あらゆる食品には保存料が入っている

「ソルビン酸カリウム」。食品ラベルで見たことがある人もいると思いますが、この薬品は保存料、防腐剤のひとつです。いかにも得体の知れない不気味な響きがあるかもしれません。しかし、先に言ってしまうと、そのメリットの方が大きいと筆者は考えています。なぜそういった保存料が必要なのか、冷静に考えてみましょう。

保存料なし=腐りやすい

簡単に言えば、保存料の極めて低い毒性に対して得られるメリットが大きいからです。保存料が入っていないと、当然腐りやすくなります。日々毎日、我々が安全に冷蔵庫に食べ物を入れておくだけで安心して食べ物を保管できるのは、こうした保存料のおかげです。 保存料フリーということは、腐りやすいという意味なのです。ハムだって保存料が入ってなければ、開封して数時間で菌が繁殖してしまいます。毎日見えない部分で我々の安全を守っているのが保存料なのです。

ソルビン酸カリウムと名前こそ不気味ですが、細菌が代謝できないだけのもので、天然の植物ナナカマドの果実が腐敗に強いことから見いだされた成分です。決して自然に全く存在しない、得体の知れない成分ではありません。

細菌の代謝を阻害する成分

ソルビン酸は有機酸なので、細菌が乳酸などと間違えて栄養源として取り込むことで効果を発揮します。細菌はソルビン酸を取り込んでも代謝できないので、成長・繁殖ができなくなってしまいます。

細菌と人間では生物が違いすぎるので、毒性は別次元です。人間はソルビン酸で有害作用が出る臓器がないため、基本的に無毒と考えてOKです。当然、腸内細菌は一部ソルビン酸を食べて具合が悪くなるでしょうが、腸内細菌の総量から考えると笑っていいレベルです。

ソルビン酸のLD50(半数致死量)は7.4~12.5g/kgと言われています。しかし、食塩で4g/kgなので、そういった短絡的な数値を見ても安全と言えるでしょう。保存料というだけで拒否反応を示すのではなく、メリット・デメリットを判断できるように、正しい知識を身に付けるようにしましょう。

筆者プロフィール : くられ

『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)がある。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」ツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。