぐ仕組みが必要になるので、停車するための制動パターンを車上で用意しており、そのパターンを超える速度を出した場合に自動的に減速させるようにしていた。

本来なら、新駅を増設した際には信号設備を改修するのだが、その代わりにこういう仕組みを取り入れて簡単に済ませたわけだ。停車する列車が少ないので経費節減を図ったということだろうか。ただし現在ではデジタルATC(DS-ATC)を導入しており、信号システム上は本線扱いでも、くりこま高原駅の位置に合わせた停止位置を指示できるようになった。そのため、この装置は不要になった。

トランスポンダによる列車の区別

こうした、トランスポンダによる列車と地上の間の通信は、他の場面でもいろいろと出てくる。

たとえば、特定の列車や車両に限って最高速度を引き上げた場合に、その数少ない例外のために信号システムを手直しする代わりに、当該列車に限って最高速度の「読み替え」を行う手法がある。

山陽新幹線で100系3000番台「グランドひかり」を運転していたときには、他の列車が最高速度220km/hなのに、これだけ最高速度230km/hとしていた。そこで、トランスポンダによる情報のやりとりを通じて「230km/hまで出せる列車である」と認識した上で、220信号を受信したときに230km/hまで出せるようにしたわけだ。同様の手法は、上越新幹線で一部の下り「あさひ」に限定して275km/h運転を行った場面などでも導入していた。

黒磯駅と自動列車選別装置

車両と地上の間の情報交換を行う場面は、こうした速度制限信号の読み替えに限らない。東北本線の黒磯駅は交流電化区間と直流電化区間の境界駅で、ここでは違った目的のために使っている。

黒磯では通常、地上切り替え式を使用している。つまり、架線に流す電気を交流20,000V・50Hzにしたり直流1,500Vにしたりといった作業を地上で指示しており、同じ架線に二種類の電気が流れる。観察していると、盛岡方から到着した上り貨物列車(交流機関車の牽引である)が到着すると、機関車を切り離して待機線に移動する。この後で直流に切り替えて、直流機関車が別の待機線からやってくる(下り列車なら逆だ)。

黒磯駅に到着した上り貨物列車の牽引機が去っていく。この後、架線の通電を交流から直流に切り替えた後で、以南の直流電化区間を担当する機関車を持ってきて連結する

しかし、黒磯に停車する列車はこれでよいが、通過する列車はどうするか。運転停車といって、客扱いを行わない停車にして機関車を付け替える手もあるが、停車時間の分だけ所要時間が増えてしまう。

そこで、通過列車については走行中に車上で切り替えるようにしている。交流電化区間と直流電化区間の境界に無電区間(デッドセクション)を用意して、そこで車両側が電源の種類を切り替える。しかし、これが必要になるのは通過列車だけだ。そこで、黒磯を通過する、車上切り替えが可能な列車に限って自動列車選別装置で識別して、通過しながら車上切り替えを行うようにしている。

そこでどうして、車上切り替えが可能な列車の識別が必要なのか。普通なら、直流区間から来た列車が交流電化区間に突っ込んだり、その逆になったりしないように、停止信号を現示して止めさせなければならない。ところが、車上切り替えが可能な列車は通過するわけだから、停止現示では困る。そこで、車上切り替えが可能な列車に限って進行現示で通過できるようにするには、自動列車選別装置が要る理屈だ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。