【コラム】

軍事とIT

122 人工衛星(1)軍事衛星の種類いろいろ

 

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よくよく考えてみたら、現代の軍事作戦において欠かすことができないアイテムである人工衛星の話を、まだちゃんと取り上げていなかった。あまり立ち入った話になっても本連載の趣旨に合わないから、入門的な話を中心に書いてみよう。

軌道の違い

人工衛星とは何か、という話までは説明しなくても良いだろうが、一言で人工衛星と言ってもいろいろな種類がある。特に、軌道の違いは重要である。用途に合わせて適切な軌道を選択する必要があるからだ。そして、使用する軌道の違いは、打ち上げの適地や打ち上げの手順、実現可能な機能といったところに影響する。

人工衛星を大雑把に分類すると、静止衛星と周回衛星に分かれる。

ただし、静止衛星といっても実際には動いているのだが、赤道上空・約3万6000km程度のところにいて、地球の自転と同じ周期で動いているので、地上からは静止して常に同じ場所にいるように見える。ということで静止衛星、もしくはGEO(Geo-Stationary Earth Orbit)ともいう。

だから、常に同じ場所にいてくれないと困る用途の衛星は静止衛星になる。軌道位置は東経あるいは西経で何度になるか、という形で示す。衛星の数が増えてきたので赤道上の軌道は混み合っており、軌道位置の奪い合いになっても不思議はなさそうだ。

参考 : 国別静止衛星軌道位置数一覧(C帯、Ku帯、Ka帯)

通信衛星には静止衛星が多い(周回衛星もある)。BS放送やCS放送を受信する時は、パラボラ・アンテナを特定の向きにセットすれば受信可能になるが、これは衛星が静止衛星だからだ。周回軌道をグルグル回っていたら、ビームをよほど太くするか、アンテナが常に衛星を追尾するようにしないと受信できなくなる。

赤道上空で高度が高いことから、静止衛星には独特の課題がついて回る。まず通信の遅延がある。衛星生中継の番組を見ているとわかる(こともある)が、現場から送信した音声や映像が視聴者のところに届くまでに、若干のタイムラグが生じる。

電波の速度は秒速30万kmだから、赤道上の地上から高度3万6000kmの衛星まで電波が到達するには0.12秒かかる。往復で0.24秒、衛星が搭載する中継器(トランスポンダー)でも若干の遅延が加わるだろうか。ともあれ、コンマ何秒かの遅れは確実に発生する。

だから、衛星通信を介して地球の裏側を飛んでいるUAVを遠隔管制しようとすると、慣れないうちは、このタイムラグによる違和感があるそうだ。それは、操縦操作を行ってから、少し間を置かないと実際に機体が動かないからだ。

ちなみに、弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星も静止衛星にすることが多い。地球は球体だから、1つの衛星で全世界をカバーするわけにはいかず、最低3基の衛星が必要になる。

静止衛星以外の分類としては、周回衛星がある。読んで字のごとく、地球の周囲をグルグル回っているもので、高度の違いから、LEO(Low Earth Orbit, 高度2,000km以下)、MEO(Medium Earth Orbit, 高度2,000-35,786km)に分けられる。このほか、数は多くないがHEO(Highly Elliptical Orbit、高度は35,786kmより高い)もある。

周回衛星には、高度の違い以外にも、実に細かな分類があるが、そのすべてを述べる仕事は衛星の専門家にお任せするとして。軍事という観点からすると、軌道の選択は用途の選択に影響するという話が大事だ。

例えば、偵察衛星なら軌道高度はあまり高くないほうがいい。高度が高くなるほど被写体が遠くなり、映像の品質に影響する。だから、偵察衛星はLEOにするものである。

赤道上にいる静止衛星では北極や南極をカバーしづらい。これは通信衛星で問題になりやすいポイントだが、HEOなら大丈夫だ。米軍が配備を進めている新型弾道ミサイル早期警戒衛星・SBIRS(Space Based Infrared System)では、GEOとHEOの2本立てにすることで、監視範囲に穴が空かないようにしている。

