今回はソーセージなどの肉加工品に含まれている、添加物の中では最も悪名高い「亜硝酸ナトリウム」に関するお話です。添加物が怖いといった類いの本では必ずといっていいほど、この化学物質が「発がん性あり」と書かれていることもあります。果たしてこの意見は本当に正しいのでしょうか?
亜硝酸ナトリウムの必要性
たしかに亜硝酸ナトリウムは毒です。成人男性がたった2g(2,000mg)で死に至る可能性がある、わりと強い毒です。こう聞くと、「そんなものを食べ物に入れるなよ!」と思いますね。それでも入れられている理由はひとつ。「消費者のため」だからです。
それは何万分の一の確率で起きる、ボツリヌス中毒をゼロにするために使っているからです。ここが抜け落ちると、何やらよく分からない毒を入れているという話になるので、非常に大切なところです。
ハムやソーセージの類いは、肉を一旦粉々にしてそれを固めます。そこに外気などからボツリヌス菌が入り込むと、かなりの確率で人を死に至らしめるボツリヌス中毒が起きます。なので、ソーセージから亜硝酸ナトリウムの使用をなくすということは、「人が死ぬかもしれない危険性があるけどそれでもいいか?」という話になります。結果的に、ハムやソーセージには1kgあたり最大70mgもの亜硝酸ナトリウムを使っていいことになっています。
最大容量を添付しないための対処
亜硝酸ナトリウムのADI(生涯毎日摂取しても大丈夫な量)は、「0.06mg/kg体重/日」となっています。これを当てはめると、50g程度でADIに達してしまうので、「危険だ!危ない!亜硝酸ナトリウムは身体を蝕む!」という主張が上がるのです。
一見正しそうに見えますが、最大容量で亜硝酸ナトリウムを使っているハムやソーセージは、まずあまり売られていません。より安全なソルビン酸カリウムなどに置き換えられて、その上で安全性を確保するためにどうしても必要な量を使っているため、実際は市販のソーセージを袋一杯食べても、この量には届かないようになっています。
それでも万一超えてしまったら? それも問題ありません。ADIは「生涯・毎日、摂取した場合の数値」となっています。なので、ADIは2~3日の間、10倍や100倍に当たる数値を摂取していたところで、まず影響が出るとは考えられないレベルの安全値だからです。
「添加物=悪い」というのはナンセンスである、というお話は「人工甘味料などの添加物に潜む本当の「危険性」って何なの?」でさせていただきました。繰り返しになりますが、様々なメリット・デメリットを考えた中で、一番自分にとって有益になるものを知るための、正しい知識を蓄えるようにしましょう。
筆者プロフィール : くられ
『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)がある。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」やツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。また、12月20日には、「シリーズ刊行10周年記念イベント」を開催する。