返信率92%とはなにか

飽きるほどテレビCMが流れていた「755」。「新世代トークアプリ」と銘打ち、「AKB48」や「E-girls」のメンバーと会話ができる時代になったと喧伝します。

公式サイトには「芸能人と話せる!」と宣言していますが、実際には「ツイッター」のような「チャット」的なやり取りに過ぎず、語弊のある表現です。

もっとも、ネット界隈では別の「語弊」が話題になっていました。公式サイトはもちろん、アプリの説明文のなかで

「芸能人・有名人の返信率92%以上!」

と謳っていたのです。芸能人や有名人の顔写真に重なるように「芸能人・有名人返信率92%以上」とあれば、送ったメッセージの92%に「返事」がくると受けとるのが一般的な解釈です。しかし、

「755を利用する芸能人・有名人のうち92%の方が返信を行うことで一般ユーザーとコミュニケーションを取っている」

と運営代表者がツイッターで回答。つまり、有名人がたった1回でも、一般人の誰かに返信すれば「返信率」としてカウントしていたのです。そもそも「755」の「有名人」には、「だれ?」と戸惑う「無名級」も多く、「詐欺」と断定はしませんが「優良誤認」の疑いは否定しきれません。

暗躍するホリエモン

ユーザーからの指摘に、先の「92%」は撤回されましたが、その当時「755」の公式サイトで目を惹いたのが「ホリエモン」こと、元ライブドアの堀江 貴文氏です。「755」を運営する「株式会社7gogo(ナナ・ゴーゴー)」には、彼がオーナーの「SNS株式会社」と、盟友藤田晋氏が社長を務める「株式会社サイバーエージェント」が共同出資しています。

堀江氏は「755」により、再び、上場企業の社長を目指しているのでしょうか。自伝的小説がゴーストライターによるものだったと暴露され、出会い系アプリをリリースするも、ログインできない不具合が発覚。また、都知事選挙をきっかけに「インターネッ党」を立ち上げるも開店休業が続くなか、かつての成功体験であるIT系で「夢よふたたび」と願っているのかもしれません。

しかし、サービス名の「755」とは、堀江氏の刑務所時代の囚人番号。私のデスクの引き出しに眠る、すでに紙切れとなった「ライブドア株」から不気味な波動を感じるのは気のせいでしょうか。

罪状は繰り返すのか

不気味な波動に導かれて「ネットで検索」をしてみると、不思議なことに気がつきます。サイバーエージェントのプレスリリースや、「755」の運営会社「株式会社7gogo」の公式サイトにも「資本金」が掲載されていないのです。

アプリ系の企業は、さほど資本力を必要としませんが、資本金は企業体力の指標で未記載は不自然です。どちらにも「株式会社サイバーエージェント50%、SNS株式会社50%」と出資比率が記載されていたので、東証一部上場企業であるサイバーエージェントに問い合わせてみました。

迅速に届いた返信メールにあった資本金は740万円。直近決算資料によれば2052億円を誇る上場企業にしては少額ですが、小さく産んで大きく育てるはITベンチャーの常道です。ところがそれから1時間5分後「修正」と題したメールが届き、そこにあった出資比率はこうです。

「当社の持株比率は51%となり、49%は、SNS株式会社など」

プレスリリースは2013年6月3日であり、その後で出資比率が変わったのかも知れません。ただ、その一方で「株式会社7gogo」は執筆時点の現在(2015年1月8日)も50%のまま絶賛公開中です。しかも「など」という表記から、出資比率はさらに低いとみるべきでしょう。

受刑者は反省しない

堀江貴文氏が獄につながれた容疑は「偽計、風説の流布」。つまり、投資家に虚偽の情報を提供したということで、返信率92%や出資比率などに通じます。

彼は極度に数字に弱い「数字0.2」なのでしょうか。一方で、気になるのは囚人番号をアプリ名、そして社名にしていることです。

無期懲役囚の美達大和受刑者による『死刑絶対肯定論 (新潮新書)』によれば、犯罪者のほとんどが反省しないといいます。

極悪非道の殺人鬼は逮捕されたことを「運が悪かった」としか思わず、時には「そこにいた」というだけで殺してしまった被害者に責任転嫁すると言います。

先の前科において「運が悪かった」としか、受け止めていないとしたら、「アバウト」な数字は奇妙な符合ではなく「確信犯」です。

堀江貴文氏が「オーナー兼従業員」を名乗る「SNS株式会社」とは、「ホリエモンロケット爆発 打ち上げ実験失敗」とスポニチで報じられたように、ロケット打ち上げビジネスを目指す会社です。

堀江氏は「六本木ヒルズの寵児」と呼ばれていた時代から、宇宙ビジネスに興味を示していました。そして「SNS株式会社」のサイトでも

「堀江氏の宇宙開発関係の活動実績(年表)」

と紹介されていますが、そこでまた、気になる数字を発見します。

「2006.1.18 JAXA 産学官連携シンポジウム・パネルディスカッションモデレータ(都合により参加できず)」

この日付の2日前、旧ライブドアへの強制捜査が行われており「都合」どころではありません。また、この日はかつての同僚が沖縄で亡くなった日。これを日付入りでわざわざ「明記」するところに、彼という人物が見えてくる気がしてなりません。

とはいえ、すべては「邪推」であり、数字の間違いは諸事情による"よくある話"です。

本稿は今回、めでたく「300回」を数えていますが、システム上のトラブルから「296回」が欠番になってしまったことからの「繰り上げ」であり、本当は次回が「300回」です。「0.2」を伝える本稿の回数が「-1」だと懺悔しておきます。

エンタープライズ1.0への箴言


性根は変わらない……かもしれない

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」