米航空宇宙局(NASA)やロッキード・マーティンが開発を進めている、新型宇宙船「オリオン(Orion)」試験機の打ち上げが、今年の12月に迫っている。現在すでに宇宙船自体は完成し、今後打ち上げに向けて燃料の充填や、ロケットとの結合、最後の試験などが控えている。

オリオンは、長年米国の有人宇宙開発を支えたスペースシャトルの後継機にあたる「NASA の宇宙船」だ。スペースシャトルと比べると、オリオンは小さく、翼も持たず、一見すると退化したようにも見える。しかし最大の違いにして、そしてオリオン最大の特長は、能力的に地球周回低軌道よりも先の軌道には行けなかったスペースシャトルとは違い、アポロ宇宙船のように月へ、そしてさらにその先の火星や小惑星へも人を運ぶことができる宇宙船であることだ。

今回は、オリオンの開発の歴史と、12月の試験飛行ミッションの内容、そして将来の展望について4回にわたって解説を行いたい。

完成したオリオンの試験機。今年12月に打ち上げられる予定だ。(C) NASA/Rad Sinyak

オリオンをなぞる

まず、オリオンとはどういう宇宙船かについて紹介したい。ちなみにNASAでは、Orion は英語読みである「オライオン」に近い発音で呼ばれている。日本では「オリオン座」の印象が強いためか、NHK をはじめ大多数のメディアでオリオンと呼ばれているので、本稿でもそれに従って「オリオン」表記とする。

オリオンは、カプセル型と呼ばれる円錐台の形状をした宇宙船だ。見た目はアポロ宇宙船と良く似ているが、オリオンの方が一回りほど機体が大きく、アポロは3人乗りだったが、オリオンでは4人から、最大で6人まで宇宙飛行士を乗せることができる。オリオン単体での宇宙空間における運用可能期間は21日間とされる。

オリオンはクルー・モジュールとサービス・モジュールの、大きく2つの部分から構成されている。クルー・モジュールには宇宙飛行士が乗り、軌道上での生活や、大気圏への再突入、地上への帰還を担う。もう一方のサービス・モジュールは、軌道を変えるための小型のロケット・エンジンや、電力を発生させる太陽電池パドル、バッテリーやコンピューター、生命維持システムなどが搭載されている。

また打ち上げの際には、クルー・モジュールの先端部分に、緊急時の脱出システム (Launch Abort System) が装着される。これはロケットの飛行中に何らかの問題が起きた際、クルー・モジュールのみをロケットから引き剥がし、乗組員を無事に帰還させるためのものだ。

オリオンの構造と、アポロ宇宙船との比較 (C)NASA

オリオンとスペースシャトルとの違いは、まずオリオンは翼を持っていないため、滑走路に着陸することはできず、パラシュートを使って海上に着水することになる。ただ、ある程度狙った地点に降り立つことができるようになっている。また、スペースシャトルのように人間と大質量の貨物の両方を搭載することはできず、人と最低限の物資しか載せることができない。そしてスペースシャトルは何度も再使用ができ、オリオンでも耐熱シールドを交換することで可能ではあるが、スペースシャトルより少ない、10回程度の再使用になる予定だ。

一方で共通している部分もある。例えばクルー・モジュールとサービス・モジュールの両方は、スペースシャトルの外部燃料タンクなどで使われていたのと同じ、アルミニウム・リチウムの合金から造られる。またクルー・モジュールのうち、大気圏再突入時にあまり高温にならない部分には、スペースシャトルの貨物室のドア部分に使われていたノーメックス・フェルトを使った耐熱材でコーティングされている。そして着水時に使用されるパラシュートは、アポロ宇宙船やスペースシャトルの固体ロケット・ブースターで使われていたパラシュートに基にしたものが用いられる。

スペースシャトルとオリオンとを比べたとき、もっとも重要な違いは、スペースシャトルは能力的に地球周回低軌道よりも先の軌道には行けなかったが、オリオンはアポロ宇宙船のように月へ、そしてさらにその先の火星や小惑星へも人を運ぶことができる宇宙船であるということだ。オリオンの正式名が「多目的有人宇宙船 (MPCV:, Orion Multi-Purpose Crew Vehicle)」であることもそれを示している。

では、どういう経緯でオリオンは造られたのか。次回はその歴史を振り返ってみたい。