【コラム】

ダイナミックObjective-C

119 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)

119/121

デザインパターンをObjective-C + Cocoaで解釈してみるこの連載も、いよいよ終わりに近づいてきた。残すところ、あと2パターンである。今回は、Template Methodパターンを取り上げる。

Template Methodとは

Template Methodも、前回のStrategyと同じく、アルゴリズムに関するパターンになる。あるアルゴリズムを実現するときに、それをいくつかのステップに分割しておく。そうしておくことで、アルゴリズムを拡張する際には、サブクラスでそのステップを上書きすればいいということになる。これが、Template Methodパターンだ。

このパターンも、オブジェクト指向の考え方そのものと言えるだろう。GoF本でも、「template methodはたいへん基本的なもので、ほとんどすべての抽象クラスで見つける事ができる」と書かれている。オブジェクト指向プログラミングに慣れたプログラマならば、自然にこのパターンを自分のプログラムに取り入れているはずだ。

Template Methodパターンのあり方や実装方法について、ここで議論する事はあまりないだろう。それよりも、Cocoaで使われているパターンを見てみよう。Template Methodは非常に基本的なものなので、Cocoaのあらゆるところで見つける事が出来る。どれを取り上げてもよいのだが、折角なので、GoF本に従ってみる。GoF本では、Template Methodのサンプルコードとして、AppKitに基づくものを取り上げている。これのオリジナルを紹介しよう。NSViewの描画に関するメソッドになる。

NSViewとdrawRect:

Cocoaでは、画面への描画は、NSViewというクラスが担当している。何らかの描画を行いたい場合は、このクラスのサブクラスを作る事になる。

このクラスが提供する描画を実行するためのメソッドはただ1つ、drawRect:である。

List 1.

- (void)drawRect:(NSRect)dirtyRect

NSViewのサブクラスは、このメソッドを上書きして、描画処理を実行する。再描画しなくてはいけない領域は、引数のdirtyRectで示されている。この領域に対してしか処理を行わないことで、処理速度を向上させる事も出来る。

この構造を、Template Methodとして捉えることが出来るだろう。NSViewが、テンプレートとなる抽象クラスである。分割されたアルゴリズムは、drawRect:メソッドとなる。サブクラスはこのメソッドを上書きする事で、アルゴリズムを拡張出来る。確かに、Template Methodの特徴を備えている。

いまや、多くのアプリケーションフレームワークは、このような構造を備えているだろう。画面への描画や、ユーザインタフェースの提供は、GUIを持つアプリケーションのフレームワークにとって必須の機能である。その多くは、描画クラスと描画メソッドを提供し、それのサブクラスを作る事で新しいGUI部品を作っていく。オブジェクト指向やTemplate Methodと、GUIシステムは相性がいい。

描画の高速化

ついでなので、Cocoaの描画処理について、もう少し詳しく紹介しよう。

フレームワークの描画処理に求められるのは、なんといっても高速化だろう。描画処理が低速なフレームワークは、それだけで使い物にならない。もちろん、描画速度の大部分は、ハードウェアの能力で決まる。高速なCPUとGPUがあれば、それで事足りる事もある。だが、ソフトウェアのレベルでも出来る事がある。

Cocoaでは描画処理の高速化を、

  • 必要な領域しか描画しない
  • 必要なときにしか描画しない

というポリシーで実現しようとしている。

前者の、必要な領域しか描画しない、には、drawRect:メソッドの引数を使う。drawRect:で示される描画領域は、そのビューが占める大きさが渡されるのではなく、画面上に描画する際に最低限必要な大きさになるように努力される。たとえば、ビューの上に他のウインドウが重なっている場合、その下の領域は描画する必要がなくなるはずだ。そのようなことを考慮して、可能な限り小さい領域を指定しようとする。アプリケーション側でこれを考慮して、常にビュー全体を再描画するのではなく、必要なところだけ描画するように実装する事で、高速化を実現するのだ。

後者の、必要なときにしか描画しない、というものは、drawRect:を呼び出す頻度が関わってくる。ウインドウ上にビューを配置すると、一番始めに画面に描画するときに、drawRect:が一回呼び出される。この呼び出しの際に、描画の結果がキャッシュされるのだ。これ以降は、描画領域の変更などが起こらない限り、drawRect:は呼び出されない。たとえば、ウインドウをドラッグしただけだと、キャッシュされた描画結果が使われるのだ。これにより、drawRect:の呼び出し回数を減らして、高速化を行っている。

では、プログラムの都合で、ビューの大きさは変更されないが再描画する必要が発生した場合はどうするか。それには、setNeedsDisplay:メソッドを使う。

List 2.

