ネットショップで物を販売することは、実店舗での販売にくらべて気軽に始められると考えている人は多いかもしれません。ですが、継続して商品を販売する場合、ネットショップには法律上の規制がかかってきます。

今回は、念願のネットショップを開設しようと考えている人からの相談という形で、その運営に関わる法律上の注意事項について考えていきます。「特定商取引法」や「景品表示法」などによる規制をしっかりと理解しておきましょう。(編集部)


【Q】ネットショップ開設を計画、法律上どのような規制ある?

私は以前から、珍しい外国製の布製マットの販売をビジネスにしたいと考えていました。今回、仕入先の確保ができたので、ホームページ上で注文を受けるという形で布製マットの販売を開始しようと考えています。ネットショップを開設する場合、法律上どのような規制を受けることになるのでしょうか。


【A】広告における表示義務や誇大広告の禁止などの規制があります。

「特定商取引法」のほか、「景品表示法」や各種の業法の規制を受けます。一般の方であっても、継続的にインターネット上で申込みを受ける形で商品を販売する場合(いわゆるネットショップ)は、「通信販売」として特定商取引法の規制を受けます。同法による規制の内容としては、広告における表示義務、誇大広告の禁止などが挙げられます。また商品の表示については、景品表示法による不当表示禁止の規制も受けます。さらに商品によっては、各種の業法の規制があります。例えば、食品であれば食品衛生法、医薬品であれば薬事法の規制が加わります。


特定商取引法における「通信販売」とは?

「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引など)についてのルールを定めて、消費者の保護などを図ることを目的にした法律です。

この中でいう「通信販売」とは、以下のようなものとされています。

販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の経済産業省令で定める方法(以下「郵便等」)により売買契約または役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは指定権利の販売又は役務の提供であって電話勧誘販売に該当しないもの

特別の資格のない一般の方がネット上で商品販売をする場合にも、「販売業者」と言われることにはやや違和感を持たれるかもしれませんが、営利の意思をもって反復継続して販売を行うものである場合には、一般の方でも販売業者にあてはまるとされます。

また、ここでいう「郵便等」には、「電話機、ファクシミリ装置その他の通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法」として、インターネットも含まれます。

そこで、一般の方であってもインターネットで申込みを受けて商品を販売する場合には、「通信販売」として特定商取引法の規制を受けることとなります。

なお、現行の特定商取引法における訪問販売・通信販売・電話勧誘販売に関する規定は、政令で指定された、商品・権利・役務(サービス)についてのみ対象になるため、販売する商品によっては、特定商取引法の規制にかからないものもあります。このように政令で指定された商品を指定商品と呼びます。

布製マットについて言えば、別表第1「指定商品」の7に「不織布および幅が13センチメートル以上の織物」が規定されており、布製マットが幅13センチメートル以上のサイズの場合には、指定商品に該当し、その通信販売は特定商取引法の規制に服することになります。

経済産業省:消費生活安心ガイド「指定商品・権利・役務」

ですが、このように一定の商品を指定した上で、それを規制の対象とするのでは、どうしても漏れが出てくるということが以前から問題とされていました。

そこで、平成20年6月に指定商品制度などを改める旨の特定商取引法の改正がなされました。改正法は平成21年中に施行され、改正後の特定商取引法では原則として全ての商品が規制の対象となります。ご注意下さい。

通信販売に対する規制

通信販売を行うにあたって問題となる、特定商取引法の規制のうちで主なものとしては以下のものがあります。

  1. 広告の表示義務(同法第11条)

  2. 誇大広告などの禁止(同法第12条)

  3. 電子メール広告の規制(同法第12条の3)

  4. 前払式通信販売の承諾などの通知義務(同法第13条)

  5. 意に反する契約の申込みをさせようとする行為の禁止(同法第14条)

このうち、3の「電子メール広告の規制」については当コラム第7回で説明のあった通りで、平成20年12月1日より、相手方の承諾を得ずに電子メール広告を送信すること許されないという改正法が施行されました(オプトイン規制)。相手方の承諾なく電子メール広告を行った場合、行政処分の他に、刑事罰が適用される可能性もあります。

そして、電子メールにより広告をする場合は、電子メールの本文及び本文中でURLを表示することにより紹介しているサイト(リンク先)を一体として広告とみなすという運用がとられているため、電子メールの本文中では商品などの紹介を一切行わずにURLのみ表示している場合であっても、そのリンク先で通信販売の販売条件などの広告をしている場合は、その電子メールは通信販売の広告に該当するとされることにご注意ください。

次に、4の「前払式通信販売の承諾などの通知義務」についてですが、消費者が商品の引き渡しを受ける前に、代金の全部または一部を支払う前払式通信販売の場合、事業者は、代金を受け取り、その後商品の引渡しに時間がかかるときは、その申込みの諾否などの事項を記載した書面を渡さなければならないとされています。この書面については、電子メールによることも許されます。

また、5の「意に反する契約の申し込みをさせようとする行為」としては、経済産業省の定めるガイドラインでは、以下の二つの場合が挙げられています。

  1. 顧客がPCの操作を行う際に、申込みとなることを容易に認識できるように表示していない

  2. 申込みを受ける場合において、顧客が申込みの内容を容易に確認及び訂正できるようにしていない

トラップ(罠)を設けて申込みボタンをクリックさせるというような、見るからに悪質な場合のみならず、申込み前の確認画面を設けていないような場合も違反となると考えられています。