衛星とバス

人工衛星のサイズや重量は実に多種多様で、数kgあるいは数十kg程度の小型のものから、5トンほどの大型のものまである。もちろん、大型の衛星を打ち上げるには大型のロケットが要る。逆に、小型の衛星なら1つのロケットに複数台を積み込んでおいて、まとめて打ち上げることもできる。こうすると、衛星1基当たりの打ち上げにかかる経費が安くなる。

国家が威信を賭けて宇宙探査を行っていた時代と違い、すっかり商業化が進んでいる昨今の業界では、人工衛星の製作もできるだけ安価かつ効率的に行いたい。ということで、「バス」と「ペイロード」を分ける形が多くなった。

バスとは衛星のドンガラである。つまり「匡体」の部分に加えて、電源や軌道修正用のロケット・モーターなど、衛星として機能するために必要なプラットフォームの部分を指している。衛星の規模が違えばバスも違ってくるのは当然である。大抵の大手衛星メーカーは、それぞれ自前のバスを持っている。

ペイロードとは衛星のアンコである。通信衛星ならトランスポンダー(中継器)、写真偵察衛星ならカメラ、レーダー偵察衛星ならレーダー機器一式、航法衛星なら原子時計や送信機などといった具合に、用途に応じて内容が変わる。多くの場合、バスとは別のメーカーが手掛けている。

例えば、通信事業者のA社が新しい通信衛星を配備したいと考えた場合、B社のバスにC社のペイロードを組み合わせてD社のロケットで打ち上げる、といった図式になるわけだ。国が保有・運用する軍事衛星でも考え方は変わらない。

だから、民間向けの、例えばBS放送に使用する衛星と軍用の通信衛星が同じメーカーの同じバスを使っていて、ペイロードだけ違う、ということも起こり得る。それどころか、通信衛星の場合は機能的な違いは少ないから、軍が民生用の通信衛星を借りたり、買い上げたりして使っていることもある。