- (void)setNeedsDisplay:(BOOL)flag

このメソッドは、システムに再描画の必要がある事を通知する。これを使う事で、再描画を発生させる事が出来る。ただ気をつけたいのは、このメソッドを呼んですぐ再描画が発生する訳ではない。正確に言えば、このメソッドを呼び出したコンテキストで、直接drawRect:が呼び出される訳ではない。このメソッドで再描画の設定をした後、イベントループが回り、システム全体の描画処理が発生したときに描画されるのだ。これは、システム全体の効率化と、setNeedsDisplay:が複数回呼ばれたとしてもただ一回の再描画にまとめるために、このような仕組みになっている。

このあたりの高速化のための仕組みを理解しながら、効率的な描画処理を実装したい。

119/121

インデックス

連載目次
第121回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (2)
第120回 デザインパターンをObjective-Cで - Visitor (1)
第119回 デザインパターンをObjective-Cで - Template Method (1)
第118回 デザインパターンをObjective-Cで - Strategy (1)
第117回 デザインパターンをObjective-Cで - State (1)
第116回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (2)
第115回 デザインパターンをObjective-Cで - Interpreter (1)
第114回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (3)
第113回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (2)
第112回 デザインパターンをObjective-Cで - Mediator (1)
第111回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (3)
第110回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (2)
第109回 デザインパターンをObjective-Cで - Observer (1)
第108回 Fast Enumeration (4) - Fast Enumerationに対応するクラスの実装
第107回 Fast Enumeration (3) - Fast Enumerationのソースコード
第106回 Fast Enumeration(2) - NSFastEnumerationプロトコル
第105回 Fast Enumeration(1) - 速い列挙子
第104回 プロパティ(4) - プロパティの属性
第103回 プロパティ(3) - ドット演算子
第102回 プロパティ(2) - プロパティの宣言
第101回 プロパティ(1) - インスタンス変数のアクセス制御
第100回 ガベージコレクション(5) - コピーGCとコンパクション
第99回 ガベージコレクション (4) - マーク・アンド・スイープ
第98回 ガベージコレクション(3) - 保守的でありながらオブジェクト的
第97回 ガベージコレクション (2) - 実体であるlibauto
第96回 ガベージコレクション (1) - GCのためのAPI
第95回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (2)
第94回 デザインパターンをObjective-Cで - Memento (1)
第93回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (5)
第92回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (4)
第91回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (3)
第90回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (2)
第89回 デザインパターンをObjective-Cで - Chain of Responsibility (1)
第88回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (5)
第87回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (4)
第86回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (3)
第85回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (2)
第84回 デザインパターンをObjective-Cで - Command (1)
第83回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (2)
第82回 デザインパターンをObjective-Cで - Iterator (1)
第81回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (3)
第80回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (2)
第79回 デザインパターンをObjective-Cで - Proxy (1)
第78回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (2)
第77回 デザインパターンをObjective-Cで - Flyweight (1)
第76回 デザインパターンをObjective-Cで - Facade (1)
第75回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (2)
第74回 デザインパターンをObjective-Cで - Decorator (1)
第73回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (2)
第72回 デザインパターンをObjective-Cで - Composite (1)
第71回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (3)
第70回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (2)
第69回 デザインパターンをObjective-Cで - Bridge (1)
第68回 デザインパターンをObjective-Cで - Web Kitを考える Adapter (4)
