前回のIAMD(Integrated Air and Missile Defense)で「防空とIT」というテーマを締めくくりにしようと思ったのだが、予定変更。もう1つ、最近になって存在感を増しつつある指向性エネルギー兵器(DEW : Directed Energy Weapon)にまつわる話を取り上げてみようと思う。

レーザー兵器の利点

いきなり「指向性エネルギー」と言われると何かと思うだろうが、要するに「レーザー」と「高出力マイクロ波」のことである。

そもそも筆者は、自分の目の玉が黒いうちにレーザー兵器なんてものが世に出てくるとは思っていなかった。ところが、実用化して量産する事例こそまだ存在しないものの、試験で実際に破壊に成功する事例はいくつも出てきている。

例えば、ボーイング747貨物型を改造して機首に巨大なレーザー砲を搭載した、YAL-1A ALTB(Airborne Laser Test Bed)がある。当初はABL(Airborne Laser)と呼ばれていたものが、後になって名称を変更した。結局、テストベッドで終わってしまって計画は打ち切られたものの、レーザー砲を使って実際に弾道ミサイル模擬標的の破壊に成功したという成果は残った。

ALTBの難点の1つは、有毒ガスを排出する上に化学物質を大量に積まないといけない化学レーザー(COIL : Chemical Oxygen Iodine Laser)を使用した点にあるのだが、高出力を得るにはそれしか選択肢がなかったのだから仕方がない。

近年では化学レーザーは下火になり、半導体レーザーやファイバー・レーザーといったソリッドステート・レーザーが主流になっている。まだ出力は低いが、将来的にはさらなる高出力化が期待されている。MBDA社では2015年の初夏に、レーザーを使ってマルチコプターを撃墜する「ドローン対策」のデモンストレーションを成功裏に実施している。

レーザー兵器の難しさ

さて。レーザー兵器の利点とは何だろうか。それは「光の速さで交戦できる」ということに尽きる。

ミサイルでも砲熕兵器でも、撃った「弾」が目標のところまで到達するにはいくらかの時間がかかる。だから、目標が移動している場合、目標がいる場所を狙って発射しても当たらない。弾が到達した時点で目標がいるはずの場所を狙わなければならない。

これを見越し角射撃という。ミサイルなら誘導機構を内蔵しているから、砲熕兵器ほど厳密に見越し角射撃を行わなくてもなんとかなりそうだが、それでもやはり、できるだけ目標に近いところに向けて撃つほうがよい。そうしないと、いくら誘導機構が目標を捕捉・追尾しても、ミサイルが追従できない。

砲熕兵器の弾やミサイルの速度は一般的に、どんなに速くてもマッハ3かそこらである。ところが、レーザー兵器なら文字通り「光速」でビームが飛んでいくから、撃ってからビームが目標のところに到達するまでは一瞬だ。これなら見越し角射撃の必要性はないといってよい。

というわけで、目標までの距離、目標の移動方向(的針)、目標の移動速度(的速)といった要素に基づいて見越し角を計算する手間が要らない分だけ、レーザー兵器の照準は楽になるはずである。ところが、そう簡単な話でもない。

レーザー・ビームの光束は、あまり太いものではない。それを遠方の目標に対して精確に指向しなければならないので、照準の精度の高さが求められる。目標が移動している場合、それを連続的に追尾して精確にレーザーを指向し続けなければ、レーザー・ビームは目標に命中しないから、さらに難度が高くなる。

また、狙いをつけて撃つというだけでなく、大気圏内で遠方まで高出力のレーザー・ビームを送り込もうとすると、大気中の水蒸気などによってビームの品質が悪化する問題に対処しなければならない。そこで出てくるキーワードが「適応制御光学」である。

あまりややこしい話をすると字数がいくらあっても足りないので、かいつまんで説明しよう。要するに、まず低出力のレーザー・ビームを「試射」してみて、それによって大気の状態を計測する。そのデータに基づいてレーザー兵器のビームを調整して、最適化した上で撃つという話である。精確な制御と迅速なデータ処理が求められるわけで、この辺りが「軍事とIT」というテーマに絡んでくるところだ。

前述したYAL-1A ALTBでは、まさにこのプロセスを経た上で、発射直後のブースト段階にある弾道ミサイルを撃ち落とす設計になっていたし、実際、それをデモンストレーションで成功させている。

その他のエネルギー兵器

冒頭で述べたように、DEWと言えば一般的にレーザー兵器とマイクロ波兵器を指す。

マイクロ波兵器の主な用途としては、電磁波でもって電子機器を物理的に壊してしまう使い方や、電子レンジと同じように「熱」を発生させて人に不快な思いをさせる暴動鎮圧などが挙げられる。後者の場合、出力を上げすぎると非殺傷性兵器(Non Lethal Weapon)ではなくなってしまう可能性が出てくるので、ほどほどの出力にとどめるところが肝心だ。

マイクロ波兵器もまだ実用化に至ったものは出てきていないが、暴動鎮圧用途であれば、モノを作ってテストした事例はある。ただしこの場合、技術的な実現可能性というよりも、それを使用することに伴う社会的な影響や世間の反応の方が問題になったようである。(そういうところは、イスラエルで開発された悪臭兵器「スカンク爆弾」と似ている)

マイクロ波兵器の場合、ビーム幅の違いによるのか、レーザーほどには高精度の照準は求められないようである。それに暴動鎮圧用途であれば、ある程度の面的な広がりをもってカバーする必要もある。したがって、コンピュータやセンサーを駆使して迅速かつ高精度の照準を行う、というほどの話にはなっていないようだ。