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インデックス

連載目次
第151回 装甲戦闘車両とIT(6)FBCB2とBFTとBMS
第150回 装甲戦闘車両とIT(5)指揮車という名のAFV
第149回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(4)IED対応のアクティブ座席
第148回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(3)砲兵の射撃統制装置
第146回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(2)戦車の射撃統制装置
第145回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(1)行進間射撃
第144回 X-2と将来戦闘機(10)運用構想と技術の関係
第143回 X-2と将来戦闘機(9)機内空間設計と3D CAD
第142回 X-2と将来戦闘機(8)FBWか、FBLか
第141回 X-2と将来戦闘機(7)データリンク
第140回 X-2と将来戦闘機(6)モデリングとシミュレーション
第139回 X-2と将来戦闘機(5)カウンター・ステルス
第138回 X-2と将来戦闘機(4)クラウド・シューティング
第137回 実はハイテクな救難ヘリコプター
第136回 X-2と将来戦闘機(3)スマート・スキン
第135回 X-2と将来戦闘機(2)推力・飛行統合制御[2]
第133回 X-2と将来戦闘機(1)推力・飛行統合制御[1]
第132回 軍事作戦と通信(5)通信とコンピュータの関わり
第130回 軍事作戦と通信(4)国立暗号博物館訪問記
第129回 軍事作戦と暗号(3)暗号の機械化
第128回 軍事作戦と通信(2)コードとサイファー
第127回 軍事作戦と通信(1)通信手段いろいろ
第126回 人工衛星(5)早期警戒衛星
第125回 人工衛星(4)測位衛星(航法衛星)
第124回 人工衛星(3)偵察衛星
第123回 人工衛星(2)通信衛星
第122回 人工衛星(1)軍事衛星の種類いろいろ
第121回 防空とIT(7)エネルギー兵器の場合
第120回 防空とIT(6)IAMD(防空とミサイル防衛の統合)
第119回 防空とIT(5)艦隊防空[その2]
第118回 防空とIT(4)艦隊防空[その1]
第117回 防空とIT(3)野戦防空
第116回 防空とIT(2)防空システムのコンピュータ化
第115回 防空とIT(1)第二次世界大戦における防空システム
第114回 米海軍イージス艦を見る(4)戦闘システムの形態管理
第113回 米海軍イージス艦を見る(3)艦橋の更新
第112回 米海軍イージス艦を見る(2)戦闘システムの更新
第111回 米海軍イージス艦を見る(1)「変わるもの」と「変えてはいけないもの」
第110回 電子戦とIT(10)蔵出し写真館・艦艇編
第109回 電子戦とIT(9)蔵出し写真館・飛行機編
第108回 電子戦とIT(8)電子戦装置の自動化
第107回 電子戦とIT(7)艦艇の電子戦装備
第106回 電子戦とIT(6)その他の電子戦
第105回 電子戦とIT(5)自衛用電子戦装備
第104回 電子戦とIT(4)ECCM
第103回 電子戦とIT(3)ECMとCOMJAM
第102回 電子戦とIT(2)脅威ライブラリ
第101回 電子戦とIT(1)電子戦とはなんぞや
第100回 水中戦とIT(9)ソノブイ・オペレーション
第99回 水中戦とIT(8) 潜水艦の目標運動解析(2)
第98回 水中戦とIT(7) 潜水艦の目標運動解析(1)
第97回 水中戦とIT(6)港湾警備・ダイバー探知
第96回 水中戦とIT(5)嫌らしい機雷
第95回 水中戦とIT(4)機雷戦その2
第94回 水中戦とIT(3)機雷戦その1
第93回 水中戦とIT(2)魚雷避けに関するいろいろ
第92回 水中戦とIT(1)水中戦とは?
第91回 艦艇のシステム化(6)タンクと電子制御
第90回 艦艇のシステム化(5)フネの中における通信手段
第89回 艦艇のシステム化(4)ズムウォルト級とTSCE-I
第88回 艦艇のシステム化(3)省人化とダメコン
第87回 艦艇のシステム化(2)指揮管制装置とは
第86回 艦艇のシステム化(1)システム艦とは
第85回 射撃管制(6)対地・対艦ミサイル
第84回 射撃管制(5)対空ミサイル
第83回 射撃管制(4)砲兵に特有の事情
第82回 射撃管制(3)機関銃・機関砲・火砲その3
第81回 射撃管制(2)機関銃・機関砲・火砲その2
第80回 射撃管制(1)機関銃・機関砲・火砲その1
第79回 相互運用性(5)相互運用性実現の足を引っ張るのは?
第78回 相互運用性(4)物資補給の相互運用性
第77回 相互運用性(3)情報システムの相互運用性
第76回 相互運用性(2)通信分野の相互運用性
第75回 相互運用性(1)相互運用性とは
