前回のメディア再編成図には、様々な反応があった。

「面白い発想だ」「情報の出所を教えろ」という声もあったが、批判的意見もあった。

特に耳に痛かったのは、ニューヨーク大学大学院でメディア論を学んだ年若きキャリアー・ウーマンに、「結局、河内さんは、新聞の人ね。どうしても新聞の生き残りを優先して考えているんですね」と言われたことだ。

「新聞、テレビの生き残り策」とは異なる大胆な発想必要

ITが広げる世界の可能性がどこまで広がるのか、深まるのか。その「進化」が進行中の今日、マスメディアが直面しているのは、15世紀、グーテンベルグによる活版印刷術発明以来のコミュニケーション革命ではないか。

とすれば、来るべきメディア産業の再編成とは、新聞業界の「生き残り策」であるとか、「テレビ業界の活路を探る」といった、構造不況産業対策からは生まれないはず。

もっとダイナミックな発想と、構想力を持って来ないと、ありうべき世界は、語れないではないか、という意見だった。

まことにもっともな批評で、大いに反省させられた。そこで議論の土俵を広げる意味で、二つの視点を導入したい。

議論の土俵を広げる「二つの視点」とは?

一つは経済産業省が進めているコンテンツ・グローバル戦略の視点。

「日本のコンテンツ産業の国内市場規模は米国に次いで世界2位である。一方で海外市場依存率は1.9%と、米国の17.8%に遠く及ばない」(『コンテンツグローバル戦略報告書』経済産業省 商務情報政策局 2007年9月)。

同報告書では、現在約14兆円のコンテンツ産業規模を、20兆円までに拡大することを提言。そのために取るべき施策を検討している(図1)。

図1 日本のコンテンツ産業国内市場規模(2005年)(出典:経済産業省 商務情報政策局『コンテンツグローバル戦略報告書』)

無論、この中には出版、新聞、画像、テキストが入っているわけで、こうしたビジョンの中で新聞、テレビの新しい産業的位置づけが探れるのではないだろうか。

これに加えて、この報告書で提言されている「バリューチェーンの再構築」(図2)という考え方も参考になる。つまり、「コンテンツがジャンルごとに別々のチャンネルで流通する時代から、ジャンルにとらわれずに提供される時代」へと変化してゆく流れの中で、従来の新聞、通信社、テレビ局、制作プロダクションの"機能"を見直してみたらどうであろうか。

図2 バリューチェーンの再構築(出典:経済産業省 商務情報政策局『コンテンツグローバル戦略報告書』)

図2では、映画、アニメ、小説、漫画、音楽、ゲームなどさまざまなコンテンツを、「垂直型のコングロマリット」で製作し、国内外に配給するスキームを想定している。

このビジネスモデルに、新聞社、通信会社が編集した情報の流れを組み込むことは可能ではないだろうか。

もう一つは、本コラム第15回で紹介した総務省が2011年成立を目指している、「情報通信法」が描いているメディア産業が水平的なレイヤー別に再編成される世界。この二つのベクトルが交差する地平に、「再編成」の解があるのではないだろうか。

次回以降は、こうした視点に立って、"骨太な"メディア再編成論議を展開してみたい。

消費者に一番近い「携帯電話・スマートフォン」が再編の鍵

しかし、その前に前回のシミュレーションで、「次回、そのような再編成が進む理由を説明する」と約束している。その背景事情を簡単に解説しておきたい。

まず、なぜ通信キャリアが再編成の中核となるかだが、理由は簡単。資本力があり、技術力があり、何より「図2」でも分かるように将来の共通コミュニケーション端末は、次世代携帯電話、スマートフォンになるからだ。

iPhoneや、NTTドコモが扱っているブラックベリーの利便性については、若い読者諸君の方が詳しいだろう。単純化していえばスマートフォンはテレビ、PCに代替しうるものだ(機能的に不十分、との議論があるのは承知しているが)。

全ての情報が、ジョウゴのように携帯に流れ込んでくる日は近い。

私の授業をとっている慶応義塾大学の200人以上の学生に、「携帯画像の小ささが気にならないか? 」と聞いたところ、「賛成」は、ゼロ。「小さくても、自分だけのパーソナルさがいい」「PCは"仕事"という感じ、アフター・アワーは携帯がいい」という声が圧倒的だった。

業界の主導権は、消費者に一番近いセクションが握るのは当然である。

次に組み合わせ。これも複雑な背景があるわけではない。NTTドコモはフジ・メディア・ホールディングスの株主、KDDIはテレビ朝日と業務提携関係にある。そうすると残るは、読売新聞社とソフトバンクの組み合わせしかないではないか。

ただ、前回の原稿では、便宜的に「朝日グループ」「読売グループ」という言葉を使ったが、これはグループ経営の主導権を現在の新聞経営陣が握るということを意味しない。

なぜなら再編成が進む中で、新聞業は、限りなくペーパーレスとなり、結果として限りなく現在の通信社機能に近づいてゆくだろう。不動産、印刷業などは新聞社本体から分割されるから規模も現在よりはるかに小さくなる。だからこそ、時事通信と産経新聞の合体も、大きな障害なく進むのだ。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。