相場でポジションを張って、収益を追求する人のことを、リスクテーカー(Risk Taker)と呼びます。

リスクテーカーとは、直訳通り、リスクを取る人の意味で、つまり相場で儲けていくためにはリスクを取らなくては、損をすることももちろんありますが、逆に利益も稼ぎ出すこともできないということです。

ですから、リスクとうまくつきあっていくことが大事になるわけです。

まず、過去にどのようなリスクがあったのか、2例ほど取り上げてみましょう。

第1例 リーマンショック

第1例 リーマンショック

2008年9月に発生したリーマンショックは、それまで私が経験したリスクのうち最大級のものでした。

この時、具体的に何が起こったかと言えば、大手の米系証券は株で大損失を被りました。そして、その損失を穴埋めするために、当時盛んに行われていた円キャリートレードの手仕舞いを大きく行いました。

円キャリートレードとは、高金利の通貨を買い低金利の円を売るということで、リーマンショックまでは、結構、豪ドルやNZドルや英ポンドなど高金利の通貨があり、円との金利差はかなりありましたので、盛んに行われ、相当な利益を出していました。

そこで、株で大きく損失を出した米系証券は株の損失を穴埋めするため、この円キャリートレードを手仕舞う、いわゆる、合わせ切りに出たわけです。

たとえば、豪ドル/円の円キャリートレードでお話ししますと、豪ドル/円というレートは画面上表示されるのですが、実際に豪ドル/円というマーケットはなく、豪ドル/米ドルと、ドル/円に分解して、市場カバーするしかありませんでした。

ドル/円は、さすがに主要通貨ですから、容易に手仕舞えましたが、豪ドル/米ドルは、流動性(交換のしやすさ)がなく、ほとんど値がないところで急落し、なんと3カ月で、豪ドル/円換算で45円もの急落となりました。

こうしたことが、NZ/円や英ポンド/円でも発生し、多大な損失を被る結果となりました。

第2例 スイスショック

第2例 スイスショック

2011年9月スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は、スイスフラン高を抑えるために、スイスフランの基軸通貨であるEUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)のスイスフランの上限を1.2000に固定しました。

そして、スイス国立銀行は徹底介入を続けて3年余りが経った2015年1月、ECB(ヨーロッパ中銀)が追加緩和を翌週にも実施する可能性が出てきたため、さすがに耐えられなくなり、1月15日になんの前触れもなく、このスイスフラン上限を撤廃しました。

この唐突な撤廃により、EUR/CHFは、たった5分間で3950ポイント(円で約40円)スイス高となり、多大な損失を企業や個人が被ることになりました。

実際に、瞬間的に消滅した企業もありました。

これら2例からわかることは、リスクは、いつでもどこでも発生しうるということ、そして過去に経験したリスクが決して最大のものとは限らず、今後より大きなリスクが発生する可能性も否定しきれないということです。

ただし、リスクの対応次第では、大きな損失を被ることにもなる一方で、軽微で済ませることも可能だと思います。

予防医学で「早期発見、早期治療」という言葉がありますが、同じようなことが、リスクでも言えて、リスクでは「早期発見、早期回避」が大事だと思っています。

リスクの発生時、まだことが大きくなる前に察知し、早期に回避する、つまりリスクから逃げるということが大事なわけです。

早期発見のためには、いろいろなことにアンテナを張っていることが大事です。

結構、ささいな情報収集の積み重ねが、大きなリスクを発見することになりますので、油断なく見ておく必要があります。

また、これはたいしたことではないと、否定から始めないことが大切です。

早期回避のために、まず気をつけておかなければならないことは、少なくともポジションを持っている限りでは、ある一定の緊張感を必ず持っているということです。

ただし、そんなにガジガジになるのではなく、柔軟に対応できるような姿勢でいるということです。

この身構えたスタンスでいるのと、まったく油断してノーガードでいるのとでは、リスク発生時の衝撃がかなり違ってきます。

そして、逃げることうまくなることが大事です。

少なくとも、自分のポジションがアゲンスト(不利)になっていたら、即刻切ることが重要です。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら