【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

たまに友人・知人から異業種食事会のような社交の場に誘われることがある。元来、僕はあまりアクティブな性格をしておらず、仕事も他人と絡むことが少ない謎の執筆業者のため、こういう場に誘われたらなるべく足を運ぶようにしている。もしかしたら、仕事の人脈が広がるきっかけになるかもしれない。友達ができるかもしれない。

先日もそうだった。友人の某氏に誘われ、詳しいことを聞かされないまま、ある食事会に参加したのだが、その席で様々な業種の方と知り合った。どんな業種であれ、その世界の最前線で活躍されている方の話は興味深い。あわよくば絶好のネタにもなる。

中でも印象に残ったのは、見た感じ30歳ぐらいの某女性の話だ。彼女は都内の小さな花屋さんでアルバイトをしている独身のフリーター女史である。郷里の地方都市の高校を卒業後すぐに上京し、それ以来どこかの企業に正社員として入社したことは一度もなく、ずっと様々なアルバイトを転々としながら、生計を立てているという。

彼女が正社員の道を選ばなかった最大の理由は、今も昔もアルバイトのかたわらでタレント活動をしているからだ。なんでも20歳のころに、あるタレント事務所にスカウトされたことをきっかけに芸能界に入り、将来は女優になることを夢見て地道な下積み活動を続けてきたという。その下積みとは、雑誌の水着モデルやドラマ・CMのエキストラといった類の仕事だ。要するに、彼女は売れないアイドル稼業を長年続けているわけだ。

もっとも、彼女の年齢はどう低く見積もったとしても30歳前後である。確かに綺麗な女性ではあるのだが、年齢的なことを考えると、さすがにこれから芸能界で大ブレークすることは難しいだろう。実際、最近の彼女はますますタレント仕事が減っており、週6回は花屋さんのアルバイトに精を出しているらしい。それならば、ここらへんできっぱり芸能界から足を洗い、堅実な道を歩み直すのも手かもしれない。余計なお世話ですね。

しかし、それでも彼女は現在のアイドル兼フリーターの生活を変えるつもりはないという。仕事があろうがなかろうが、あくまで芸能界に足だけは突っ込んでいたい。極論、「タレント事務所に所属している」という肩書だけでも保っておきたいらしい。

また、彼女が現在の生活に特に不満を抱えていないことも、芸能界から足を洗わない理由のひとつなのではないか。彼女はどこでどう金を捻出しているのかはわからないが、着ている洋服や身に着けているアクセサリー群もいちいち高級ブランド品であり、現在の住居も某高級住宅街の賃貸マンションだという。おそらく、家賃はかなり高額だろう。

これはあくまで僕が見聞きしてきた傾向のひとつであるが、それなりに美しい女性が多いアイドル稼業の場合、たとえ売れなかったとしても、男性の芸人や役者などのように生活が困窮することは少ない。アイドルはいわゆる開店休業状態になったとしても、"ある理由"によって、他人が羨むような優雅な暮らしを手に入れられる可能性があるわけだ。

たとえば、昔ある仕事で知り合った某アイドルは芸能界ではまったく売れていなかったものの、30歳を前にしてIT企業の社長と結婚したことで芸能界から足を洗い、現在は社長夫人となった。そのセレブな生活ぶりがあまりに厭味に見えたので、僕はついつい「昔は全身にオイル塗って水着で相撲とってたくせに」と過去を暴露したくなる。なんでも旦那から生活費とは別の小遣いとして、月100万円もらっているそうな。

また、別の元無名アイドルは現在都内一等地に居を構えるお洒落な飲食店の女性オーナーであり、年収は1000万を超えているという。アイドル時代は雑誌のグラビアや深夜バラエティ、深夜ドラマのお色気担当ぐらいしか仕事がなかったことを考えると、彼女には芸能より商売の才能があったということかもしれないが、よくよく事情を聞いてみれば、青年実業家である彼氏が店のスポンサーらしい。ちなみに、彼女の現在の自宅は六本木の高級マンションだとか。もちろん、家賃は彼氏が支払っているという。

要するに、美人はやっぱり得だということなのだ。特にアイドルの場合、どんなに芸能界で落ちぶれたとしても、その先に必ず結婚という人生一発逆転ホームランのチャンスが待っている。しかもビジネスの世界で成功を遂げた男の多くは、往々にして金と権力の次に美人妻という名誉を求め、さらにそこに芸能人という肩書きがついていたほうがステータスを得られると考えている(と思う)。ブランド品集めみたいなものだ。

したがって、運良く美人に生まれた女性は、たとえ実利を伴っていなくとも芸能界に足を突っ込んでいるという事実を作っておいたほうが得なのだろう。そのほうが世の金持ち男性の婚活ターゲットにはまりやすく、一般社会で地道に生きているより、いわゆる「玉の輿」に恵まれる確率が高くなる。悔しいが、それもまた現実なのだ。

なお、前述のアイドル兼フリーターの女性の場合もやはりそうだった。彼女が一向に芸能界を辞めない理由について、よくよく訊いてみたところ、こんな言葉が返ってきた。

「わたしにとって芸能活動は婚活の一環だから」。

生々しいが、非常に説得力のある言葉だ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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