銀行が合併すると「システム統合のためにATMを停止します」というイベントが発生する。銀行に限らず鉄道業界でも、本連載の第2回で取り上げた運行管理システムなど、さまざまな情報システムが稼働している。

銀行みたいに合併してシステム統合を行わなければならない事態は滅多に起きないが、相互乗り入れ運転などの関係で、異なる鉄道事業者同士が情報を共有しなければならない場面は出てくる。

相互乗り入れと運行管理

都市部の地下鉄と郊外の民鉄線が相互乗り入れを行っている場面では、事故や災害でダイヤが乱れると、相互乗り入れを中止するのが通例だ。これは、ある路線で発生したダイヤの乱れを他社線に持ち込むと、ダイヤの乱れが広範囲に波及してしまうためである。ダイヤの乱れを自社線内だけで収めるには、他社線への直通運転を止める必要がある。

しかし、常にそうした措置を行えるとは限らない。ときには、ダイヤの乱れが発生しても直通運転を止められないケースもある。たとえば、上越線~北越急行ほくほく線~信越本線~北陸本線を経由して走る特急「はくたか」は、JRと北越急行をまたいで走っているが、新幹線とペアを組んで首都圏と北陸を結ぶ重要な存在なので、おいそれと運転を止めるわけにはいかない。

すると、遅れを持ち込んでしまうにしても、どの程度の遅れが生じていて、今後の見通しはどうなのか、といった情報を関係各社で共有したい。北越急行は一方でJR東日本、他方でJR西日本と関わりを持っているから、その両方と情報を共有する必要がある。

特急「はくたか」は、JR東日本・北越急行・JR西日本の三者にまたがって走るので、それだけ運行管理業務に関わる当事者が多い

しかも北越急行のほくほく線は単線なので、ダイヤが乱れたときの運転整理は複線のときよりも難易度が高い。何かまずいことが起きれば、迅速にダイヤを引き直して、それを当該列車の運転士にいち早く通告する必要がある。

なにも関係各社の運行管理システムを連接して一体化する必要はないが、JR線内でダイヤの乱れが発生したときには、いち早く情報を得たいところである。

そこで、北越急行の指令所にはJRの運行情報を表示するためのディスプレイ(TID : Traffic Information Display)を設置していて、ダイヤの乱れが発生したときには、いち早く情報を得られる体制を作っているそうである。どの列車がどれくらい遅れて入ってくるかが事前に分かっていれば、それだけ早い段階での対処が可能になり、後手に回るリスクを減らせるだろう。

似たような課題は、東海道・山陽新幹線と九州新幹線の間でも存在しそうである。それぞれの路線内で完結する列車だけでなく、東海道新幹線と山陽新幹線、山陽新幹線と九州新幹線の間を直通している列車があるからだ。もっとも、回送列車を別にすれば、3線をまたいで直通する列車はないが。

他社のシステムと連接する必要がありそうなケース

前述した北越急行の事例は、情報の共有ができればすむケース、と考えられる。だから、JRと北越急行の運行管理システムを連接して一体化するところまでは必要なさそうである。単に状況を把握できればなんとかなるということなら、こういう方法もアリだ。

しかし、座席予約システムになると話は違ってくる。JRにしても民鉄の座席指定列車にしても、各社が自前のシステムを持っている一方で、自社の窓口だけでなく旅行代理店からの購入も可能になっている。

ということは、旅行代理店のシステムと自社の座席予約システムを連接するか、あるいは旅行代理店に自社の座席予約システムの端末を置いてもらう必要がある。後者の方法の方が分かりやすいが、店舗数が増えると回線や端末の数も増える。それに、旅行代理店は鉄道だけでなく、飛行機なども扱っている。それらがみんな別々の端末を置いていたら、店舗が端末機だらけになってしまって大変だ。

JRの「みどりの窓口」では、乗車券・特急券・寝台券などといった「JRのきっぷ」に加えて、それ以外の商品を取り扱っているケースがある。これもシステム連接の一例といえるかもしれない。駅レンタカーも「きっぷ以外の商品」に含めてよいだろうか。

これは改善した方が……という事例も

その駅レンタカー。先日、秋田県を訪れた際に駅レンタカーを利用したのだが、そのレンタカーの予約を入れる際に、ちょっと混乱して予約を入れたりキャンセルしたりを繰り返してしまった。というのも、商品によって販売チャンネルがバラバラで、予約に使用するWebサイトもバラバラになっているため。

つまり、「レール&レンタカーきっぷ」で利用するレンタカーを予約する場合と、「トクだ値」とセットになるレンタカーのプランを予約する場合では、利用するWebサイトが違い、使い方も支払方法も違い、予約の確認やキャンセルの方法も違う、という具合だったのである。

クルマを借り出す相手も営業所も同じなのに、商品と販売ルートによって勝手が違うのは、利用者としてはあまり嬉しくない話。また、商品ごとの「入口」となるWebサイトのリンクがバラバラに存在しているだけで、駅レンタカーそのもののシステムや利用可能な商品の全体像について、見通しが良くないなと感じた。

まずは、利用可能な商品の一覧を提示して「通常の乗車券や特急券とセット買いする場合はこちら」「割引商品・企画商品を利用する場合にのみ購入可能なプランはこちら」といったロードマップが欲しいというのがひとつ。それから、システムの統合と統一を図るか、せめてWebサイトの使い方ぐらいは統一できないものかと思った次第である。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。