このような確認・訂正のための措置を講じていない場合には、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(電子消費者契約法)第3条により、購入者側の錯誤無効の主張(民法第95条)に対する重過失の反論(同条但書き)ができなくなります(当コラム第4回参照)。

広告の表示義務について

通信販売においては、通常、遠隔地間でお互いの顔を見ないまま取引がなされ、そこでは、当事者の悪意のあるなしに関係なくさまざまなトラブルの発生が考えられます。そこで、トラブル防止のために特定商取引法第11条と施行規則は、広告における業者の表示義務を詳細に定めています。

ここでいう広告媒体には限定はなく、新聞、雑誌などに掲載される広告だけではなく、カタログなどのダイレクトメール、テレビ放映、折込ちらし、インターネット上のホームページ、オークションサイト、パソコン通信、電子メールなどにおいて表示される広告も含まれることとなります。

そして、先に説明させて頂いた通り、電子メールにより広告をする場合は、電子メールの本文及び本文中でURLを表示することにより紹介しているサイト(リンク先)を一体として広告とみなすという運用がとられているため、特に表示場所が限定されていない表示事項については、電子メール本文、リンク先のいずれに表示してもよいこととなります。

表示義務に係る事項

表示が義務付けられている事項は以下の通りです。

  1. 販売価格(送料についても表示が必要)

  2. 代金(対価)の支払時期、方法

  3. 商品の引渡時期

  4. 商品の引渡し後におけるその引き取り(返還)についての特約に関する事項(その特約がない場合にはその旨)

  5. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号

  6. 事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該販売業者など代表者または通信販売に関する業務の責任者の氏名

  7. 申込みの有効期限があるときは、その期限

  8. 販売価格、送料など以外に購入者などが負担すべき金銭があるときは、その内容およびその額

  9. 商品に隠れた瑕疵(かし)がある場合に、販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容

  10. いわゆるソフトウェアに係る取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境

  11. 商品の販売数量の制限など、特別な販売条件があるときは、その内容

  12. 請求によりカタログなどを別途送付する場合、それが有料であるときはその金額

  13. 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス

この中で一般の方にとって気になる点としては、事業者の氏名、住所、電話番号の表示が義務付けられていることではないでしょうか。この義務は、個人事業者についても例外ではないため、自宅で事業活動をする場合には、ホームページ上に自宅の住所の表示をすることが要求されます

以上のように、ネットショップ開設にあたっては、運営体制の構築に加えて、特定商取引法上の表示義務の徹底が一番の問題になることかと思います。

ただし、反面として、上記表示義務に係る事項は、通信販売業者が運営にあたって最低限検討すべき水準を示しているという見方もできます。詳細については、以下の経済産業省のホームページでよくご確認ください。

経済産業省:「特定商取引法とは(通信販売)」

なお、上記の事項の全てを表示しなければならないとすると、場合によれば、広告スペースのほとんどを条件の表示に費やしてしまわなければならないという事態も生じかねません。

そこで、消費者からの請求に応じて、これらの事項を記載した書面(カタログないし電子メール)を遅滞なく提供することを広告に表示している場合には、これらの事項の表示を一部省略できるとされています。

誇大広告の禁止とは?

通信販売業者は、商品の性能や契約申込みの撤回、契約解除に関する事項のほか、上記表示義務にかかる事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく有利であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないとされています。

相談のあった、ホームページ上で布製マットを販売する場合には、その材質、性能(効能)の表示に関するトラブルが一番に考えられるところです。過去に根拠なく商品の効能(例えば「使うだけで痩せる」など)をうたって、経済産業省の処分を受けた企業も少なくありません。

また、販売価格について「期間限定!! 6,000円→3,000円」というような表示をしている広告もありますが、6,000円での販売実績がほとんどない場合などには、これも誇大広告となります

商品についてのこのような誇大広告の禁止という規制は、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」においても「不当な表示の禁止」として規定されており、詳細に議論がなされています。

特に、商品の品質が問題となった場合には、特定商取引法、景品表示法のいずれの関係においても、関係省庁より商品の品質を示す客観的な資料の提出を要求される場合があることについてご注意ください。

公正取引委員会:景品表示法「よくある質問コーナー」(表示関係)

返品制度について

通信販売については、以前はクーリングオフ制度は設けられていませんでした。しかし、他の形態の取引と同じく、特別の契約解除手段を創設する必要性が訴えられていました。そこで、平成20年の改正で返品制度が導入されることになりました。なお、この返品制度は、業者側が申込みの撤回などについての特約を広告上に表示していれば、適用されないことになりますので、厳密な意味でのクーリングオフ制度とは異なります。

上記の「指定商品制度」の撤廃と同じく、平成20年6月の改正後1年半以内に施行されることになりますので、平成21年中の施行ということになります。

まとめ

以上のように、一般の方がネット上で通信販売を始めるにあたっては、複数の法律によって詳細な義務が課せられることになります。

顔の見えない相手であれ、ネット回線の向こう側には顧客がいるわけですから、まずは、トラブルを起こすことなく顧客の方の信頼を得られるよう運営体制をしっかり構築し、併せて、各種の法律上の義務を遵守するように努めていただければよいかと思います。

(白木健介/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/