Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。今回も、Flashアニメーションでキャラクターを活き活きと見せる表情の演出を考えていく。

キャラクターの「口パク」について考える

前回、キャラクターを活き活きと見せる方法として紹介した「目パチ」に続き、今回は「口パク」について考えてゆきます。

口パクとは、キャラクターの口をパクパクさせてしゃべっている様に見せる方法です。基本的には、人間やキャラクターが「あ、い、う、え、お、ん」としゃべる発音に合わせて、口を描いてゆけばよいのですが、全ての音に丁寧に口の作画を合わせてゆくと、大変な手間がかかります。また、必ずしもアニメ制作の時に、録音済みの音声の方が先にある訳ではないので、あまり現実的ではありません。ただ、予算や時間の潤沢な3Dアニメーションの場合等には、「プレコ」といって、先に役者の音声を全て収録し、それに合わせて口の動きを正確に付けるという場合もあります。海外の作品等では、ここを大変丁寧にやっている作品も多いです。

日本では「あ、い、う、え、お、ん」に口を対応させれば大体のセリフに対応できますが、英語では、「A、L、VF、W、TSD、O、U、E、BMP+閉じ」というように、より音節に対して複雑な口の形の表現が必要とされます。もちろん、簡略化や複雑化はプロジェクトによってまちまちです。口と動きが完全にシンクロした方が、それはそれで気持ちのいいものですが、そうも言っていられないので、ここはさくさくと作ってゆく為に素晴らしきリミテッドアニメーションの手法の恩恵をうけましょう。

リミテッドアニメーションの口パクの基本は、「開き口」、「半開きの口」、「閉じ口」という3種類をランダムに表示させればよいというものです。しかし、単調なランダムは、口がぱちぱちするばかりでちょっと違和感を感じてしまいます。そこで、僕が普段使う方法は、A.e.Suckさんの書籍『FLASHアニメーション制作バイブル』にも書かれている、3種類の状態の口を使うという手法を用い、15fpsのアニメに対して「開き3フレーム+中間3フレーム+開き2フレーム+閉じ2フレーム」というループを好んで使っています。基本的には、しゃべっている時には、このループを回し、黙っている時にはこのループを止めるという感じです。

サンプル動画 ランダムとループ

普通のしゃべり方であれば、これで対応できると思います。しかし、「あ~ん」とか「なんかだり~し~」という様な、抑揚やリズムの変化がある場合には、出来る限り対応した方が仕上がりがきれいになります。

僕の場合、大体のセリフを自分でまず録音し、音声ファイルをFlashのタイムラインに貼ります。すると、ウェーブフォームが表示されます。そして、プロパティパネルの「同期」を「ストリーム」にすれば、タイムライン上でその音声が再生できます。これらのフォームの形や、スクラブで再生する音声を参考に大体のセリフの当たりをつけてゆきます。さらに、空白タイムラインをつくり、そこに、キーフレームを入れ、ラベル名の部分にセリフを描き込んでゆきます。この時に、セリフが続くところはひと塊として、「あー」、「うー」とのびる所は改めて、そこにキーフレームを入れてゆきます。

口パクさせるための準備

ここまで準備し、後は話しているところでは口パクのループを動かし、「あー」、「おー」と伸びる部分では開いた口で制止、「いー」、「うー」、「えー」では半開きで停止、「んー」では閉じた口で停止。という風に割り振ってゆけば、きれいな口パクになります。

ディフォルメされたキャラクターであれば、口の部分を3パターン準備しますが、写実的なキャラクターであれば、口だけでなく、アゴまで含めて作画します。また口ひげがあれば、開いている口は広角が上がるため、ひげも持ち上げられる様に作画し、閉じている時は下がっているように描きます。その他にも、口回りのしわや、ふくよかなほっぺた等、口の動きに付随するものがあれば、ある程度丁寧に描いた方が上手くゆくでしょう。

この口パクですが、決めセリフや、大きな声で叫ぶ所等では、ある程度言葉と合わせて作画してゆかないと、「ちょっと合っていないなぁ」という印象を受けてしまうので、重要な部分では、やはり口の形をきちんと作画した方が良いです。

口パクと目パチを合わせて使うと、1枚の絵でも音声を付けてある程度見れるものになりますし、キャラクター同士の掛け合い等になると、これだけで会話劇を構成することも可能です。また商品解説や、ナビゲーションを目的としたアニメーションでは、このふたつの技法のみで構成されているものあります。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメ『BABY&GIRLS アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。