仕事をする上で、もはや必須になったと言える電子メール。業務開始を前にメールチェックをするのが習慣になっている人も多いかと思います。ですが、このメールチェックをする際の支障となるのが、大量に送られてくる迷惑メール(スパムメール)です。しかもそのほとんどが、出会い系サイトなどの広告宣伝メールであるのが実情です。

こうした状況に対し、総務省などでは法的規制を実施していましたが、実効性がほとんどなかったため、2008年には相次いで法律が改正されました。事前承諾のない広告宣伝メールは違法とする規制が、改正法の施行によりすでに実施されています。その結果、これまで広告宣伝メールを送っていた広告主、送信事業者は、新たな法律に対応しなければならなくなりました。

今回と次回は、この改正法の施行後に、広告主や送信事業者がどのように対応していくべきかを、法律の観点から説明していきます。今回は、腕時計の通販事業者を例に、改正法の核となる「オプトイン規制」について見ていきます。(編集部)


【Q】「無断で広告メールを送るのは違法」との指摘、本当にそう?

インターネットを利用して腕時計の通信販売事業を行っています。新商品を発売するに際し、電子メールアドレスを把握している顧客に、電子メールでダイレクトメールを送信したところ、顧客から「無断で広告宣伝メールを送るのは違法ではないか」との指摘を受けました。本当でしょうか。


【A】事前承諾なしで送るのは違法になりましたので注意しましょう。

2008年の法改正によって、広告宣伝メールを送るためには、原則として受信者の事前承諾が必要となりました(オプトイン規制)。したがって、これを無断で送り付けた場合には、原則として違法となります。また、オプトイン規制に違反していない場合であっても、受信者から、今後は広告宣伝メールを送信しないように求められた場合には、原則として送信を止めなければなりません(オプトアウト規制)。


「オプトイン規制」の導入

インターネットなどを介して一方的かつ大量に送りつけられてくる広告宣伝メールは、「迷惑メール」と呼ばれて社会問題化しており、この問題に対処するため、特定電子メール送信適正化法(以下「特電法」)、及び特定商取引法(以下「特商法」)によって、広告宣伝メールが規制されてきました。

ところが、従来の規制では、あまり迷惑メールが減少しないので、さらに規制を強化するために、この2つの法律が改正され、2008年12月1日からそれぞれ施行されています。

改正のポイントは、いわゆる「オプトイン規制」を導入したことです。

すなわち、今回の改正前は、この2つの法律はオプトアウト規制を定めていました。これは受信者から再送信拒否を求められたときは、これに応じなければならないというものです。そのため、メールのタイトルに「未承諾広告※」という文字などを入れることで、受信者の事前承諾を得ることなく、広告宣伝メールを送信することができました。ですが今回の改正によって、原則として受信者の事前承諾が必要とされ、かつ、そのことを証する記録を保存することが必要となりました。

「特電法」と「特商法」の関係

特電法は、営業を目的とする団体や営業を営む個人が、自己又は他人の営業について広告宣伝メールを送信する場合に広く適用されます。これに対し、特商法は、通信販売、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引の形態で消費者と取引する場合に、事業者が取引の対象となる商品などについて、広告宣伝メールを送信する場合に適用されます。

対象となる広告宣伝メールのことを、特電法では「特定電子メール」、特商法では「電子メール広告」と呼んでいます。

特電法は主として送信者に対する規制、特商法は主として広告主に対する規制ということができます。本件は、自分が営む腕時計の通信販売のために、自分で広告宣伝メールを送信するケースですので、両方の法律が適用されます。

いずれの法律も「オプトイン規制」を導入するものですが、特商法においては違反行為に対して懲役刑・罰金刑などの刑事罰が導入されている点において、より厳しい規制となっています。

「請求や承諾に関する記録」の保存が必要に

オプトイン規制の導入により、受信者から請求や承諾を得ていない限り、原則として広告宣伝メールを送信することは禁止され、また、請求や承諾に関する記録を保存しなければならなくなりました。

受信者による請求や承諾は、受信者が広告宣伝メールの送信に関するものであることを正確に認識した上で行う必要がありますので、請求や承諾を取得する方法が重要となります。

また、請求や承諾に関する記録の保存に関して、特商法は、定型的な書面又は電子データによって、電子メール広告をすることを承諾し、又は請求するものであることを「容易に認識できるよう表示していること」など、一定の要件を満たした場合には、受信者からの承諾や請求ごとに記録を保存するという義務を緩和し、当該定型的な内容を示す書面又は電子データなどの記録とその内容が表示されたことを示す記録を保存することで足りるとしています(特商法第12条の3第3項・施行規則11条の5)。

したがって、オプトイン規制に従って広告宣伝メールを行うためには、広告宣伝メールをすることを承諾し、又は請求するものであることを容易に認識できるよう表示することがポイントとなります。

この点、経済産業省が『電子メール広告をすることの承諾・請求の取得等に係る「容易に認識できるよう表示していないこと」に係るガイドライン』(※)を公表しており、参考となります。

※本ガイドラインでは、「消費者が、あるボタンをクリックすれば、それが通信販売電子メール広告を受けることについての請求又は承諾となることを、消費者が容易に認識できるように表示していないこと」に該当する事例などが、画面例ともに紹介されている。

なお、法の施行日である平成20年12月1日より前に取得したメールアドレスに広告宣伝メールを送信する場合についても、オプトイン規制を受けます。

オプトイン規制には、特電法及び特商法において、それぞれ例外が定められており、また、オプトアウトなどの問題もありますが、この点については、次回に説明したいと思います。

(南石知哉/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/