クレイのスパコンが世界一に返り咲き

最新版の「スーパーコンピュータランキングTOP500」が発表された。

これまで2位に甘んじていたクレイ製のスーパーコンピュータである「Jaguar」が、初めて首位を獲得。IBMのRoadrunnerをトップから引きずりおろした。JaguarはクレイのCray XT5を活用したスーパーコンピュータで、オークリッジ国立研究所に導入。今回の調査によると、LINPACKによる性能は1.75ペタFLOPSを記録したという。2位となったロスアラモス国立研究所のRoadrunnerは、1.04ペタFLOPSとなり、前回の調査時の1.11テラFLOPSをやや下回る結果となった。

スーパーコンピュータランキング ベスト10(TOP500から抜粋)

順位 コンピュータ / 年 ベンダ 設置場所 /国 コア数 性能(TFLOPS/秒) 理論性能(TFLOPS/秒) パワー
1位 Jaguar - Cray XT5-HE Opteron Six Core 2.6 GHz / 2009 Cray Oak Ridge National Laboratory /米国 22万4,162 1759.00 2331.00 6950.60
2位 Roadrunner - BladeCenter QS22/LS21 Cluster, PowerXCell 8i 3.2 Ghz / Opteron DC 1.8 GHz, Voltaire Infiniband / 2009 IBM DOE/NNSA/LANL /米国 12万2,400 1042.00 1375.78 2345.50
3位 Kraken XT5 - Cray XT5-HE Opteron Six Core 2.6 GHz / 2009 Cray National Institute for Computational Sciences/University of Tennessee /米国 9万8,928 831.70 1028.85
4位 JUGENE - Blue Gene/P Solution / 2009 IBM Forschungszentrum Juelich (FZJ) /ドイツ 29万4,912 825.50 1002.70 2268.00
5位 Tianhe-1 - NUDT TH-1 Cluster, Xeon E5540/E5450, ATI Radeon HD 4870 2, Infiniband / 2009 NUDT National SuperComputer Center in Tianjin/NUDT /中国 7万1,680 563.10 1206.19
6位 Pleiades - SGI Altix ICE 8200EX, Xeon QC 3.0 GHz/Nehalem EP 2.93 Ghz / 2009 SGI NASA/Ames Research Center/NAS /米国 5万6,320 544.30 673.26 2348.00
7位 BlueGene/L - eServer Blue Gene Solution / 2007 IBM DOE/NNSA/LLNL /米国 21万2,992 478.20 596.38 2329.60
8位 Blue Gene/P Solution / 2007 IBM Argonne National Laboratory /米国 16万3,840 458.61 557.06 1260.00
9位 Ranger - SunBlade x6420, Opteron QC 2.3 Ghz, Infiniband / 2008 Sun Microsystems Texas Advanced Computing Center/Univ. of Texas /米国 6万2,976 433.20 579.38 2000.00
10位 Red Sky - Sun Blade x6275, Xeon X55xx 2.93 Ghz, Infiniband / 2009 Sun Microsystems Sandia National Laboratories / National Renewable Energy Laboratory /米国 4万1,616 423.90 487.74

半年に一度発表されるスーパーコンピュータランキングTOP500は、世界最高の性能を誇るコンピュータをランキングするもの。1位と2位が入れ替わっても、ペタの世界で競う米国製のスーパーコンピュータが、引き続き首位を獲得したことには変わりはないが、ランキングを見ると、政府をあげて投資を加速している中国のスーパーコンピュータ「Tianhe-1」が5位にランキングされるなど、新たな動きも見逃せない。

事業仕訳による予算凍結で日本のスパコンはどうなる?

