携帯電話キャリア各社の2010年度上期連結業績をみると、スマートフォンへの取り組みの差が、少なからず影響していることがわかる。

NTTドコモの2010年度上期の営業収益は前年比0.4%減の2兆1,382億円、営業利益は9.5%増の5315億円、当期純利益は8.8%増の3,097億円と減収増益。KDDIの移動体通信事業は、営業収益が前年同期比2.4%減の1兆3,052億円、営業利益は9.0%減の2,477億円、当期純利益が15.6%減の1,409億円と減収減益。これに対して、スマートフォンで先行しているソフトバンクの移動体通信事業は、前年同期比13.0%増の9,400億円、営業利益が57.3%増の2,072億円と大幅な増収増益を達成している。

NTTドコモの山田隆持社長が「純増数が、前年同期に比べて23万増加し、81万件となり、総販売数が3年ぶりに増加して、924万台となった。データカードやスマートフォンの販売が好調だったことが影響している」とすれば、KDDIの小野寺正社長は「純増シェアが悪化しているのは、スマートフォンがなかったことが理由。これが他社への流出にもつながっており、第2四半期はMNPでマイナスになっている」などとした。

これに対して、ソフトバンクの孫正義社長は、「純増数は上期で160万に達しており、これは前年同期の2.3倍。iPhoneの好調がそれを支えている」と語る。

GALAXY Sでスマートフォン戦線のトップを狙うNTTドコモの山田社長

GALAXY S発売イベントに登場した女優の堀北真希さん

スマートフォンのラインナップ拡充を宣言したKDDIの小野寺社長

スマートフォン市場の中でもいまだダントツの強さを誇るiPhone

各社経営トップが語るように、スマートフォンが業績そのものを左右する事態へと変わってきたともいえる。

携帯電話を製造するメーカーも、やはりスマートフォンが携帯電話事業の業績を左右している。

Appleは、2009年10月 - 2010年9月までの1年間における全世界へのiPhoneの出荷台数は3995万台。そのうち、第3四半期(4 - 6月)の出荷台数は61%増の840万台、iPhone 4が発売された第4四半期(7 - 9月)の出荷台数は91%増の1410万台と大きな成長を遂げている。

第4四半期の売上高、最終利益はいずれもApple創業以来の記録的数字であり、米Appleのスティーブ・ジョブズCEOも、その理由のひとつとして「第4四半期にはiPhoneの販売台数が1,410万台となり、RIMが直近に発売した1,210万台を楽に上回った」ことをあげている。

日本でのiPhoneの出荷台数は明らかにされていないが、調査会社などによると、年間250万台以上が出荷されていると見られており、スマートフォン市場全体の8割を占めているという。

その一方で、スマートフォンに出遅れた国内の携帯電話メーカーは、厳しい決算内容となっている。

シャープの携帯電話事業は前年同期比5.1%減の2,149億円。販売台数は3.6%増の531万台となっている。「既存の携帯電話市場がシュリンクする一方、スマートフォン市場が拡大する傾向があるが、シャープはこれをチャンスと捉えて、オープンOSを搭載しながらも、シャープ独自のオンリーワン技術を採用したスマートフォンを投入する。さらに、12月からは電子ブックサービスをスタートするなど、商品単体だけに留まらない事業へと踏み出す考えだ」とし、今後のスマートフォン事業による巻き返しに意欲をみせる。マイクロソフトと共同で展開したKINが、米国市場で販売終了となるなど、上期はつまづきをみせたが、下期のスマートフォン戦略はサービスを加えて万全な体制で挑む考えだ。

東芝の携帯電話事業を統合した富士通は、パソコン/携帯電話の売上高が5%増の3,896億円。携帯電話の出荷台数は300万台となり、前年の281万台を上回った。東芝の統合による業績への影響は2010年度下期以降となるため、今回の携帯電話の出荷台数増は同社の実力によるもの。らくらくホンの好調ぶりに加えて、新機種投入効果があったという。だが、スマートフォンへの投資などが増加傾向にあるとして、営業利益への影響を指摘。今後、スマートフォンへの参入に意欲をみせる。

NECは、携帯電話とPCをあわせたパーソナルソリューションの売上高が前年同期比8.2%増の3,921億円、営業利益が64.6%減の29億円となった。パーソナルソリューションは、売上高、営業利益ともに計画に未達。なかでも携帯電話機事業の競争激化による販売不振が響いたという。携帯電話の上期出荷台数は前年同期比9.1%増の240万台。だが、カシオ、日立の携帯電話事業を統合したことを考えると成長率は決して高くはない。スマートフォン投入の遅れが響いているのは確かだ。同社では、パーソナルソリューションの業績予想達成に向けて施策のひとつとして、年度内にAndroid搭載のスマートフォンの海外投入、新端末による垂直統合ビジネスの立ち上げを掲げるほか、さらに来年度上期には同スマートフォンを国内市場に投入し、この分野での存在感を高める姿勢を示している。

パナソニックは、携帯電話事業を担当するパナソニック・モバイル・コミュニケーションズ(PMC)の売上高が16%減の1,397億円、営業利益が34億円減少の63億円と減収減益。だが、第2四半期だけでみると、増収増益に転じているという。新製品投入などの効果があったものがプラスに働いたといえる。

Sony Ericssonは、第2四半期実績が売上高が1.0%減の16億ユーロ、税引前利益は6,500万ユーロと前年同期の2億200万ユーロの赤字から黒字転換。純利益も5100万ユーロと、前年同期の1億6,500万ユーロの赤字から黒字化した。製品ポートフォリオの見直しにより、携帯電話の販売台数が減少したものの、Xperiaによるスマートフォンへの注力により、製品ミックスが改善。平均単価が上昇したという。

京セラは、通信機器関連事業の売上高が53.3%増の1,222億円、事業利益は前年同期の75億円の赤字から、19億円の黒字へと転換した。国内での携帯電話販売が好調に推移したことに加えて、米国を中心とした海外での新製品投入に伴う販売増加が影響。さらに利益面ではウィルコム向け債権に対する追加の貸倒損失として7億円を計上したが、事業構造改革の成果と海外の携帯電話事業の収益改善が貢献し、赤字から黒字転換したという。同社では、通信機器関連事業の通期見通しを修正。売上高は4月の予想値に比べて、280億円増の2,280億円とした。

このように、2010年度上期の各社の業績をみると、スマートフォンの取り組みが、少なからず影響を与えていることがわかる。国内メーカーの携帯電話事業が低迷している理由のひとつに、スマートフォン投入の遅れがあることは、各社のコメントからも明らかだ。そして、下期から来年度にかけて、その影響度はさらに大きくなるだろう。

出遅れた感が否めない国内メーカーのスマートフォンの今後の取り組みが注目される。