第67回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater(3)
第66回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapater (2)
第65回 デザインパターンをObjective-Cで - Adapter (1)
第64回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (4)
第63回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (3)
第62回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (2)
第61回 デザインパターンをObjective-Cで - Factory Method (1)
第60回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (4)
第59回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (3)
第58回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (2)
第57回 デザインパターンをObjective-Cで - Prototype (1)
第56回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (2)
第55回 デザインパターンをObjective-Cで - Builder (1)
第54回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (2)
第53回 デザインパターンをObjective-Cで - Abstract Factory (1)
第52回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (3)
第51回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (2)
第50回 デザインパターンをObjective-Cで - Singleton (1)
第49回 デザインパターンで読み解くCocoa
第48回 F-Script - CocoaとObjective-Cのスクリプティング環境
第47回 AspectCocoa (5) - インプットマネージャとの連携
第46回 AspectCocoa (4) - AspectCocoaの実例
第45回 AspectCocoa (3) - フォワーディングとポージングの利用
第44回 AspectCocoa (2) - IMPによるアスペクト指向の実現
第43回 AspectCocoa (1) - Objective-CとCocoaによるアスペクト指向
第42回 SIMBLでハックを管理
第41回 インプットマネージャから侵入
第40回 Toll-free bridge (3) - Objective-Cメソッドの処理
第39回 Toll-free bridge (2) - Core Foundationのisaフィールド
第38回 Toll-free bridge(1) - 変換コスト0のブリッジ
第37回 Core Foudation (5) - インスタンスの実装
第36回 Core Foudation (4) - 多態性の実現
第35回 Core Foundation(3) - クラスの定義
第34回 Core Foundation(2) - C言語によるオブジェクト
第33回 Core Foundation(1) - Core Foundation誕生前夜
第32回 抽象クラスとクラスクラスタ
第31回 ランタイムAPIでさらに動的に(5) - インスタンス変数に動的にアクセス
第30回 ランタイムAPIでさらに動的に(4) - インスタンス変数の定義を調査
第29回 ランタイムAPIでさらに動的に(3) - メソッドの実装の置換
第28回 ランタイムAPIでさらに動的に(2) - メソッドの追加
第27回 ランタイムAPIでさらに動的に(1) - 動的なクラスの作成
第26回 メッセージ送信(4) - メッセージ送信の流れと関数呼び出しとの違い
第25回 メッセージ送信(3) - メソッドのキャッシング
第24回 メッセージ送信(2) - メソッドリストからメソッドを検索する
第23回 メッセージ送信(1) - objc_msgSendの実装
第22回 メソッドとは何か(5) - メソッドの実装
第21回 メソッドとは何か(4) - セレクタの実体
第20回 メソッドとは何か(3) - メソッドの型を読み解く
第19回 メソッドとは何か(2) - メソッドを取得する
第18回 メソッドとは何か(1) - メソッド、セレクタ、メソッドの実装
第17回 クラスとは何か(4) - Objective-Cにおけるオブジェクトとは何か?
第16回 クラスとは何か(3) - メタクラスと親クラス
第15回 クラスとは何か(2) - クラス情報に直接アクセスする
第14回 クラスとは何か(1) - Mac OS X/Objective-Cにおけるクラスの実装を読む
第13回 Objective-Cのエンジン部 - ランタイムに踏み込む
第12回 ポージングで乗っ取り
第11回 2つのプロトコルの使い分け
第10回 非形式プロトコル - もう1つのプロトコル
第9回 プロトコルが必要とされた背景とは? - なぜあえて静的な型を?
第8回 カテゴリ - 動的なメソッドの追加によるクラスの拡張
第7回 Objective-Cと様々な言語のブリッジ - PyObjC、RubyCocoa……
第6回 Cocoa-Javaの挑戦とは? - 似て非なるセレクタとリフレクション
第5回 ターゲット/アクションパラダイム(2) - その利点を徹底検証
第4回 ターゲット/アクションパラダイム(1) - 動的特性を利用したデザインパターン
第3回 Cocoa実現の肝 - クラスとそのメソッドの調査方法をチェック
第2回 Objective-Cの動的型付け
第1回 CocoaとObjective-Cと動的なオブジェクト指向 - Cocoaハックの第1歩

もっと見る



転職ノウハウ

あなたが本領発揮できる仕事を診断
あなたの仕事適性診断

シゴト性格・弱点が20の質問でサクッと分かる!

「仕事辞めたい……」その理由は?
「仕事辞めたい……」その理由は?

71%の人が仕事を辞めたいと思った経験あり。その理由と対処法は?

3年後の年収どうなる? 年収予報
3年後の年収どうなる? 年収予報

今の年収は適正? 3年後は? あなたの年収をデータに基づき予報します。

激務な職場を辞めたいが、美女が邪魔して辞められない
激務な職場を辞めたいが、美女が邪魔して辞められない

美人上司と可愛い過ぎる後輩に挟まれるエンジニアの悩み

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事

求人情報