こうしたなか、日本では、次世代スーパーコンピュータの開発に関わる2010年度予算が事実上凍結されるという動きが見られた。

鳩山由紀夫首相を議長とする行政刷新会議が進めている事業仕訳において、2012年度の本格稼働を目指し、理化学研究所に導入される次世代スーパーコンピュータの開発計画の2010年度予算が、「見送りに限りなく近い縮減」と判断されたからだ。

この次世代スーパーコンピュータは、世界一の処理能力となる10ペタFLOPSの実現を目指して開発が進められていたもので、今回首位となったJaguarの約8倍の性能を誇る、世界一の処理能力を実現することになっていた。一般のPCに比べると約50万倍の性能だ。

当初、同プロジェクトには、富士通、NEC、日立製作所の3社が携わっていたが、今年5月、NECと日立が業績悪化を背景に、このプロジェクトへの不参加を表明富士通1社でこれを開発する体制となっていた。富士通では、世界最高速となる128GFLOPSの性能を持つ「SPARC64 VIIIfx」を開発。同CPUを数万個搭載することで、世界最高性能のスーパーコンピュータを実現するプランを公表していた。

富士通が開発した128GFLOPSの「SPARC64 VIIIfx」は世界最速のスパコンをめざして開発されたCPU。NECと日立は撤退、事業仕訳で大幅予算削減の状態に、富士通はどう対処するのか!?

日本製のスーパーコンピュータは、2002年にNECが稼働させた地球シミュレータが首位を獲得して以来、トップの座を米国製スーパーコンピュータに譲っている。2012年に、次世代スーパーコンピュータが稼働すれば、まさに10年ぶりに首位に返り咲くことが濃厚だった。だが、今回の仕訳作業による事実上の予算凍結によって、日本製スーパーコンピュータの世界一への返り咲きはきわめて難しくなったといえる。

ハイパフォーマンスコンピュータの台頭とスパコンの位置づけ,

スーパーコンピュータの役割は、気候シミュレーション、災害シミュレーションといった環境関連分野における計算のほか、電機や自動車などの製造業におけるシミュレーション用途や構造計算、パラメータ設計、医療分野における新薬の開発などの解析にも利用される。たとえば自動車業界において、エアバッグのシミュレーションなどにも利用され、製品開発に欠かすことができないシミュレーションツールとなっている。応用分野は、構造解析、衝突解析、流体解析、気象予報、計算科学などのほか、ナノ・材料分野、バイオ、連成解析・マルチスケール解析、金融工学などにも広がっているほどだ。

つまり、あらゆる科学技術の研究開発で必要とされる膨大で複雑な計算処理を実現するものであり、演算処理速度においては、一般的なコンピュータよりも高速な計算を行えるのが特徴だ。

そして、1980年代後半から、各国の先端科学技術投資の象徴的存在となっていたのも事実だ。

だが、その一方で、x86サーバなどをクラスタ化した中小規模のハイパフォーマンスコンピュータが注目され、企業などへの導入が加速しているという状況もある。

IDCの予測によると、スーパーコンピュータ市場は2010年には全世界で約100億ドル。これが、2012年には156億ドルに拡大すると見ている。この予測においても、クラスタ型のハイパフォーマンスコンピュータなどの活用によって、中小規模システムが急速に増加すると見ており、公的な研究機関への導入よりも、今後は企業への導入などが促進されるものと予測している。

スーパーコンピュータランキングTOP500では、企業内に導入された研究用/シミュレーション用のスーパーコンピュータのすべてが網羅されているわけではない。そのため大手企業が所有するスーパーコンピュータが、どの程度の性能を持っているのかは明らかでない。しかし、サイト数では約6割が企業における導入とされており、インドのタタ社、フランスのトータル社などは高性能のスーパーコンピュータを導入していることで知られ、2012年度には、企業でもペタクラスのスーパーコンピュータの導入が見込まれている。

話は戻るが、日本が開発している次世代スーパーコンピュータが世界一を逃したことは、プライドだけの話ではなく、むしろ、これによって日本における研究開発の遅れなどにつながる可能性が高いことが問題だ。つまり、研究、学術、産業分野での活用、研究者による研究レベルの引き上げという点で、少なくとも1年の遅れが出てくることになろう。今回の政府によると、事実上の予算凍結は、その点が懸念されるのだ。