その昔には白黒テレビというものがあって、NHKの受信契約もカラーと白黒で別立てになっていた(もちろん白黒契約のほうが受信料が安い)。また、ノートPCも登場した当初はモノクロの液晶ディスプレイで、色を変えられない代わりに階調表示を使っていた。

軍用のディスプレイもモノクロからカラーに進化した

と、ここまでは民生品の話だが、軍用品の世界でも事情は似たり寄ったり。カラーのディスプレイ装置が当たり前のように使われるようになったのは最近の話で、昔はモノクロが当たり前だった。

例えば、戦闘機のコックピットに複数の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)が並んでいても、そのすべて、あるいは一部がモノクロ表示という事例は少なくない。もっとも戦闘機のMFDでは、モノクロといっても白黒ではなく、グリーン系統の表示になっていることが多いが。

そこで、さまざまな戦闘機のMFDの相違を見ていただきたい。これは5年ほど前に、ある航空専門誌のためにまとめたものが基本になっている。そこに、その後の新情報を取り込んで項目を足したものだ。

この比較表は戦闘機のパイロット席が対象で、正面に3面のディスプレイがあるケースを基本としている。だから「左」「中央」「右」という項目がある。F/A-18E/F用に提案された先進コックピット、それとF-35は大きなディスプレイが計器盤の前面を専有しているため、「中央」の項目に入れた。「-」はMFDがないという意味になる。

機種 中央
F-16A - 4inモノクロ -
F-16C 4inモノクロ - 4inモノクロ
AV-8B 5inカラー - 5inカラー
F-14D - 5in三色 5in三色
F-15E 6inモノクロ 5inフルカラー 6inモノクロ
F/A-18A 5inモノクロ 5inモノクロ 5inモノクロ
F/A-18C 5in3色 5inモノクロ 5in3色
F/A-18E 5inカラー + 補助ディスプレイ 6in×6inカラー[1] 5inカラー
F/A-18E/F向け先進コックピット - 19in×11in(1枚構成) -
F-22A 6.25inカラー 8inカラー + 6.25inカラー [2] 6.25inカラー
F-35 - 19.6in×8in(2分割構成) -
F-2A 4inカラー 5.4inカラー 4inカラー
ミラージュ2000 - 5in三色 -
ミラージュ2000-5 5in×4inカラー 5in2色 [3] 5in×4inカラー
タイフーン 6inカラー 6inカラー 6inカラー
JAS39A/Bグリペン 6in×5inモノクロ 5in×6inモノクロ 6in×5inモノクロ
JAS39C/Dグリペン 6in×8inカラー 6in×8inカラー 6in×8inカラー

[1]さらに4in×5inモノクロのアップフロント・コントロールを装備
[2]さらにアップフロント・ディスプレイを装備
[3]さらにモノクロのヘッドレベル・ディスプレイを装備

注釈で「アップフロントほげほげ」とか「ヘッドレベルほげほげ」といった言葉が出てくるが、これは計器盤のうち上部中央、つまりパイロットが機の前方を見た場合に、もっとも視線を外す度合が少なくて済む場所に設置したデバイスを差す。アップフロント・コントロールなら制御盤、アップフロント・ディスプレイなら表示装置だ。

カラー表示のメリット

モノクロ表示に代えてカラー表示を導入することで、どんなメリットがあるのだろうか。それはやはり「情報量が多い」ことに尽きるだろう。

モノクロの場合、「同じように見えるけど違うもの」を区別しようとすれば、シンボル表示の形を変えるとか、横に説明の文字列を付け足すとかいう工夫が必要になる。しかしカラー表示であれば「色分け」という手も使える。

例えば、戦術状況ディスプレイに彼我のユニット(部隊とか航空機とか艦とか)の位置情報を表示する場面を考える。カラー表示が可能であれば、「友軍のユニットは青、敵軍のユニットは赤」と色分けすることで、容易に識別できる。共産国家だと逆に、友軍が赤で敵軍が青、だろうか?

実際、ボーイング社がF/A-18E/F用先進コックピットのデモンストレーターを日本に持ち込んだときに見てみたら、敵機のアイコンは赤、友軍機のアイコンは青だった。

ボーイング社が2010年の秋に日本に持ち込んだ、次世代コックピットのデモンストレーター。大きな1枚モノの画面があり、分割して飛行情報や戦術情報やセンサー映像を表示できる。上部に、メニュー項目が横1列に並んでいる

また、地図表示を行う際にも、モノクロ二階調では表現できる内容に限りがあるが、モノクロ多階調になれば表現力が増すし、カラーならなおさらだ。もっとも、芸術作品を作っているわけではないから、むやみに色数が多くて精細ならえらい、とは限らない。

どんな地形なのか、現在位置はどこなのか、といった情報を一目で得られるようにデザインするのが第1目標で、カラー化にしろ階調表示にしろ、それを実現するための手段なのである。

暗視ゴーグルとのマッチング

実は、カラー表示のMFDがあれば万々歳、というほど単純な話でもなくて、カラー表示のディスプレイがあるとかえって困る場面もある。

その典型例が、パイロットが暗視ゴーグル(NVG : Night Vision Goggle)を装着するケース。戦闘機、特殊作戦機、救難機で、こうした場面がチョイチョイある。

NVGは、普通なら目に見えないぐらいの微弱な光を取り込んで増幅することで、「夜を昼に変える」装置だ。もっとも、表示する映像の質が明るい状況下でのそれと同じになるわけではなく、鮮明さはだいぶ落ちる。また、距離感を把握するのが難しいなどの課題があると聞く。

微弱な光を増幅するということは、強い光があれば過剰増幅になるということだ。だからグラスコックピット化してMFDが総天然色の表示をやっていると、NVGがそれをさらに増幅して、パイロットの目をくらませてしまうような事態になる。

幸い、赤色の表示はNVGによる増幅の影響が少ないそうだ。だから、NVGを使用する前提の機体はグラスコックピットにしないで機械式アナログ計器を並べる、NVG使用時に限ってディスプレイ装置にカバーをかけてしまう、NVGが増幅しすぎない色に限定する、といった対処が必要になる。