相互運用性を実現するという全体最適に重きを置くのか、個別機能を突き詰めるという部分最適に重きを置くのか。なにも軍事の世界に限った話ではなく、IT業界では日常的に直面していそうな問題だ。

全体最適 vs 部分最適

統合作戦や連合作戦を円滑に遂行する観点から、相互運用性を実現しましょう --- これを否定する人はあまりいないと思われる。ところが、いざ武器や各種のシステムを開発する段階になると、「総論賛成・各論反対」で、相互運用性の実現よりも開発のしやすさや単独のパフォーマンスを優先してしまう。ありそうな話である。

軍事分野の場合、「自国で使うものは自国で作りたい」「自国でも他国と同じものを作れるところを見せたい」等の理由から、資金とリソースをつぎ込んで、あえて既製品の調達(輸入を含む)を避けて、独自のウェポン、あるいは各種のシステムを開発する事例は少なくない。

ところが、当節の軍事作戦は統合作戦・連合作戦抜きには成り立たなくなっている。そうなると、自国の他の軍種、あるいは同盟国との間で相互運用性を確保できていないと面倒なことになる。

独自開発することを全面的に否定するつもりはないが、それは相互運用性にもしかるべき配慮をした上での話だ。独自規格・独自仕様で、自国の他の軍種、あるいは同盟国との相互運用性を欠いたものを作ってしまったら問題だし、ときには国家の死命に関わる問題になる。

ちなみに、独自開発でなくても同様の問題が生じることはある。最近だと、トルコが中国製の地対空ミサイルを導入する、と決定して大騒動になったケースがそれだ。安さと技術移転の好条件に釣られて中国製品の採用を決めたという話なのだが、そこに落とし穴があった。

地対空ミサイルは防空指揮管制システムと連接して稼動する武器だ。当然、その防空指揮管制システムとの相互接続性・相互運用性が問題になるし、防空指揮管制システムに危険をもたらすような製品は接続させられない。そして中国製のFD-2000地対空ミサイルでは、そのいずれの条件でも問題がある。

その結果、トルコはこの件に関して他のNATO諸国から総スカンを食らい、別の製品に乗り換えるべく模索を図っている様子である。当然、導入スケジュールは遅れることになるし、それに付随して余分な費用がかかる懸念も生じるだろう。安物買いの銭失いとは、まさにこのことだ。

費用の問題

ちょっときつい書き方をすれば、前記の話は国防政策や防衛産業政策の問題にとどまらず、「エゴ」や「プライド」の問題でもある。ただ、本当に「エゴ」や「プライド」が根底にあるのなら、相互運用性という全体最適を重視する立場から、トップ、あるいは上司や上官が一喝して軌道修正させることはできそうである。

それと比べると深刻なのが、費用の問題ではないだろうか。つまり、相互運用性を実現するために必要な研究開発や装備調達のための資金を確保できないとか、相互運用性を実現した標準装備・標準技術を導入するための資金を確保できないとかいった話である。

筆者が常々主張していることではあるが、どこの国でも、自国の経済力が許す範囲の軍事力しか支えられない。地獄の沙汰もカネ次第、なんていうことをいうが、軍事の沙汰もカネ次第のところがある。NATOみたいに加盟国が多い組織になると、国によって経済力のレベルが大きく違ってくるから、経済力がある国とそうでない国の間で、戦闘能力だけでなく相互運用性についても格差が生じる懸念が出てくる。

となるとときには、相互運用性の実現を優先して、経済力がある国がそうでない国に対して、資金面で支援するとか、あるいは装備を供与するとかいった形で、相互運用性実現のための支援を提供しなければならない可能性も出てくる。

今日の味方は明日の敵

もうひとつ、安全保障の分野ではありがちな問題だが、味方が常に味方であり続けるという保証はない。すると、先日までは同盟国として相互運用性の確立に腐心してきた相手が、今度は一転して敵に回ってしまった、ということも起こり得る。

すると気になるのが、たとえば「自軍の通信内容が筒抜けになる」とかいう類の問題である。もっとも実際には、本当にセンシティブな内容の通信なら暗号化は行っているだろうし、その暗号化に必要な鍵の情報は固定されているわけではなく、日々、切り替えていくものである。

だから、暗号化を行っていて、かつ鍵の内容が変われば、いきなり通信内容が筒抜けになる事態は起きにくいとも考えられる。とはいえ、ことに戦術・技術・手順(TTP : Tactics, Techniques and Procedures)の分野においては、程度の差はあれ手の内が筒抜けになってしまうだろう。

そうはいっても、「そのうち、何かの拍子に敵に回って手の内が筒抜けになるかも知れないから、相互運用性を確立するのはやめておこう」なんてことをいっていたのでは、同盟関係にも連合作戦にも亀裂が入る。起きるのか起きないのか分からない事態を心配して、目の前にある相互運用性という重大課題を意図的に放置するのは、賢い方法ではない。

逆に、昨日の敵が今日の味方に化けることもある。冷戦崩壊後にNATOに加盟した東欧諸国がそれで、特に通信分野では機材の入れ替えを迫られた。あまり表立っての話は出てきていないが、運用手順の面でも見直しを迫られたであろうと想像できる。

施設の面でも、たとえば飛行場の規格や設備などといったところでは、NATOと旧ソ連圏の間に違いがありそうだ(少なくとも完全一致ということはあるまい)。こういう分野も相互運用性に影響する。

相互運用性と拡張性の相克

相互運用性の実現が重要であることは論を待たない。ただし、相互運用性を実現するために標準化仕様を規定することにも問題がないわけではない。つまり、当初に規定した仕様の範囲から外れたデータは扱えない、あるいは仕様の範囲にない機能は実現できない、という問題につながる可能性がある。

そのことを考えると、必ず守らなければならない共通仕様と、必要に応じて追加できるアドオン的な仕様の部分を分離して、相互運用性に悪影響を及ぼさない範囲で機能拡張を図れるようにする必要があるかも知れない。もちろん、そのアドオンと共通部分の間ではインタフェース仕様の統一が必要になるから、そこで相互接続性・相互運用性の無限ループが起きる可能性もあるのだが。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。