第74回 不正規戦とIT(8)NATOが演習にソーシャル・メディアを取り込む
第73回 不正規戦とIT(7)国境線の侵入監視や港湾警備
第72回 不正規戦とIT(6)不正規戦と電子戦
第71回 不正規戦とIT(5)コミュニケーションに翻訳ツール
第70回 不正規戦とIT(4)民心掌握とIT
第69回 不正規戦とIT(3)通信を利用した追跡・捕捉
第68回 不正規戦とIT(2)コミュニケーション手段としてのIT
第67回 不正規戦とIT(1)宣伝戦とインターネット
第66回 衛星携帯電話も使いよう
第65回 個人用装備のIT化(5)無線機をめぐる話・いろいろ!?
第64回 個人用装備のIT化(4)個人用武器の精密誘導化
第63回 個人用装備のIT化(3)個人用情報端末機器のあれこれ
第62回 個人用装備のIT化(2) 個人レベルの通信網はどうするか
第61回 個人用装備のIT化(1) 個人レベルの情報武装
第60回 サイバー防衛(8) ソーシャル・エンジニアリング
第59回 サイバー防衛(7) サプライチェーンという戦場
第58回 サイバー防衛(6) オープンな場も戦場になる
第57回 サイバー防衛(5) 弱者の最強兵器
第56回 サイバー防衛(4) アクティブ・ディフェンス
第55回 サイバー防衛(3) 攻撃手段いろいろ
第54回 サイバー防衛(2) サイバー攻撃の動機・手段・内容
第53回 サイバー防衛(1) サイバー攻撃・サイバー防衛とは
第52回 軍事におけるシミュレーションの利用(6) 負傷者治療の巻
第51回 軍事におけるシミュレーションの利用(5) 計測とデブリの巻
第50回 軍事におけるシミュレーションの利用(4) 海の巻
第49回 軍事におけるシミュレーションの利用(3) 陸の巻
第48回 軍事におけるシミュレーションの利用(2) 空の巻
第47回 軍事におけるシミュレーションの利用(1) RDT&Eの巻
第46回 情報活動とIT(6) 情報戦とサイバー戦
第45回 情報活動とIT(5) 情報資料の配信と利用
第44回 情報活動とIT(4) 情報を管理するためのシステムに求められる課題
第43回 情報活動とIT(3) ELINT・COMINT・SIGINT
第42回 情報活動とIT(2) 画像情報のデジタル化
第41回 情報活動とIT(1) なぜ情報活動が必要か
第40回 軍艦・海戦とIT (6) 艦艇の設計・建造とIT
第39回 軍艦・海戦とIT (5) ダメージコントロール
第38回 軍艦・海戦とIT (4) ウェポンシステムとオープンアーキテクチャ
第37回 軍艦・海戦とIT (3) データリンクによるネットワーク化
第36回 軍艦・海戦とIT (2) 艦内ネットワークの整理統合
第35回 軍艦・海戦とIT (1) システム艦ってなに?
第34回 警戒監視体制の構築とIT(6) IT化と人手の使い分け
第33回 警戒監視体制の構築とIT(5) 宇宙空間とサイバー空間
第32回 警戒監視体制の構築とIT(4) 陸の警戒監視
第31回 警戒監視体制の構築とIT(3) 海の警戒監視
第30回 警戒監視体制の構築とIT(2) 空の警戒監視
第29回 警戒監視体制の構築とIT(1) 警戒監視とITの関わり
第28回 指揮統制・指揮管制とIT(4) : 関連する要素技術とまとめ
第27回 指揮統制・指揮管制とIT(3) 軍艦の戦闘指揮所
第26回 指揮統制・指揮管制とIT(2) 特定任務分野の指揮管制
第25回 指揮統制・指揮管制とIT(1) 戦略・作戦レベルの指揮統制
第24回 陸戦とIT(6) 兵站業務とIT活用
第23回 陸戦とIT(5) 地雷やIEDの探知もハイテク化
第22回 陸戦とIT(4) IT化と電源の問題
第21回 陸戦とIT(3) 陸戦と通信網
第20回 陸戦とIT(2) 陸戦兵器の精密誘導化
第19回 陸戦とIT(1) 陸戦における状況認識
第18回 UAVとモジュラー設計
第17回 UAVによる映像情報の収集とデータ処理
第16回 無人戦闘機は実現可能か?
第15回 UAVと有人機の空域共有問題
第14回 武装UAVのオペレーション
第13回 無人偵察機(UAV)に関する基本と武装化の経緯
第12回 Build a Little, Test a Little and Learn a Lot
第11回 イージス・アショアとモジュール化と相互運用性
第10回 ミサイル防衛に必要な通信網とネットワーク化交戦
第9回 イージス艦のベースラインと能力向上
第8回 イージス艦とはそもそも何か
第7回 弾道ミサイル防衛とC2BMC
第6回 F-35ライトニングIIの操縦システム
第5回 F-35ライトニングIIの兵站支援
第4回 F-35ライトニングIIのソフトウェア
第3回 F-35ライトニングIIとネットワーク中心戦
第2回 F-35ライトニングIIの"眼"
第1回 F-35ライトニングIIは何が違う?

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