日本最大のメディアグループがついに誕生

10月1日、新放送法に基づく認定放送持ち株会社の第一号として「株式会社フジ・メディア・ホールディングス」(豊田皓社長)が誕生した。同社ホームページに掲載された「ごあいさつ」で、代表取締役日枝久会長、豊田社長は以下のように語っている。

傘下の6グループ、19社のグループ経営を主たる業務として、わが国を代表する「メディア・コングロマリット」の形成を目指してまいります。弊社グループでは、この機会をメディアグループとしての「第二の創業期」としてとらえ、「グループ経営の強化、経営資源の選択と集中、事業再編への積極的取り組み」に力を注ぎ、企業価値向上に向けて一層努力をしてまいる所存でございます。

ホールディングスのグループ構成は以下のようなものだ。

フジ・メディア・ホールディングスのグループ構成(2008年10月1日現在、出典:フジ・メディア・ホールディングスホームページ)

故鹿内信隆氏が築き上げたフジサンケイグループは、75社・5法人・3美術館で構成されている。メディア・ホールディングスは、その中から19社を選んで「放送」「制作」「映像音楽」「生活情報」「広告」「出版・情報、その他」――の6系統に再編成した。

グローバル・ビジネス展開へ戦略構築が必要

出資比率の関係で連結対象とならないBSフジが外れているのは当然としても、40%以上の株を保有する産経新聞社が入らなかったのは意外な気がする。表向きの理由として関係者は、「持ち株会社は総務省の管轄を受ける免許事業であり、その傘下に新聞社が入ることは、言論の自由が侵される恐れがある」と言う。

しかし本音部分では、テレビの子会社になることによる新聞側の「心理的抵抗」に配慮した結果とも伝えられている。この関連で一部業界誌には、日枝会長と住田良能社長との不仲説も流された。

しかし、"メディア・コングロマリット"を目指す以上、新聞社の持つ取材網と、解説、論説機能、つまりコンテンツ創出能力は、「メディア・ホールディングス」に不可欠ではないだろうか。単に若干の時間差をつけただけなのかも知れない。

いずれにせよ、グループの連結売上5,754億円、従業員数は4,469人(いずれも08年3月期)という日本最大のメディアグループが誕生したわけである。とはいえ、本コラム第6回でも指摘したように、世界最大のメディア・コングロマリットであるタイム・ワーナーの売上額は464億ドル(約4兆8,720億円、1ドル=105円で計算)で10倍近い。

規模の違い、使用言語(英語と日本語)の制約からくるグローバル・ビジネス展開力のギャップをどう埋めてゆくつもりなのか、戦略構築が待たれる。

"楽天問題"かかえるTBSも12月に認定放送持ち株会社へ移行へ

一方、TBSも12月の臨時株主総会で、認定放送持ち株会社への移行を決議する。TBSには楽天が20%近い株を保有し続けているという特殊な事情がある。しかし今回、認定放送持ち株会社には単一株主が33%超の議決権を保有出来ないという規定が盛り込まれたため、楽天によるTBS買収は法的に不可能となる。

無論、楽天は12月、臨時株主総会で持ち株会社移行決議案に反対するとみられる。だが、採択された場合、会社法に基づいて株式の買い取りをTBS側に請求するか、引き続き筆頭株主でいるかの選択を迫られることになる。

TBSは、すでにテレビ、ラジオ、スポーツ事業など機能別に別会社化しているので、持ち株会社に移行する上での大きな障害はない。むしろ問題は、持ち株会社認定条件に、「持ち株会社の総資産に占める放送事業者の放送関連施設が50%超であること」との規定がある点だった。

TBSは関連事業収入をあげるため、赤坂本社所有地(3万3,000平方メートル)の再開発を進め、39階建てのオフィスビル、マンション、劇場を含む、「赤坂サスカ」を完成したばかり。

これら資産が、「放送関連施設」と認められるかどうか、微妙なところがあった。総務省との水面下の折衝で、なんとか、「赤坂サカス」内の劇場などを、中継、放映のための「放送関連資産」と認定してもらうことで臨時株主総会開催にゴーサインが出た。

テレ朝社長は「情報・通信企業との大胆な提携」目指す

もう一つ動向が注目されているのがテレビ朝日(君和田正夫社長)だ。言うまでもなく同社は今年6月、朝日新聞社の筆頭株主である村山美知子氏保有の朝日新聞社株38万株(11.88%)を一株当たり63,000円、総額239億円で買い取った。

メディア再編成の観点から注目されるのは、朝日新聞社の第4位株主になったテレビ朝日が、朝日新聞社株主総会で議決権を行使できるようにするための処置だ。つまり朝日新聞社は、保有している35.92%のテレビ朝日株のうち10.92%を手放すことになった。25%以上の出資を受ける側の会社は、相手先の株式を保有していても議決権を行使できない。

6月6日の記者会見で朝日新聞社の秋山耿(こう)太郎社長は、「より対等なパートナーとなるため」と語った。しかし、記者団が聞き耳を立てたのは、同席していた君和田社長が放出される同社株に関連して、「情報・通信企業との大胆な提携も今後模索し、環境が激変する時代を生き抜くメディアを目指す」と語った時だった。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。